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特定の経済主体における経済活動とその結果について、それに関与しない者が、その正確性、適正性あるいは妥当性などを判断し、その者(監査人)の責任において意見を表明すること。監査の対象は、経済活動に関するものに限られ、政治活動や文化活動は対象とならない。監査の中心は、企業に対する職業監査人の会計監査(とりわけ財務諸表監査)であるが、このほかに官公庁や非営利団体の監査、会計以外の諸業務についての業務監査などもある。監査人は、「自己証明は証明に非ず」といわれるように、被監査者(企業、団体も含む)と利害関係のない独立の第三者であることが要件となる。また、監査人の判断については、経済活動が複雑になるにつれ、高度に専門化される。そこで、なんらかの判断基準(会計原則といったもの)を設定しておき、それへの準拠性をもって適否、当否などを判断することとなる。監査の結果として、監査人は意見の表明をするが、これに対しては、監査人に責任が負わされる。とりわけ、職業監査人の意見表明に対しては、厳しい責任が課せられ、ここに監査に対する社会的信頼が得られる。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]
企業の監査は、近代の株式会社制度の発展に伴い成立した。近代監査は、1602年に設立をみたオランダ東インド会社において、重役の専横に対して設けられた監査委員会に端を発するとされる。
イギリスでは、1720年の南海泡沫(ほうまつ)会社事件を契機に会社の設立に制約を加えていた泡沫会社取締条例Bubble Actが1825年に廃止された。その後制定された1844年会社登記法は、会社の設立を登記によることとし設立を容易なものとしたが、その見返りとして考えられたのが監査制度であった。すなわち、取締役の専横や不正に対する自己監督機能を果たすものとして、株主のなかから選任された監査役の監査を義務づけたのである。その後、監査役は株主に限定されず、しだいに勅許会計士Chartered Accountantが選任されるようになり、1948年会社法は、株式会社の監査役は勅許会計士などの職業会計人に限ることとした。2006年会社法では、公開会社の会計監査役は個人または会計事務所がなることができ、その資格要件として四つの勅許会計士協会の会計士認可監督団体の会員であることが決められている。
アメリカでは、1929年のニューヨーク証券取引所の株式大暴落を契機に大恐慌へと進むが、そこで証券市場の健全化、投資家保護が叫ばれ、1933年証券法および1934年証券取引所法が連邦法として成立する。これにより、上場会社や一定金額以上の資金を証券市場から調達する会社などのいわゆる公開会社に対し、投資家への情報提供として、企業内容の開示(ディスクロージャー)が義務づけられた。このディスクロージャーの重要な部分を占めるのが財務諸表の公表であり、この財務諸表に対し、粉飾決算の発見・防止のため公認会計士監査が強制されることとなった。ここに、今日の財務諸表監査が確立する。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]
監査対象の違いから、会計監査(会計帳簿や財務諸表の監査)と業務監査(会計以外の諸業務活動の監査)に分類されるが、さらに前者は、精密監査、貸借対照表監査(信用監査)および財務諸表監査からなる。また、監査が法律により強制されるか否かにより、法定監査と任意監査に分類される。また、監査人が公認会計士などの外部の者か否かにより、外部監査と内部監査に分類される。あるいは監査人別に、監査役監査、公認会計士監査、内部監査人監査という分類もある。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]
日本における株式会社に対する監査制度は次のとおりである。
(1)会社法上の監査制度 旧商法においては、すべての株式会社には監査役監査が義務づけられていたが、改正会社法(2006年5月施行)においては、監査役の設置は任意となった。しかし、取締役会設置会社と会計監査人設置会社には原則、監査役監査が義務づけられている。それ以外の会社は、定款の定めによって任意に設置することができる。監査役の権限は、旧商法においては、小会社(資本金1億円以下の株式会社)の監査役は会計監査権限のみしか有していなかったが、改正会社法においては、原則として、監査役はすべての株式会社において業務監査と会計監査の権限を有するものとされた。ただし、非公開会社(すべての種類の株式が譲渡制限株式からなる株式会社)では、定款で監査役の権限を、会計監査に限定することができる(監査役会設置会社、会計監査人設置会社は除く)。
監査役はとくに職業監査人たることを要しないことから、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)に対しては、別に会計監査人(公認会計士または監査法人に限る)の監査が義務づけられている。
(2)金融商品取引法上の監査制度 発行価額または売出価額の総額が1億円以上の有価証券の募集または売出しをなそうとする会社は、あらかじめ「有価証券届出書」を内閣総理大臣などに提出しなければならない。また上場有価証券の発行会社、店頭登録株式の発行会社などは、毎決算日後3か月以内に「有価証券報告書」を内閣総理大臣などに提出しなければならない。この有価証券届出書と有価証券報告書により企業内容の開示が行われることとなるが、このなかに財務諸表が含まれ、公認会計士または監査法人の監査が義務づけられている(金融商品取引法193条の2)。
なお、上場有価証券の発行会社等は、2008年(平成20)4月1日以後に開始する事業年度から内部統制報告書を有価証券報告書とあわせて内閣総理大臣等に提出することが義務づけられた。この内部統制報告書は、公認会計士または監査法人の監査対象となっている(金融商品取引法193条の2第2項)。
日本の監査は、このように会社法と金融商品取引法との二つの法律によって行われている。ただし、監査をそれぞれ行うということではなく、共通した手続で実施することになっている。しかし、会社法と金融商品取引法において要求される財務情報などの法定開示書類が異なるため、監査報告書はそれぞれ作成される。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]
『守屋俊晴著『監査人監査論 会計士・監査役監査と監査責任論を中心として』(2012・創成社)』▽『盛田良久・百合野正博・朴大栄編著『はじめてまなぶ監査論』第2版(2020・中央経済社)』▽『長吉眞一・伊藤龍峰・北山久恵・井上善弘・岸牧人・異島須賀子著『監査論入門』第5版(2022・中央経済社)』▽『山浦久司著『監査論テキスト』第8版(2022・中央経済社)』
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