地方公共団体の住民に直接、参政の機会を与えるため認められた制度で、直接民主制の原理に基づいて、地方自治法に規定されている。広範で複雑多岐にわたる地方政治の運営は、住民の代表者たる議会にゆだねるという代表民主制の方式によらざるをえないのであるが、「地方自治の本旨」に基づく住民自治の要請に応じて、地方住民が直接その意思を表明する道を与えておくことが必要である。この観点から地方自治法はそのような制度として、直接請求の制度を規定した(12条・13条・74条~88条)。直接請求は、一定数以上の選挙権者が連署をしたうえで、その代表がすることになっており、個々の住民が請求するのではない(個々の住民ができるのは住民訴訟である)。また、署名運動については、その濫用防止のため厳重な規制が加えられている。
[池田政章]
条例の制定改廃の請求、事務の監査請求、議会の解散請求、議員・長その他の役職員・各種委員の解職請求の4種がある。
[池田政章]
請求の範囲について、初めは何の制限もなかったため、電気ガス税条例など地方税に関するものが圧倒的に多く、濫用のきらいがあって、この種の請求はほとんど全部議会で否決された。そこで1948年(昭和23)地方自治法を改正し、地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例については、直接請求が認められないことになった。請求には、選挙権者総数の50分の1以上の連署が必要である。
[池田政章]
監査委員による自主監査のほかに、「下からの民意に基づく監査」を行うことにより、地方行政のいっそうの公正化・能率化を確保しようとするものである。請求には選挙権者総数の50分の1以上の連署が必要である。なお、この制度のほか、個々の住民からの住民監査請求と住民訴訟の制度がある(地方自治法242条・242条の2)。
[池田政章]
直接請求制度は地方政治における直接民主制の代表的なものであるが、このほかにも住民に直接的な政治参加の機会を与えたものとして、住民投票と、いわゆる住民参加がある。
[池田政章]
直接請求制度における住民投票については前述したが、このほかにも住民投票が行われる場合がある。まず、特定の地方公共団体のみに適用される特別法は、住民投票で過半数の同意がなければ、国会はこれを制定することができない(憲法95条)。広島平和記念都市建設法(1949)、別府国際観光温泉文化都市建設法(1950)などがその例であり、いずれも特定の都市に対する国の助成措置を定めている。1951年までに15件18都市に制定されたが、1952年以降は制定がない。次に、住民の利害に密接な関連をもつ重要な事項を決定するにあたって住民投票に付することが定められている場合がある。かつての例として、町村合併促進法、新市町村建設促進法の場合があり、近年は住民投票条例を制定する地方公共団体がある。
[池田政章]
いわゆる公害や都市環境の問題をめぐって住民運動が噴出し、地方公共団体ではこれに対応して、その意思決定過程に一般住民の声を反映させる方式を取り入れる例が数多くみられるようになった。住民参加などといわれ、都市計画、区画整理、環境整備などの街づくりや、公共施設の建設などに、その立案段階から住民が地方行政に参加することが広く行われている。個々の政策に関する住民投票の条例化はその最たるもので、採用する自治体が年々増加しているのが現状である。
こうした定型的な住民投票条例の利用もさることながら、ほかにも不定型で、したがって、さまざまなタイプの住民参加が多くの地方公共団体で試行されて、この側面から今日、地方政治の活性化、ひいては民主主義の復権が叫ばれている。
[池田政章]
『「特集 住民投票」(『ジュリスト』1103号・1996・有斐閣)』▽『新藤宗幸編著『住民投票』(1999・ぎょうせい)』▽『森田朗・村上順編『住民投票が拓く自治』(2003・公人社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
日本の地方公共団体の住民に認められているところの,ごく限られた直接民主制的な諸制度を総称することばである。地方自治法がこの直接請求という総称の下に認めているのは,(1)条例の制定・改廃請求,(2)事務の監査請求,(3)議会の解散請求,および(4)議員・長その他の役職員,選挙管理委員会の委員,公安委員会の委員の解職請求という4種の制度である。なお,教育委員会,農業委員会,漁業調整委員会の各委員に対しても,地方自治法以外の関係法律により,解職請求が認められている。
執筆者:西尾 勝
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(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)
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…連署とは,他の者の署名にそえて署名することをいい,副署も同義であるが,明治憲法下では,天皇の親書にそえて国務大臣が署名することをとくに副署と呼んでいた。(2)地方自治法上の直接請求の署名 地方自治法は,条例の制定改廃請求,地方公共団体の事務の監査請求,議会の解散請求,議会の議員・長その他の役員の解職請求からなる4種の直接請求の制度を認めている(地方自治法74~76条,80条,81条,86条)が,これらの直接請求には,一定数以上の選挙権者の署名を必要とする。これらの直接請求において,請求代表者は,定められた期間内に署名簿を一括して市町村の選挙管理委員会に提出し,署名者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を受けなければならない。…
※「直接請求」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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