硬さ試験(読み)カタサシケン(英語表記)hardness test

デジタル大辞泉 「硬さ試験」の意味・読み・例文・類語

かたさ‐しけん【硬さ試験】

工業材料をはじめとする物質の硬さ(硬度)を測定すること。対象となる材料特性により原理的に大きく3種類に分けられ、試験材料に物体を押し込み、そのくぼみを調べる押し込み硬さ、物体を落として跳ね上がる高さを調べる反発硬さ、引っ掻き傷の有無や幅を調べる引っ掻き硬さがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「硬さ試験」の意味・わかりやすい解説

硬さ試験 (かたさしけん)
hardness test

材料試験の一種で,材料の硬さを測定するための試験。他の材料試験より実施が容易であり,試験に際しては検査面に小さなくぼみをつけるだけなので製品の検査に適用できる場合も多く,また得られた硬さ値から引張強さなど材料の強さを示す他の定数を推定できる場合も多いので,工業上重要な試験法となっている。“硬さ”という言葉はきわめて日常的に用いられているが,これを一義的に定義することは困難である。そのため実際にはまず硬さ試験法を定義し,その結果得られる値を硬さと定義する方法がとられている。硬さ試験法にも多くの種類があるが,代表的なものを分類すると,硬い材料ほど物を押し込むのに大きな力を必要とすることを利用した押込み硬さ試験(ブリネル硬さ試験ビッカース硬さ試験,ロックウェル硬さ試験など),硬い材料ほど反発が大きいことを利用した反発硬さ試験ショア硬さ試験など),硬い材料ほど引っかききずができにくいことを利用した引っかき硬さ試験(マルテンス引っかき硬さ試験など)などがあり,おもなものはJISに規定されている。いずれの試験法においても得られた硬さ値が大きい材料ほど硬いことを意味する。

(1)ブリネル硬さ試験 スウェーデンのJ.A.ブリネルによって1900年に提案された試験法。硬い鋼球を圧子とし,これをある荷重で試験面に押し込んでくぼみを作る。鋼球を取り去った後に残る球面状の圧痕の表面積で荷重を割った値をkgf/mm2の単位で求め,その数値をブリネル硬さと定義し,HBの記号で示す。鋼球の直径は通常10mm,荷重としては500kgf,1000kgf,3000kgfなどが用いられる。ブリネル硬さは鋼球の直径,荷重によりその値が異なるので,測定値にはそれら測定条件を付記する。

(2)ビッカース硬さ試験 1922年に考案された試験法で,その名は試験機の製造会社ビッカーズ・アームストロング社に由来する。対面角136°のダイヤモンドの正四角錐を圧子としてくぼみを作り,圧子を取り去った後に残る圧痕の表面積で荷重を割った値をkgf/mm2の単位で求め,その数値をビッカース硬さ(HVと表示)という。ビッカース硬さの特徴は荷重の大きさを変えても硬さ値が変化しないことで,これは圧痕の形状が荷重が変わっても相似であることによる。このため,ビッカース硬さでは1gf~120kgfの広範囲の荷重が用いられ,荷重1kgf以下の場合のビッカース硬さをとくに微小硬さという。

(3)ロックウェル硬さ試験 アメリカのS.P.ロックウェルが1919年に考案した試験法で,鋼球またはダイヤモンドの円錐を圧子とし,押し込んだときのくぼみの深さh(mm)から硬さを求める。これによって得られる硬さをロックウェル硬さ(HRと表示)という。試験条件により多くの種類(スケールという)があるが,もっともよく用いられるのは硬質材料用のCスケール(このときの硬さはHRCと表示する)と軟質材料用のBスケール(同じくHRBと表示する)で,それらの定義は次のとおりである。

 Cスケール 試験荷重:150kgf,圧子:頂角120°のダイヤモンド円錐,HRC=100-500h

 Bスケール 試験荷重:100kgf,圧子:直径1/16インチの鋼球,HRB=130-500h

 ロックウェル硬さは専用試験機の目盛上に直接指示されるので測定がきわめて容易であり,大量生産の工場で広く用いられる。

(4)ショア硬さ試験 1907年にアメリカのA.F.ショアにより考案された試験法。ハンマー先端にダイヤモンドをつけた鋼製小円柱)をある高さh0から試験面に落下させたとき,ハンマーが反発して高さhまで上がったとすると,ショア硬さ(HSと表示する)は,で定義される。式中の100/65の数値は,この試験法の考案当時,もっとも硬い材料に対して,ハンマーの落下高さ10インチのとき反発高さが6.5インチとなったことから,その材料の硬さを100としたことにちなむ。ショア硬さは測定が容易で,試験後の圧痕が浅いことが特徴である。

 なお,ゴムに対する硬さ試験法にも以上のものとは別に押込み式,反発式のものが定められている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「硬さ試験」の意味・わかりやすい解説

硬さ試験
かたさしけん
hardness test

材料試験の一種で、工業材料の硬さを測定する試験である。硬さは材料の機械的性質のほとんどと関連をもち、工業的に重要な摩耗や引っかきに対する抵抗とも密接な関係がある。

 硬さ試験は硬さそれ自身を測定の対象とする場合よりも、むしろそれと関連した他の機械的性質を調べるために多く使用される。すなわち、適当な試験条件のもとで適用範囲を限定すればこのような目的をかなえることができ、しかも1回の測定に要する時間がきわめて短く、専用試験機を用いれば、さほどの熟練を要することなく正確な測定値が得られ、特別に試験片を製作する必要もないなどの多くの利点をもっているために、生産現場などで広く利用されている。とくに製品に対し非破壊的に試験が行えるので、金属製品の生産工程や完成時の検査に硬さ試験を行うことが多く、とくに金属の熱処理効果や均質性の確認には硬さ試験がもっとも有効な方法である。

 硬さ試験は、ある標準物体によって試験物体に変形を与え、そのときの抵抗の大きさを測定するが、標準物体の種類、変形の与え方、硬さの算出方法などにより多様な試験法が考案されている。硬さ試験による硬さの表示には、その測定法や測定条件が併記されて初めて意味をもつ。よって、硬さ試験はそれぞれの試験法に対して専用の硬さ試験機を用いて行われる。

 現在、一般的に使用されている硬さ試験は大別して次の3種類である。

(1)押込み硬さ試験 歴史的にも古く、現在もっとも多く実用されている硬さ試験で、試験物体に比べて著しく硬い材料(たとえばダイヤモンドや焼入れ鋼)でつくった圧子を試料の表面に押し込んでくぼみをつくり、このときに要した荷重とくぼみの寸法から硬さを算出する。この試験法には、ブリネルBrinell、ビッカースVickers、マイヤーMeyer、ヌープKnoop、ロックウェルRockwellなどの硬さ試験がある。

(2)反発硬さ試験 反発式(ショアShore硬さ試験)と振子式(ハーバートHarbert硬さ試験)がこの部類に入り、一定の衝撃エネルギーを与えたときの、跳ね上がり高さや材料の吸収する仕事量により硬さを算出する方法である。

(3)引っかき硬さ試験 もっとも古くから行われた方法で、おもに鉱物の硬さ試験に用いられてきた。1822年にドイツのモースが考案した「モースの尺度」は今日でも利用されている。この試験法は、ある物体が他の物体の表面を引っかく能力を硬さの目安とするもので、マルテンスMartensやビヤバウムBierbaumの引っかき硬さ試験がある。

 なお、各種の硬さ試験に対しては、原機ともいうべき標準試験機があり、これによって校正された基準試料が市販されている。この基準試料に基づいて多くの標準硬さ試片を用意しておけば、硬さ試験をより有効に行うことができる。

[林 邦夫]

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化学辞典 第2版 「硬さ試験」の解説

硬さ試験
カタサシケン
hardness testing

硬さは相対的な表示であるから,採用する試験方法の選択は十分注意しなければならない.硬さの測定法として,引っかき法,押込み法,衝撃法の3方式がある.引っかき法は現在の工業規格で認められておらず,押込み法のブリネル硬さ,ビッカース硬さ,ロックウェル硬さ,および衝撃法のショア硬さの4種類が日本工業規格に規定されている.【】ブリネル硬さ試験:もっとも古く工業的基準として採用されたもので,基準となる鋼球を試験片に押しつけて,そのときの圧力とくぼみの大きさにより硬さを判定する.ブリネル硬さ(HB)は永久くぼみの直径(d)から求めたくぼみの表面積(S)で荷重(P)を除した商をいう.

ここで,Dは押込みに用いた鋼球の直径である.荷重の負荷方式により,油圧型,テコ型,およびフリコ型の3種類がある.押込み体として直径1~10 mm の調質された軸受鋼球が用いられ,試験荷重は500~3000 kg である.ブリネル硬さはばらつきの少ない値が得られるが,圧痕が大きく,ほかの硬さ試験よりも大きな試験片を必要とする.【】ビッカース硬さ試験:ブリネル硬さの欠点は,押込み深さが変わると,押込み体と試料間の幾何学的相似性が失われ,均質な試料でもPDの値が一定でなければ同一の硬さを表さないことである.ビッカース硬さは原理的にはブリネル硬さと同じもので,その押込み体として,対面角136°の正四角すい型のダイヤモンドを用いる.ビッカース硬さはブリネル硬さと同じく,圧痕の対角線の平均長さ(d)より求めた表面積で荷重を除した商である.

】ロックウェル硬さ試験:ロックウェル硬さは,測定が容易で短時間に行われるためもっともよく用いられる.ロックウェル硬さは押込み体をまず基準荷重を加えて押圧し,次に試験荷重とし,ふたたび基準荷重に戻したとき,前後2回の基準荷重における圧痕の深さの差(h)から求める.目盛はB,C,およびスーパーフィッシャーの3種類がある.

  B系スケール     HR = 130 - 500 h

  C系スケール     HR = 100 - 500 h

  スーパーフィッシャー HR = 100 - 1000 h

】ショア硬さ試験:先端に丸いダイヤモンドを取り付けた重錘(すい)を,一定高さhより試験片上に落とし,はね返り高さをもって硬さとする.この試験は材料に痕跡を与えず,取り扱いが容易で試験機自体を被測定物上に移動できるため,工業的によく用いられる.しかし,硬さの意味があいまいで,とくに弾性率の異なる材料の比較は行えない.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硬さ試験」の意味・わかりやすい解説

硬さ試験
かたさしけん
hardness test

硬さを測定するための試験。硬さを定義することはむずかしいが,工学的には「物体が他の物体によって変形を与えられようとするときに示す抵抗の大小を表わす尺度である」とされている。これを数量的に表わすための多種多様な試験法が考案されているが,物体の材質,形状,寸法,測定法などによって硬さの順位に逆転を起すことなどもあって,現実には統一的な試験法はまだない。現在,実用化されている試験法を大別すれば次のとおりである。工業的には,硬さの種類,名称,測定条件を明記しないと通用しない。 (1) 押込み硬さ試験法 ダイヤモンドや焼入れ鋼などのように非常に硬い材料でつくられた規定の形状・寸法の押込み具 (圧子) を試料の表面に押しつけ,その部分に生じるくぼみ (永久変形) から求める方法。ロックウェル,ブリネル,ビッカース,マイヤー,ヌープなどの試験法がある。 (2) 動的硬さ試験法 一定の形状・寸法・重量のハンマ類を試料表面に衝突させ,そのときのはね上がり高さや反発角度から調べる方法。また,振り子を試料表面で揺動させ,減衰状態から知る方法もある。前者にはショア法,ジューロスコープ法が,後者にはスオードロッカ法,振桿法などがある。 (3) ひっかき硬さ試験 圧子によって試料表面につくられるひっかききずから求める方法。マルテンス法やビアバウム法がある。

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世界大百科事典(旧版)内の硬さ試験の言及

【材料試験】より

…長時間を要するのがふつうである。クリープ硬さ試験hardness test材料の変形に対する抵抗を硬さという。しかし硬さを一義的に定義することは困難であるので,測定法を規定し,これによって得られる数値を硬さと定義することが行われている。…

【材料試験】より

…さらに,これらの条件の種々の組合せが考えられるので,材料試験には非常に多くの種類があることになる。以上は比較的単純化された条件での基礎的な試験であるが,もっと複雑な条件(応力条件など)での実用上重要な試験として,硬さ試験,加工性試験,摩耗試験などがある。なお,機械材料の場合,物理的試験では熱膨張係数,比熱,熱伝導係数など,電気的試験では絶縁抵抗など,化学的試験では耐食性などが試験対象となる。…

※「硬さ試験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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