立体異性(読み)リッタイイセイ(英語表記)stereoisomerism

デジタル大辞泉 「立体異性」の意味・読み・例文・類語

りったい‐いせい【立体異性】

化合物化学組成が同じでも、原子または原子団の立体的な配置が異なるために生ずる異性。幾何異性光学異性などがある。

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精選版 日本国語大辞典 「立体異性」の意味・読み・例文・類語

りったい‐いせい【立体異性】

  1. 〘 名詞 〙 分子立体構造差異により生ずる異性。原子の配列順序が同一であっても、その立体的配置が異なる分子をさしていう。二重結合をもつ有機化合物および環式化合物にみられるシストランス異性や、金属錯体における配位子の配位位置の違いによる異性などに代表される幾何学異性、光学異性、および一重結合回転の違いにより生ずる配座異性(ゴーシュ異性体)などが含まれる。〔稿本化学語彙(1900)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「立体異性」の意味・わかりやすい解説

立体異性 (りったいいせい)
stereoisomerism

分子の平面的配列順序が等しいが原子の立体配置が異なるために生じる異性。かつては光学異性幾何異性に大別されたが,現在ではエナンチオ異性ジアステレオ異性に分類される。

 1848年L.パスツールは,同一組成をもつ酒石酸とパラ酒石酸(ラセミ酸)の光学的性質の差を説明するのに成功した。しかし分割された右旋性酒石酸と左旋性酒石酸との構造上の関係を理解できるまでには至らなかった。74年J.H.ファント・ホフとJ.A.ル・ベルは独立に,炭素原子が四つの頂点に原子(原子団)のついている正四面体として扱うと,四つの原子(原子団)がすべて異なるとき,すなわち中心の炭素が不斉炭素原子であるとき,二つの幾何学的配列が存在することを示した(図)。A.W.H.コルベらの反対はあったが,炭素の正四面体説はしだいに浸透し,酒石酸,乳酸,糖類の異性が立体構造の違いによって説明された。88年V.マイヤーは〈立体異性体〉という用語を導入した。酒石酸や乳酸における立体異性は,その構造がたがいに鏡像関係にあり旋光性の符号のみが異なるので光学(鏡像)異性と呼ばれる。ファント・ホフはもう一つの立体異性である幾何異性は,二重結合によって結合の回転が妨害された結果生じることを示した。立体異性体は炭素原子だけではなく窒素原子やその他の原子が関与する結合にも存在することがハンチArthur Rudolf Hantzsch(1857-1935)によって確かめられた。立体異性とそれに基づく現象を研究する分野立体化学と呼ばれるようになり,97年A.G.ウェルナーは無機化合物の立体構造にまで範囲を拡大した。20世紀に入って飽和化合物配座解析手法が導入され,配座異性も立体化学の重要な領域となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「立体異性」の意味・わかりやすい解説

立体異性
りったいいせい
stereoisomerism

分子内の原子または原子団の三次元配列が異なるために,同一の分子式またはケクレ構造式をもちながら物理的,化学的性質を異にする2つ以上の化合物があるとき,これらの化合物を立体異性体といい,この現象を立体異性という。立体異性には次の3種がある。 (1) 分子の形が不斉であるために,偏光面を回転する性質を異にする場合,これを光学異性という。光学異性体は偏光面回転以外の物理的性質および化学的性質が等しく,生物にかかわる性質を異にする場合が多い。 (→分子不斉 ) (2) 二重結合 (多くの場合,炭素-炭素二重結合) が単結合と違って回転を行うことができないために,分子内の原子の位置が固定されることによって性質の異なった化合物を生じる場合,これを幾何異性という。幾何異性体は光学異性体と異なり,異性現象は,融点,沸点,溶解度,反応速度などの多くの物理的,化学的性質の差として現れるため,光学異性体より早くから構造の決定がなされた。異性体は一般にシス形およびトランス形をとる。炭素-炭素二重結合以外に炭素三員環もまた回転を行うことができないので,立体異性現象を生じる。これにもシス形およびトランス形異性体がある (例としてシクロプロパンジカルボン酸) 。また,六員環のシクロヘキサン誘導体にもシス形,トランス形があり,これも立体異性の一種であるが,狭義には,幾何異性のうちに含まない。 (3) 単結合の回転によって,分子が2種以上の立体配座をとる現象を回転異性という。この場合は異性体間のエネルギー差が小さいために,室温で速い相互変換が行われていて,特別の場合を除いて異性体の存在は物理的測定によってだけ確認され,1つの化合物として単離されていない。回転異性の研究を基として,シクロヘキサンなど環状化合物の立体異性現象が解明され,立体配座に関する研究が発展した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立体異性」の意味・わかりやすい解説

立体異性
りったいいせい
stereoisomerism

分子あるいは多原子イオンにおいて、原子あるいは原子団の立体配置の違いによって生ずる異性の総称。シス‐トランス、シン‐アンチなどの幾何異性、シス‐トランス‐ゴーシュなどの回転異性、対掌体の対を与える光学異性などがある。

[岩本振武]

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化学辞典 第2版 「立体異性」の解説

立体異性
リッタイイセイ
stereoisomerism

原子の配列順序は同じであるが,立体的な配置(分子の立体構造)が違うために生じる異性の総称.幾何異性,鏡像異性,ジアステレオ異性,回転異性,配座異性に大別される.幾何異性には,二重結合をもつ化合物のシス-トランス異性,環式化合物のシス-トランス異性,錯体中で配位子の中心金属に対する配置の違う立体異性などがある.単結合のまわりの回転障害による立体異性もある.

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百科事典マイペディア 「立体異性」の意味・わかりやすい解説

立体異性【りったいいせい】

同じ平面構造式で表される分子が,原子の立体的配置が相違することにより生じる異性現象。主として幾何異性光学異性をいう。→異性

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栄養・生化学辞典 「立体異性」の解説

立体異性

 立体配置が異なるために生じる異性.光学異性,幾何異性,回転異性がある.

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世界大百科事典(旧版)内の立体異性の言及

【異性】より

…(3)光学異性 D‐乳酸とL‐乳酸。このうち(2)(3)は原子の配列順序は同一であるが,その空間的関係が異なるものを問題にしており,これらをまとめて立体異性とよぶ。このほか互変異性,配座異性,回転異性,原子価異性などの異性が知られているが,これらのあるものは同一現象の別の表現である。…

※「立体異性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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