石炭を不活性雰囲気(空気を遮断した状態)で加熱するとき350~500℃で軟化溶融するとともに、熱分解によってガス、タールなどを発生し、さらに高温になると再固化して多孔質で硬い炭素の塊であるコークスとなるものがある。このような石炭を粘結炭といい、そのような特性を粘結性と称する。粘結炭は良質なコークスの製造には不可欠であり、原料炭ともよばれる。一方、加熱に際して軟化溶融せず、そのままの形または粉化して炭素粒子(チャー)となるものを非粘結炭という。
軟化溶融の程度は、一種の回転粘度計であるギーセラープラスとメーターなどにより測定され、羽の回転し始める温度(軟化開始温度)、回転数の最大となる温度(最高流動度温度)とそのときの回転数(回転板に刻まれた目盛りの1分間当りの数値dial division per minute=ddpmで与えられる最高流動度)、回転の止まる温度(固化温度)を測定して評価される。
粘結炭は、軟化溶融時にガスやタールが発生するため膨張現象がみられることも特徴であり、るつぼ膨張性試験によって膨張したコークケーキの輪郭からボタン指数によっても評価される。
非常に膨張性の高い石炭は粘着炭caking coalとよばれるが、これは発生ガスにより膨れ上がってしまい、強度の高いコークスとはなりがたい。強度の高いコークスを与える石炭は強粘結炭といい、適度の膨張性や流動性を示し、かつ炭化収率の高い瀝青炭(れきせいたん)である。
粘結炭には瀝青炭と一部の亜瀝青炭が属する。石炭火力発電における微粉炭燃焼炉やある種のガス化炉では微粉炭吹込みノズル先端において石炭が溶融して閉塞(へいそく)するため、粘結炭の使用が制限されることもある。
非粘結炭を用いる成型コークス化法では、粘結炭を非粘結炭の結合剤として糊(のり)の役目をさせるために用いられることがある。
[大内公耳・荒牧寿弘]
石炭類のなかには,空気を遮断した状態で加熱すると温度上昇につれて軟化,溶融し,さらに高温になると固結して多孔質の固体となる性質をもつものがある。この性質を粘結性といい,粘結性をもつ石炭を粘結炭という。空気を遮断しての加熱処理が乾留であり,できた固体がコークスである。歴青炭のうち石炭化度の高い範囲のものが粘結性をもつ。粘結性の測定法として,日本のJISには,るつぼ膨張試験,膨張性試験,流動性試験,コークス化性試験が定められている。粘結炭には強・弱・微の区別があるが,これはできたコークスの強度による慣習的なもので,区分が標準化されているわけではない。コークスの製造には通常,各種の粘結炭を配合して用いるが,製鉄用の強いコークスをつくるには強粘結炭が不可欠の成分である。強いコークスは緻密(ちみつ)でなければならず,原料とする配合炭の揮発分が高すぎると多孔質の構造が粗大になり,十分な強度が得られない。それで製鉄用コークスの原料として,アメリカで産出する低揮発分強粘結炭が,L米炭(Lはlow volatileの略)と称して,とくに重視されている。日本での粘結炭の生産量は高度に発達した鉄鋼業の需要をまかなうにはほど遠いので,L米炭をはじめとして年間5000万~6000万tの強粘結炭・弱粘結炭を,アメリカ,オーストラリア,カナダなどから輸入している。ヨーロッパの先進工業国も,現在では粘結炭の大きな輸入圏である。このように国際流通商品としても重要な意味をもつ粘結炭の資源は,世界の石炭類の確認可採埋蔵量(石炭当量換算)の約1/4,歴青炭のそれに対しては約2/5である。なお,粘結炭は非粘結炭に比べれば資源が少なく,価格も高いことから,製鉄用コークス製造の粘結炭に対する依存度を少なくするため,原料の配合に非粘結炭を含めうるようなコークス製造技術の開発が進められている。
執筆者:穂積 重友
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…しかし原料炭の中には,乾留によるガス製造の原料に使う〈ガス用炭〉もある。コークス用炭の英語はcoking coalであるが,これは原料炭全体を指す場合も多い。すなわち,一般炭と原料炭の二大別は,英語ではsteam coalとcoking coalである。…
…粘結の過程での溶融状態で,溶融の度合をあらわす指標として〈流動度〉がある。日本に産する粘結炭は一般に,流動度が高いことが特徴である。 石炭の成分を調べる方法は,〈工業分析〉と〈元素分析〉である。…
※「粘結炭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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