ある生物種族が進化とともに形態を変え,家系のような一つの発展系統をつくりだすこと。ドイツの生物学者E.ヘッケルが著書《有機体の一般形態学》(1866)の中で〈個体発生Ontogenese〉と対をなすものとして作ったことば(もともとはドイツ語でPhylogenie)。
個体発生とは異なって系統発生は実際に目で確かめられるものではない。断片的な化石の資料に基づいて古生物学的にこれを推定するのが比較的直接の方法であるが,それが成功する場合(ウマ類の系統)はまれにしかない。そこで比較解剖学,比較発生学,生物地理学,生態学,比較生化学など現生生物学に属する種々の方法を援用して間接的に系統発生あるいは系統関係を推定することが普通に行われる。そこから得られる結論は分類の仕方に反映されるべきものであり,また系統樹(系統図)として図示されることもある。近年は分岐論と呼ばれる分類学の新しい方法によって系統推定を行うことも盛んになっている。
系統発生ということばはヘッケルの〈個体発生は系統発生の短い反復である〉といういわゆる生物発生原則(反復説)と結びついて有名になった。この学説は19世紀後期以降,進化的な形態学や系統発生論を刺激し,その分野の研究を大きく前進させる効果をもった。ところがその結果,20世紀に入ってこの説の真実性はしだいに疑問視されるに至り今日では往時の精彩を失ったが,その半面で個体発生と系統発生の相互関係についての認識は著しく深まった。
系統発生ということばは進化とほとんど同義に解されることもあるが,前者があくまで形態変化の時間的系列だけをさすのに対し,後者は種の変化とその機構を包含するきわめて広い内容をもつ概念である。
執筆者:田隅 本生
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ある生物の種類が過去から現在まで(絶滅した種類では絶滅まで)にたどった進化的変化の過程をいう。「個体発生」とともにドイツの動物学者ヘッケルが提唱した概念で、彼は「個体発生は系統発生を繰り返す」という反覆説を唱えた。この考えはのちに批判されたが、両者の関係については現在なお未知の部分が多い。系統発生の研究(系統学)は比較解剖学、比較発生学、古生物学が中心であり、アンモナイトやウマ科、ゾウ科などいくつかの種類ではかなり詳細にその変化のあとを追うことができる。また最近では比較生化学的研究によって、タンパク質中のアミノ酸配列の差異から類縁の程度を調べたり、デオキシリボ核酸(DNA)の塩基配列の変異から2種類の生物の分岐時代が推定可能になるなど、系統発生についても新たな分野が開けつつある。
[八杉貞雄]
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…反復説recapitulation theoryともいう。ドイツの動物学者E.ヘッケルが,著書《有機体の一般形態学》(1866)の中で主張した〈個体発生は系統発生の短いくり返しである〉という学説のこと。C.ダーウィンが主著《種の起原》(1859)で〈自然淘汰説〉とよばれる生物進化の理論を提唱したのち,ヘッケルはこの説に全面的に賛同し,それにのっとってすべての生物の形態とその成立ちを,自称〈一元論〉的に説明するものとして《一般形態学》を書いた。…
※「系統発生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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