巻物,掛物,和本,屛風,ふすまなどの表装をする職人。経師は,古代には写経を業とする人をいった。写経司(写経所)などに属する場合もあり,民間で活動する者もあった。写経司には,ほかに校生,装潢(そうこう)などの専門技術者がいた。装潢とは表装のことである。古代末期になって,個人による写経がさかんになると,経師本来の仕事はなくなり,写経のあとの表装の仕事に従うようになったと思われる。こうして中世には,経巻などの巻子本(かんすぼん)の表装を業とする専門職人になっていた。一方,中世中期のころには表褙師(ひようほえし)(表補絵師とも)と呼ばれる掛物の表具職人が成立し,やがてこれが表具師,表具屋と呼ばれるようになる。こうして経師屋は巻物,表具師は掛物と,同じ軸物ながら縦のものと横のものとで仕事が分かれていた。近世初期になると,この境界領域が崩れたようで,《雍州(ようしゆう)府志》には〈表具と巻物とは横竪(よこたて)の差しかないが,表具師の巻物は使いものにならず,経師屋の表具もまたよくない〉とみえる。また,もとは唐紙師の業であった屛風,ふすまなどの仕事も,経師屋,表具師のいずれもが行うようになり,経師屋と表具師との区別はまったく消滅した。表具・表装に用いる道具には,各種のはけ,定規,断ちもの包丁,小刀,仮張り台などがあり,のり(糊)は古代では米ののりを用いたが,中世からは生麩(しようふ)のりが使われるようになった。なお,《おさん茂兵衛》などで知られる大経師は,もと朝廷の御用を勤務めた京都の経師仲間の長で,毎年奈良の幸徳,賀茂両家から朝廷に進奉される新暦を受けて〈大経師暦〉を発行する特権をもっていた。
執筆者:遠藤 元男
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