翻訳|integration
広い意味では,複数の諸要素が一定の方式に従って相互に結合し,秩序とまとまりをもった全体を形成する作用を指す。こうした統合の作用がとくに重要な意味をもつのは,政治の世界である。そこで狭い意味では,利害や見解の対立を調整して,社会の秩序を維持する作用が統合と呼ばれる。今日では,社会の統合を政治の最も重要な機能とみる人々は少なくないが,比較的早い時期に統合の重要性を指摘したのは,ドイツの法学者R.スメントであった。スメントはナチズムに荷担する立場から,国家に強力な超個人主義的基礎を与えようとして,国家の統合力を神秘的な民族意思に求めた。この民族意思は,民主的な国民意思のように国民の多数の意思として示されるものではなく,国民性といった恣意的に内容を決めることのできるものであらわされていた。そのためスメントは,H.ケルゼンによって〈科学の仮面をつけた独裁制弁護論〉として激しく非難された。統合という概念はこのスメントの理論と結びつけられて,しばしば非合理的なあるいは非民主的な意味をもつものとされるが,今日政治学で用いられる場合には,もちろんこうした意味においてではない。
政治の主要な機能として何をあげるかは議論の分かれるところであるが,社会秩序の形成と維持がその中心的機能の一つであることはたしかである。近代以前の社会においては,安定した共同体が存在したことによって,社会秩序は遠い昔から持続してきた伝統や慣習の形をとった。そこでは改めて社会の統合について語る必要はなかった。前近代において社会は自然的に統合されていたともいえる。近代社会に入ると,こうした状況は大きく変化する。同質的な共同体は崩壊し,社会の単位は個人となった。個人はそれぞれ独自の利害や価値をもつものとされ,とくに性別,世代,人種,職業,宗教などを異にする人々の間では,利害や価値をめぐって激しい対立が起こることも少なくない。こうして今日では,社会秩序は人為的に形成されるべき課題となったのであり,何らかの自覚的努力なしには社会秩序を維持することも不可能になったのである。もとより,社会秩序は政治的統合によってのみ形成され,維持されるわけではない。社会秩序はわれわれの経済生活,社会生活,あるいは文化生活におけるさまざまな協働関係によっても維持されている。しかし対立や紛争が激化すれば,社会秩序が直接脅かされる恐れがある。そこで,対立の調整や紛争の解決を通じて社会のまとまりを維持することが,社会の秩序を維持するうえからも重要な課題とされるに至ったのである。
なお,統合はこうした一般的意味のほかに,より特定化された意味で用いられることもある。たとえばアメリカでは,黒人に対する差別を撤廃して白人と黒人との共存関係を促進することが人種統合と呼ばれているし,ヨーロッパでは国際秩序をより緊密なものとするために,主権国家間の障壁を全面的にあるいは部分的に除去していくことがヨーロッパ統合と呼ばれているが,いずれも広い意味での統合の特殊例であることは明らかであろう。
執筆者:阿部 斉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
統合とは、社会の成員の間に高い相互作用があり、その成員が共通の社会規範や価値を抱き、共通の権威に対し忠誠を有している状態である。政治の世界では、統合がとりわけ重要な意味をもっている。対立する意見や利益を調整し、協力せしめて、一つの社会としてまとめ、社会に安定や秩序をつくりだすことは、政治の重要な機能であるからである。政治的統合は、一般に、一つの民族国家が形成され維持存続される国家統合ないし国民統合と、一度形成された国家どうしの国家間統合ないし国際統合とに分類される。民族が独立して国家を建設するのは前者の例であり、ヨーロッパ連合(EU)の例などは後者の代表例である。
国民国家の形成過程は多様であるが、居住地域、生活様式、習慣、歴史的経験、言語などを共有している民族が、共同体の存在や価値を自覚し、民族共同体を基礎として、権力機構としての政府を形成し、それに忠誠を与えていく過程としてとらえられよう。他方、国家間統合ないし国際統合は、(1)平和の維持、(2)広範な多目的能力の獲得、(3)特定の目的の達成、(4)新たなイメージや役割の獲得、をねらいとして形成される。またその際には、(1)国家間に相互関係性があること、(2)相互反応性があること、(3)共通の価値と報酬がもたらされること、(4)共通の一体感や忠誠があること、などの条件が必要であるといわれる。
政治的統合は、政治的価値を共有している領域が少なくなったり、社会規範や法を遵守させるための強制が過度に必要になったり、分離・独立運動が台頭した場合、失敗といわれる。失敗をもたらす原因としては、革命などの社会変動、外国からの威圧・介入、社会成員の要求充足の失敗、宗教・イデオロギー・言語上の対立などが考えられる。
[谷藤悦史]
『細谷千博・南義清編著『欧州共同体(EC)の研究――政治力学の分析』(1981・新有堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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