縦隔炎(読み)じゅうかくえん(その他表記)Mediastinitis

精選版 日本国語大辞典 「縦隔炎」の意味・読み・例文・類語

じゅうかく‐えん【縦隔炎】

  1. 〘 名詞 〙 縦隔におこった炎症。多くは食道穿孔によって生じる急性縦隔炎で、発熱、胸骨のうしろの痛み、せき、嚥下(えんげ)障害などがある。

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六訂版 家庭医学大全科 「縦隔炎」の解説

縦隔炎
じゅうかくえん
Mediastinitis
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 縦隔とは、上方は胸郭(きょうかく)入口部、下方は横隔膜(おうかくまく)、前方は胸骨、後方は脊柱(せきちゅう)によって囲まれた腔です。簡単には、左肺と右肺の間の領域と考えればよいでしょう。この縦隔に感染を起こした病気を、縦隔炎と呼びます。

原因は何か

 内視鏡検査異物誤嚥(ごえん)による食道の穿孔(せんこう)(あな)があく)、破裂に続いて起こることがほとんどです。食道がん食道憩室(けいしつ)の穿孔に続いて起こることもあります。

症状の現れ方

 食道に孔があくと、胸骨後方の激痛、悪寒戦慄(おかんせんりつ)、発熱が現れます。重症になると細菌が血液のなかに入り、敗血症(はいけつしょう)を発症する場合もあります。

検査と診断

 内視鏡検査に引き続いて胸骨後方の激痛などを訴えた場合や、食道がんの既往のある人が同様の症状を訴えた場合には、本症を疑って胸部X線を撮影します。胸部X線像では、縦隔陰影の拡大や縦隔気腫(きしゅ)がみられます。血液検査では、白血球数の増加やCRPが高値を示します。

治療の方法

 強力な抗菌薬(ペニシリン、セフェム系、カルバペネムなど)を投与します。小さな孔であれば保存的治療でも治癒しますが、大きなものでは外科的処置が必要です。孔がふさがるまでは、絶飲絶食として点滴で栄養を補給します。

 原因食道がんの場合、予後は極めて不良ですが、ほかの原因の場合ではおおむね治ります。

病気に気づいたらどうする

 患者さんよりも医師が、この疾患を疑うことが重要です。内視鏡検査に引き続いて胸骨後方の疼痛を患者さんが訴えた場合には、すみやかに胸部X線を撮影する必要があります。

 患者さんも、内視鏡検査から帰宅後に胸骨後方の疼痛を感じたら、すぐに内視鏡検査をした医師に連絡をとります。

沖本 二郎

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内科学 第10版 「縦隔炎」の解説

縦隔炎(縦隔疾患)

概念・分類
 縦隔の急性ないし慢性の炎症である.その原因はそれぞれ異なり,一部は急性から慢性へ移行するものがある.慢性型には,炎症の治癒過程で線維化をきたした線維性縦隔炎(fibrosing mediastinitis)がある.
1)急性縦隔炎:
多くは食道穿孔,食道や心臓手術後の感染症としてみられる.食道穿孔は食道癌などの食道疾患,食道・気管支の内視鏡検査や挿管による食道・気管気管支の損傷,外傷がある.また激しい嘔吐後に胃食道接合部の裂傷による急性穿孔はBoerhaave症候群として知られている.
2)慢性縦隔炎:
結核によるものが多く,ほかに真菌などが原因菌となる.
3)線維性縦隔炎:
縦隔の軟部組織が局所的ないしびまん性に線維化をきたすまれな疾患である.最近,IgG4関連疾患の一部として考えられ,特発性縦隔線維症ともよばれる.
臨床症状
 炎症による局所と全身症状,局所病変による周囲臓器の圧迫に伴うものがある.胸骨後痛や咳,呼吸困難,悪寒,発熱,敗血症へ進展するとその症状がみられる.圧迫症状は,おもに膿瘍形成による嚥下困難や上大静脈症候群がある.慢性と線維性縦隔炎では無症状のことも多く,微熱,咳,圧迫症状も軽度である.進行すると上記の圧迫症状が顕著となる.
検査成績・診断
1)血液検査:
白血球増加(細菌感染のとき),炎症所見(赤沈亢進,CRP上昇など)がみられる.慢性と線維性縦隔炎ではこれらの所見は軽微である.
2)画像所見:
胸部X線では縦隔陰影の拡大,大動脈陰影の不鮮明化,縦隔気腫,炎症の胸腔内への波及によって胸水がみられる.胸部CTでも縦隔陰影の拡大,縦隔気腫,ときに膿瘍や胸水がみられる.食道穿孔では,食道造影検査で造影剤ガストログラフィンの漏出が確認できる(図7-15-3).
3)診断:
上記の原因疾患の既往歴と症状,血液検査とCT画像所見から本症を疑う.線維性縦隔炎は症状に乏しく,縦隔鏡やCTガイド下生検によって診断する.
鑑別診断
 胸痛や上大静脈症候群をきたす疾患(心臓・大血管,呼吸器,消化器疾患など).
治療
 急性では抗菌薬の投与と原因疾患の治療が必要である.穿孔の大きさによっては保存的治療で治癒するが,大きな穿孔では外科的処置,膿瘍では切開やドナレージ排膿が必要となる.慢性では原因菌に対し抗結核薬や抗真菌薬などを投与し,膿瘍に対し排膿を行う.線維性では,初期の線維化にはステロイドが奏効することもある.上大静脈症候群には重症度に応じて手術を選択する.
予後
 急性では原因疾患や縦隔内の病変の広がりによって予後が決まる.慢性と線維性では適切な治療を行えば予後はよい.[岡 三喜男]
■文献
Cameron RB, Loehrer PJ, et al: Neoplasms of the mediastinum. In: Cancer-Principles and Practice of Oncology, 9th ed (DeVita VT, Lawrence TS, ed), pp871-881, Lippincott WW, Philadelphia, 2011.
Roberts JR, Kaiser LR: Acquired lesions of the mediastinum: benign and malignant. In: Pulmonary Diseases and Disorders, 4th ed (Fishman AP, Elias JA, et al ed), pp1583-1614, McGraw-Hill, New York, 2008.
Wright CD: Nonneoplastic disorders of the mediastinum. In: Pulmonary Diseases and Disorders, 4th ed (Fishman AP, Elias JA, et al ed), pp1555-1581, McGraw-Hill, New York, 2008.

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家庭医学館 「縦隔炎」の解説

じゅうかくえん【縦隔炎 Mediastinitis】

[どんな病気か]
 縦隔におこる炎症です。出口のない閉鎖された縦隔の炎症ですから、膿(うみ)が排出されにくく、しかも重要な臓器が近くにあるので治療が困難なことが多いものです。
[症状]
 急性の場合は、高熱、悪寒(おかん)、激しい胸痛などが現われます。治療をしないと、炎症の原因である細菌が血液に入り、感染が全身に広がって、敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)になります。重病で、死亡率が高いため、緊急に呼吸器あるいは胸部の専門医を受診する必要があります。
[原因]
 食道の異物(誤ってのみ込んだ魚の骨や入れ歯など)や食道がんなどが原因となって、食道に孔(あな)があき(穿孔(せんこう))、細菌を含む食物が縦隔にもれて炎症がおこります。
 また、口の中を汚くしている人では、むし歯やのどの炎症でできた膿がくびを伝って縦隔に流れ込んでおこることもあります。胸部の手術後におこる場合もあります。
 慢性の縦隔炎は、結核(けっかく)や梅毒(ばいどく)などの患者さんで、病原体が縦隔にすみつくとおこります。
 縦隔線維症(じゅうかくせんいしょう)といって、縦隔がかたくなり、上大静脈を圧迫して顔や腕が腫(は)れたり、全身がむくむ病気がありますが、これは慢性の縦隔炎が原因とも考えられています。よい治療法はありませんがつぶれた上大静脈などの血管をバイパスでつなぐ手術が行なわれます。
[検査と診断]
 食道に金属性の異物や太い骨がひっかかっているかどうかは、胸部X線写真でわかります。胸部CT検査で、縦隔に膿がたまっているかどうかを調べます。
 食道が破れているかどうかは、内視鏡を食道に入れて直接みる方法と、造影剤を食道に入れてX線撮影する方法とがあります。
 胸部専門の内科か外科を受診して検査してもらうのがよいのですが、慢性の場合は診断が容易ではありません。
[治療]
 急性の場合は、大量の抗生物質を点滴で注射するとともに、手術して縦隔の膿を洗い出し、膿を体外に排出するためのチューブを入れておきます。また、口からの飲食をやめ、静脈から点滴で栄養を補給します。
[日常生活の注意]
 食物はよくかみ、魚の骨などはできるだけ取り除いて食べるようにします。認知症の老人や知能の発達障害のある人では、とくにこの注意が必要です。
 予防は、むし歯を早く治して、口の中を清潔にすることがたいせつです。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「縦隔炎」の意味・わかりやすい解説

縦隔炎
じゅうかくえん
mediastinitis

縦隔に起る急性化膿性炎症。食道のびらんや外傷性の穿孔などが原因で,胸骨下痛,皮下気腫,発熱,頻脈,白血球増加などの症状が出る。進行すれば重い菌血症を起し,衰弱や虚脱に陥るが,抗生物質の投与や切開排膿によって治り,最近は比較的珍しい病気になっている。

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世界大百科事典(旧版)内の縦隔炎の言及

【縦隔】より

…縦隔は一つの閉鎖された空間とも考えられるため,縦隔腔あるいは縦隔洞とも呼ばれる。心臓,大血管,気管支,食道などを除く縦隔内の病変を縦隔疾患と総称し,おもなものに縦隔炎,縦隔気腫,縦隔腫瘍がある。
[縦隔炎mediastinitis]
 縦隔に発生した炎症。…

※「縦隔炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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