紋織物の一つ。縫取(繡取)は元来刺繡(ししゆう)用語で,布帛の一部に別糸で文様を繡(ぬ)いあらわすことをいう。したがって〈縫取織〉は縫取ふうな織物をさし,その特色は文様をあらわす彩糸(いろいと)(絵緯(えぬき))が文様に必要な部分だけ往復して用いられ,他の錦などの絵緯のように織幅いっぱいの通し糸とならないことにある。この技法によると数色の絵緯を容易に使い分けることができ,しかも部分的に織り入れられるために,色数のわりには錦のように織物自体が厚く,あるいは重くなることがない。世界的に広く用いられてきた紋織技法の一つで,最も単純には平織の地に単色の絵緯で文様を縫取織にするものがある。例えば古くは上エジプトより出土した5世紀から8世紀にかけてのコプト人の染織品のなかに,麻の平織地に単色の毛糸で幾何学的な花文を縫取織にした作例が多数認められる。また現代でもインドネシアの島々では,素朴ないざり機(地機)による平織地の種々の縫取織がつくられている。一方,ヨーロッパで〈ブロケード〉と称される紋織物は,ほとんどが縫取織によるものをさし,材質,地合にかかわらず各種のものがつくられている。日本ではこの技法による精巧な絹の紋織物に,唐織,厚板,縫紗,二倍(ふたえ)織物などがある。
執筆者:小笠原 小枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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