経糸(たていと)を張って、それに緯糸(よこいと)を組み合わせて布などをつくる作業をいう。語源については不詳であるが、その動作が座って織ることから「居(お)る」に関係のあることばかもしれないし、また、経糸を折り曲げて作業をする様態から「折る」にも関連して由来するのかもしれない。わが国古典のもっとも古い用例として『古事記』上巻に出てくる「天照大御神(あまてらすおおみかみ)、忌服屋(いみはたや)に坐(ざ)して神御衣(かむみそ)織らしめたまひし時」をあげることができる。中国語で「織」とはチーchihと発音し、「おる(織)、はたおる(機織る)、くみたてる(組み立てる)、はたいと(機糸)、あやぎぬ(綾絹)、しるし(印)」などを意味する。英語ではweaveと書き、「織物を織る、はたを織る」のほかに、「編む、編み合わせる、仕組む、つくりあげる」という意味もあって、日本語の「織る」よりも少し広い意味をもっている。
[川國男]
実際、「編む」と「織る」との区別は厳密にはむずかしい。「編む」は手編みか、もしくは、おもり、編み台くらいまでの道具しか使わない作業であるのに対し、「織る」では綜絖(そうこう)、杼(ひ)、筬(おさ)などからなる、いわゆる機(はた)を使って作業を行う。使用される材料も、「編む」のほうが草や木皮、竹などの自然産品を乾かしたり割ったりする程度で使うのに対し、「織る」は多くの場合、二次的な加工が施された紡ぎ糸・撚(よ)り糸が使われる。製品は、編物よりも織物のほうが柔軟性に富み、織り目のすきまも細かい。
織る技術が編む技術と根本的に違うのは、「編む」がたて(経)・よこ(緯)を1単位ずつ組み合わせていくのに対して、「織る」は、固定した数百本の経糸を二分して、そこに緯糸を走らせて一度に多量の組合せ作業をしてしまう点にある。このために「織る」場合には、まず経糸を張りかける糸張り台が必要である。次に主要道具として綜絖具、緯通(よことお)し具、緯打(よこう)ち具がある。綜絖具は開口具ともいい、張りかけた経糸を偶数糸と奇数糸とに分けて緯糸を通しやすくする道具であり、緯通し具は、二分して開口した経糸の間に緯糸を走らせるための杼などのことである。緯打ち具は、通した緯糸をしっかりそろえるための枝、棒もしくは筬である。補助道具としては、経糸が巻かれる経巻(たてま)き具(滕(ちきり))、織った布を巻き取る布巻き具(織(いのあし))、経糸が乱れないようにする綾竹(あやだけ)、織幅が狭くならないようにそろえておく伸子(しんし)、そのほか織込み篦(べら)や打込み櫛(ぐし)などがある。織機(しょっき)とは、これらの道具を糸張り台に取り付けて、連係作業ができるように改良発達させたものである。
それでは、莚(むしろ)は「編む」「織る」のどちらかといえば、材料や製品は編物的であるが、製作工程で筬と杼に相当する刺し子が使われるので、「織る」のほうに分類することもできる。一般に織る技術は、「編む」よりも道具を多く使用すること、いくつかの「からくり」があることなどで、「編む」技術よりも後出の技術であると考えられている。おそらく、「編む」技術を基礎として発達した技術であろう。
[川國男]
「織る」技術がいつごろから始まったのか、その起源を調べるためには、考古学上の出土品(製品である織物と、製作工程を物語る道具)にあたってみる必要がある。これまで世界で最古とされる織物は、エジプトのファイユーム、バダリから出土した新石器時代(前5000年ころ)の麻織物である。メソポタミアのスーサ遺跡、イランのシアルク遺跡出土の亜麻(あま)布も紀元前4000年ころと考えられている。その後エジプトでは織物が目覚ましく発達し、初期キリスト教時代のコプト裂(ぎれ)(コプト織)はとくに有名である。ヨーロッパではスイスの杭上(こうじょう)住居跡において新石器時代(前2500年)の亜麻織物が発見されているのが最古であり、中央アジアでは前2500年以上前に毛織物が知られている。インドのモヘンジョ・ダーロでは前3000年ころの綿織物が発見されている。中国では殷(いん)代(前1500年)に絹が綾(あや)織されていた。
日本では、縄文時代晩期(前500年)までさかのぼることは確実である。佐賀県笹ノ尾(ささのお)遺跡の布目痕(ぬのめこん)土器や宮城県山王囲(さんのうがこい)遺跡の布片などがその例である。弥生(やよい)時代になると、奈良県唐古(からこ)遺跡や静岡県登呂(とろ)遺跡、埼玉県柳田下ッ原(したっぱら)遺跡などからは、経巻き具や布巻き具の木器、紡錘車(ぼうすいしゃ)など多数発見されている。
このように、世界的にみても新石器時代ないしは青銅器時代から「織る」技術が存在したことが明らかになっている。
[川國男]
原始時代の「織る」とは、莚織り機のように竪機(たてばた)の横木に糸を張り、緯糸を通しては棒で打って織り上げていき、織りたまると横木を緩めて布地を裏側に回していくという操作であった。古代から近世になると、居座機(いざりばた)や高機(たかはた)が登場し、人間の手足も織機の一部となって、足で綜絖を動かし、手で杼を通し、腰帯で経糸や織布を引っ張るという操作が「織る」という作業であった。近代になって動力機に連結した織機が自動で行うようになり、人間は緯糸の補給や機械管理を行う程度となった。「織る」作業を分解すると、(1)経糸を張る、(2)経糸を開口させる、(3)開口した経糸の間に緯糸を通す、(4)通した緯糸を打つ、(5)布巻きをする、の5工程がある。織り方としては、平織をもっとも基本型として、その応用型として綾織、繻子(朱子)(しゅす)織、紋織、柄織をはじめ、二重織、輪奈(わな)織、からみ織、紗(しゃ)織、巻込み織などがある。これらは、経緯の糸の組合せの本数、綜絖の数および上下の仕方、染め糸の組合せ方などによって、多様な変化を表すことができる。
[川國男]
『内田星美著『日本紡織技術の歴史』(1960・地人書館)』▽『小林行雄著『古代の技術』(1962・塙書房)』▽『チャールズ・シンガー他編、高木純一他訳・編『技術の歴史2』(1962・筑摩書房)』▽『角山幸洋著『日本染織発達史』(1974・田畑書店)』
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