翻訳|lung cancer
肺に発生する悪性腫瘍の一種。肺組織自体から発生する原発性肺癌と,他臓器に発生した癌が肺に転移定着し増殖した転移性肺癌に区別される。
肺の気管支から肺胞に至る組織の表面を覆う上皮性細胞より発生する悪性腫瘍。この細胞集団は,肺という所属臓器の特異性を失い,増殖力のみをもち,さらに細胞の個々の密着性をある程度失って,遠隔転移増殖を起こし,ともに,周囲への圧迫,浸潤破壊を行って宿主を死に至らしめる。
癌のうち肺癌の罹患率は,男性では第1位となり,女性では乳癌,胃癌,大腸癌に次ぐ第4位を占める。さらに,最近,肺癌による死亡が増加し,1993年には,男性では遂に癌死亡の第1位となり,女性では胃癌,大腸癌に次いで第3位を占めている。原発性肺癌のおもな種類としては,扁平上皮癌,腺癌および未分化癌(大細胞癌および小細胞癌)があげられ,このほかに若干のまれな癌が存在する。それぞれの癌の間では性質が相当異なる。発生頻度は日本と欧米では異なり,日本では腺癌:扁平上皮癌:未分化癌=5:3:2の発生率であり,欧米では扁平上皮癌が最も多い。男女別では,扁平上皮癌は男性に圧倒的に多く,腺癌は女性肺癌の大部分を占め,未分化癌は男性に多い。これら各種の癌のうち,扁平上皮癌は,喫煙がその発生の原因に深い関係があるとされる。調査(1966-75)によれば,常習喫煙者の肺癌による死亡は,非喫煙者の場合に比べ,男性で3.6倍,女性で2倍であるという。男性に肺癌が多いことや,近年の女性の喫煙率の上昇とともに女での発生が増加していることなどからも,喫煙と肺癌の関係がうかがえる。好発年齢は中高年層である。
症状や胸部X線CTによる所見では,肺癌に特別なものはなく,確定診断は癌細胞の検出によらなければならない。初期は無症状であり,進展すると,咳,痰の増加,血痰の喀出,胸痛などの症状が現れる。胸部X線写真およびCTでは,腫瘤陰影あるいは無気肺像などを肺野や肺門部に示す。このような所見がある場合,痰の細胞診,気管支粘膜の生検を行い腫瘍細胞の検索を行う。これらによって癌細胞が検出された場合,はじめて肺癌の確定診断となる。治療は外科的切除によることが最も有効であるが,その成績も癌の種類および広がりによって異なる。各種の癌の性質と治療は以下のとおりである。(1)扁平上皮癌 皮膚にみられる扁平上皮に似た細胞の充実性の癌であり,腫瘤を形成するが,血行,リンパ節転移が比較的遅く,外科治療に適する症例が比較的多く,また放射線感受性がよい。肺癌の治療成績が比較的よい種類の一つである。肺門部に発生することが多い。(2)腺癌 組織構造が管腔構造を示す癌で,肺末梢部に発生する。腫瘤増大に比し,リンパ節転移が速やかで,放射線治療に対しては抵抗性があり,治療成績も扁平上皮癌に比べて悪い。(3)未分化癌 細胞分化程度が低く,転移が最も速やかで肺癌のなかでは悪性度が最も強い。なかでも小細胞癌が最も悪性であり,治療成績も最も悪い。放射線,化学療法で効果の出ることも多いが,再発はまぬかれない。
癌の進展度は,原病巣の広がりと転移の程度という二つの方向から定めなければならない。これら肺癌の進展度や病態の評価,統計的観察を統一的に行うために,TNM分類が試みられており,日本肺癌学会とUICC(国際対ガン連合)に共通の分類が作成されている。〈臨床病期分類〉によれば,病変が肺内に限局し,リンパ節転移のない場合を臨床病期1期,転移が同側気管支および肺門に及んだものを2期,肺の周囲臓器および縦隔に及ぶものを3期,遠隔転移を4期と分類している。治療成績は病期1期が最もよい。治療は癌巣を含む肺の切除が主である。病期1期の5年生存率は70%前後であるが,2~3期の症例はこれに比べて著しく劣る。病期2期以後の肺切除症例および非切除症例に対して放射線あるいは化学療法,免疫療法が行われるが,ある程度の延命効果が得られる場合もある。
癌の発生機序は今のところ不明である。したがって,根本的治療は暗中模索といっても過言ではない。唯一の確実な治療は,早期に発見し,病巣が広がらないうちに外科的に完全に切除することである。肺癌の早期発見のため,喀痰細胞診などによる集団検診が盛んになりつつある。
肺以外の臓器に発生した癌が,肺に転移定着し増殖した肺の癌をいう。肺は全身を循環する血液のろ過装置ともいうべき解剖学的特殊性を有するため,転移性腫瘍の発生頻度が最も多い臓器である。原発巣が確定している場合もあるが,肺転移後,原発巣が発見されることも少なくない。胸部X線所見では,結節型,粟粒(ぞくりゆう)型,リンパ症炎型などの種々の像がみられる。原発巣が完全に除去され,肺での癌が限局結節型の場合は外科的摘除を行うが,その他は放射線,化学療法および免疫療法など外科的治療によらない保存的治療にとどまる。
→癌
執筆者:吉竹 毅
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…一方,その特定の臓器とは異なった臓器や組織に腫瘍ができ,本来そこでは作らないはずのホルモンを産生するようになったとき,その腫瘍を異所性ホルモン産生腫瘍と呼ぶ。1962年,副腎皮質機能亢進症状を伴った肺癌の患者の腫瘍組織中に,本来は脳下垂体から分泌されるはずの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が証明されたことから,異所性ホルモン産生腫瘍の概念が確立された。 肺癌の場合が圧倒的に多いが,カルシノイド症候群,甲状腺癌,膵癌,肝臓癌など種々の悪性腫瘍にみられる。…
…気管支拡張症や肺化膿症では大量である。血痰が肺癌の初期症状となることもある。気管支の枝わかれがそのまま鋳型になったような形の粘液やクルシュマン螺旋(らせん)体(気管支喘息(ぜんそく)などのときにみられるもので,螺旋状にねじれた糸状の粘液)など特殊な肉眼的異常がみられる。…
…外界と通じているため排菌も生じ,また病巣内への出血は喀血として新鮮血を排出する。肺結核と同様のレントゲン像を示す空洞性病変は肺癌や肺アスペルギルス症でもみられる。肺癌の場合は扁平上皮癌に多く,癌組織の中心部が自壊し,不規則な形の空洞をつくる。…
…世界で最初に発見され記載された職業癌は,煙突掃除夫のばい(煤)煙による陰囊癌である(イギリスのポットPercival Pott(1775)による)。日本では黒田静,川畑是辰によるガス炉工の肺癌が最初である(1936)。一般の生活での癌は,胃癌をはじめとする消化器癌,子宮癌,乳癌などが多いが,職業癌では皮膚,肺,膀胱など発癌物質が接触,吸入,排出される経路に多い。…
※「肺癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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