相手方またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加える旨を告知して人を脅迫する罪(刑法222条)。2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。個人の自由、とくに意思決定の自由に対する罪の一種。脅迫が財物奪取、性交など他の犯罪目的の手段として用いられる場合には、強盗罪(刑法236条)、恐喝罪(同法249条)、強制性交等罪(同法177条)、強要罪(同法223条)など本罪以外の罪が成立する。
脅迫罪における「脅迫」は、このように告知される害悪の種類が特定されているから、たとえば、暴力団が相手にすごんでみせるだけでは、本罪の脅迫にはあたらない(前述の加害の告知にあたれば別)。名誉を害する脅迫罪として、いわゆる村八分(むらはちぶ)、すなわち結束して特定人を共同生活から排除する旨を通告する行為は本罪にあたる。この事例とも関連して、害悪は告知者自らが加えるのではなく、第三者に加えさせる旨の告知でもよいが、少なくとも相手方に加害の可能性を信じさせるに足る場合でなければならない(これに至らない場合は、本罪の脅迫ではなく、単なる「警告」にすぎない)。害悪を告知する方法は、口頭・文書・通信のいずれでもよいが、本罪の脅迫にあたるためには、その内容・方法その他具体的事情のもとで、一般人に恐怖心を生じさせるに足る程度のものでなければならない。
なお、脅迫罪におけると同様の脅迫を手段として、他人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害した場合には、強要罪(刑法223条1項、2項)として、脅迫罪より重い3年以下の懲役に処せられる。また、強要罪の手段として脅迫を行ったが、その目的を遂げなかった場合には、強要未遂罪として処罰される(同条3項)。
[名和鐵郎 2018年1月19日]
人またはその親族の生命,身体,自由,名誉または財産に対して害を加えるべきことを告知して人を脅迫する罪(刑法222条)。刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金。脅迫とは,一般に人を恐怖させるような害悪が自己の意思によって加えられるべきことを告知することをいい,相手方が現実に恐怖感をいだくことまでは必ずしも必要でないと解されている。告知する害悪の内容は条文に列挙されたものに限られる。判例では,いわゆる〈村八分〉が名誉に対する害悪の告知として脅迫罪になるとされているが,異論もある。人を脅迫する行為は,なんらかの行為を強要するために行われることが多いが,脅迫罪は,その目的を問題としていない。これに対し,脅迫罪と同様の行為または暴行を用いて,人に義務のない事を行わせ,または行うべき権利を妨害した場合には,強要罪(強制罪)として,3年以下の懲役に処せられる(223条)。また,同様の行為によって人に財物を交付させたり,人から財産上の利益を得た場合は,恐喝罪の問題となる。脅迫は,債務の履行請求のように正当な権利の主張・実行の過程でなされることがあるが,その場合でも,権利の内容,告知する害悪の程度を考慮して,相当な範囲を超える場合には,違法であり犯罪が成立する。なお,脅迫によって相手方に行わせた意思表示は,〈強迫による意思表示〉として,民法上その効力が問題となる。
→強迫
執筆者:山口 厚
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