家庭医学館 「脊椎圧迫骨折」の解説
せきついあっぱくこっせつ【脊椎圧迫骨折 Compression Fracture of the Spine】
脊椎の椎体(ついたい)が、重力がかかる方向に加わる力によって、骨折をおこしてつぶれる病気です。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がある高齢者によくみられ、多くは胸椎(きょうつい)から胸椎と腰椎(ようつい)の移行部にかけておこります。
[原因]
骨が正常である成人男子にはまれな病気で、高いところから墜落したなど、大きな力が脊柱(せきちゅう)の軸方向に加わった場合にしかおこりません。
こうした事故の場合、脊椎の圧迫骨折だけでなく、他の部位の骨折(骨盤(こつばん)骨折や下肢骨(かしこつ)骨折など)や臓器の損傷をともなうこともまれではありません。
しかし、骨粗鬆症がある高齢者では、比較的軽い力が加わっただけで、あるいは、ほとんど外傷が加わらなくても、自然に椎体の骨折がおこることがあります。
そのほか、くる病や骨軟化症(こつなんかしょう)、腎性骨異栄養症(じんせいこついえいようしょう)などのような代謝性の骨の病気によって、骨の強度が低下している場合に骨折がおこることもあります。
もっとも多くみられるのは、骨粗鬆症が原因でおこるものです。高齢の女性の背中が丸(まる)くなっていく(老人性円背(ろうじんせいえんぱい))のは、胸椎に自然におこった多発性圧迫骨折が原因です。
[検査と診断]
高齢者が、屋内で尻もちをついたくらいの軽い外傷で背中の痛みを訴えたら、脊椎圧迫骨折を疑ってみる必要があります。著しい骨粗鬆症がある場合は、せきをした程度でも骨折することがあります。
骨折がおこった部分に、痛みを訴えます。急性期には、寝返りや前かがみなどさえもできないほどの強い痛みを訴えます。
圧迫骨折をおこした脊椎のあるところの背中に、棘突起(きょくとっき)が飛び出したようになり(角状後弯(つのじょうこうわん))、そこを軽くたたくと痛みが増強します(叩打痛(こうだつう))。前かがみによって痛みが増強します。
ふつうは、下肢(かし)(脚(あし))のしびれや筋力低下など、脊髄神経(せきずいしんけい)による症状はありません。
老人性円背は、自然におこってくるものですから、このようなひどい痛みはともないません。
単純X線撮影の側面像を見ると、脊椎の椎体前方(腹側)が、つぶれたくさび型に見えます。
ただし、がんなどの悪性腫瘍(あくせいしゅよう)が転移したためにおこる圧迫骨折もありますので、正確な診断が必要です。
診断を確定するために、必要に応じて血液検査、CTやMRIなどの特殊な検査を行ないます。
[治療]
下肢の痛みやしびれなどの神経症状をともなわない、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折は、2~3週間、安静にしているだけで、痛みはしだいに軽くなっていきます。
簡単な腰椎固定バンドなどで固定し、痛みが軽くなるまでベッド上で安静にしますが、あまり厳重に仰臥位(ぎょうがい)(あおむけ)を強制せず、患者さん自身でできる範囲の寝返りは自由にしてさしつかえありません。
患者さんが高齢の場合、長期間ベッドで安静にしていると、呼吸器や尿路系の感染をおこしたり、認知症が発生することがあります。そのほか、急速に下肢の筋力が低下し、起立・歩行できるようになるまで、さらに長期間を要するようになることもあります。
ですから、痛みが軽くなったら、固定バンドを巻いたまま、1日も早く起きて、歩く練習を始めます。
●日常生活の注意と予防
もっともたいせつなことは、転んだりしないことです。そのためには、日ごろからできるだけ運動(散歩など)をすること、外に出てさまざまな刺激を受け、はつらつとした気分を保つことです。
室内に閉じこもってばかりいると、年をとるにつれて、運動能力や反射神経が減退するばかりでなく、骨粗鬆症も進行します。
骨粗鬆症の治療の項(骨粗鬆症の「治療」)で述べている注意を、毎日実行することが、もっともたいせつです。
それでも圧迫骨折がおこったら、まず整形外科の専門医の診察を受け、治療だけでなく、適切なアドバイスを受けて、生活に活かしてください。