家庭医学館 「脳悪性腫瘍」の解説
のうあくせいしゅよう【脳悪性腫瘍 Brain Malignant Tumor】
[どんな病気か]
脳腫瘍(のうしゅよう)(「脳腫瘍とは」)のうち、ほかの部位のがんに相当するのが脳悪性腫瘍です。
頻度は、全脳腫瘍の25%程度です。
[症状]
脳腫瘍には、頭蓋内(ずがいない)の圧が高くなるための頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)と、腫瘍ができた脳の部位に応じて現われる脳局所症状とがあります。
●悪性と良性の症状のちがい
脳腫瘍では、これらの症状が徐々に強くなってくるのが特徴ですが、悪性腫瘍は進行が速いために、ふつうは月単位、ときには週単位でどんどん強くなってきます。良性腫瘍は、症状の進行が数か月以上か、年単位です。
●頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)
腫瘍が発生すると、周囲の組織が圧迫されて、頭蓋内の圧が高くなり、それにともなって症状が現われてきます。
現われやすいのは、頭重(ずじゅう)・頭痛、吐(は)き気(け)・嘔吐(おうと)、うっ血乳頭(けつにゅうとう)で、これを脳腫瘍の三主徴と呼んでいます。
頭重・頭痛は、初めは日によっておこったり、おこらなかったりします。しかも、朝におこり、夕方になると消えるので、「朝の頭痛」と呼ばれます。
腫瘍が大きくなると、いつも頭重・頭痛を感じるようになります。
吐き気・嘔吐も現われやすい症状です。吐き気をほとんど感じないのに、突然、噴水のように吐く噴出性嘔吐(ふんしゅつせいおうと)になることもあります。
うっ血乳頭は、脳からきた視神経と網膜の接点にあたる視神経乳頭が脳に圧迫されて、眼球中に飛び出た状態で、視力が低下してきます。
腫瘍の発生した部位によっては、けいれんがおこります。てんかんを思わせるけいれんになることもあります。
そのほか、ものが二重に見える複視(ふくし)、耳鳴(みみな)り、めまいなどがおこることもあります。
頭蓋内圧が異常に高くなると、脳ヘルニアがおこり、呼吸や意識の障害が現われ、生命が危険になります。
●局所症状(巣症状(そうしょうじょう))
腫瘍が発生すると、その部位のはたらきが障害されるためにおこる症状が現われてきます。
これを局所症状または巣症状といい、腫瘍の発生した部位によって、おこってくる症状はさまざまになります。
腫瘍が大きくなるにつれて症状が悪化してきますが、良性腫瘍の場合は、そのスピードが年単位であるのに対し、悪性腫瘍は、数週間です。
[検査と診断]
CT、MRIで、腫瘍のある部位・大きさ・性状などがわかります。とくにSPECT(スペクト)(単電子放射型CT)、PET(ペット)(ポジトロンCT)を行なえば、より詳しい情報が得られます。
眼底検査を行ない、うっ血乳頭の有無を調べるほか、血液検査で、腫瘍マーカー(「腫瘍マーカー」)の値を調べます。脳腫瘍のなかには、ホルモンを分泌(ぶんぴつ)させるものもあるので、血液中のホルモンの値も調べます。
手術が必要なときには、造影剤を注入して、脳の血管を撮影する脳血管撮影(のうけっかんさつえい)が行なわれます。
◎年々、治療成績が上がっている
[治療]
手術だけで根治できる脳悪性腫瘍は少なく、放射線療法、化学療法などが治療の中心になります。最近では、養子免疫療法(ようしめんえきりょうほう)やミサイル療法などの免疫療法(「がんの免疫療法」)も行なわれています。
■膠芽腫(こうがしゅ)
脳の神経細胞やそれを支える神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)から発生する神経膠腫(しんけいこうしゅ)の1つで、50~65歳の人の前頭葉(ぜんとうよう)や側頭葉(そくとうよう)にできることが多いものです。
全脳腫瘍の約10%、神経膠腫の約3分の1が膠芽腫という頻度です。
きわめて悪性度が高く、発見されたときには、広い範囲に腫瘍が広がっていて、手術ができないことがほとんどです。このため、放射線療法、化学療法、免疫療法などが行なわれますが、平均余命は1~2年です。
■未分化星細胞腫(みぶんかせいさいぼうしゅ)
退形成星細胞腫(たいけいせいせいさいぼうしゅ)、悪性星細胞腫(あくせいせいさいぼうしゅ)ともいいます。神経膠腫の1つで、おとなに発生することが多いものです。子どもの橋脳(きょうのう)に発生することもあって、この場合、橋(きょう)グリオーマと呼ばれます。
悪性度は、良性腫瘍の星細胞腫と悪性腫瘍の膠芽腫の中間くらいで、放射線療法、化学療法が治療の中心になりますが、平均余命は3年くらいです。
■髄芽腫(ずいがしゅ)
神経膠腫の1つで、ほとんどが子どもに発生します。子どもに、頭痛、嘔吐、転びやすい、手の震え、眼球の震えがおこったときは、この病気の可能性があります。
治療は、手術で腫瘍を摘出しますが、腫瘍細胞が広い範囲に飛散しているので、そのままでは、必ず再発します。このため、放射線療法を追加します。かつては、死亡率が高かったのですが、集学的治療(がんの治療法の「どんな治療法があるか」の集学的治療(併用療法))が導入されてから、5年生存率が80%を超えました。
■未分化上衣腫(みぶんかじょういしゅ)(退形成上衣腫(たいけいせいじょういしゅ)、悪性上衣腫(あくせいじょういしゅ))
神経膠腫のなかの上衣腫の悪性型で、子どもに発生することが多いものです。
手術で腫瘍を摘出し、放射線療法と化学療法を追加しますが、5年生存率は、10%程度です。
■頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)
胎児のころの組織で、生後も残っている頭蓋咽頭管(ずがいいんとうかん)から発生するといわれています。子どもに多いのですが、成人やお年寄りにも発生します。
手術をして、腫瘍を全部摘出します。全部摘出できなかった場合は、放射線療法を追加します。化学療法が行なわれることもあります。
この腫瘍が発生すると、ホルモンの分泌が減少するので、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンと甲状腺(こうじょうせん)ホルモンの補充療法も行なわれます。子どもの場合は、成長ホルモンの使用や二次性徴発現の遅れに対する治療が必要になることもあります。
5年生存率は、約63%です。
■悪性胚細胞腫瘍(あくせいはいさいぼうしゅよう)
生殖細胞から発生する胚細胞腫(はいさいぼうしゅ)の悪性型で、男性に多く発生します。
手術で腫瘍を摘出した後、放射線療法と化学療法を追加します。これで10年以上元気でいる人もいます。