ちょうじゅうせきしょう【腸重積症 Intussusception】
◎腸が重なり、放置すると危険
[どんな病気か]
腸の一部が、肛門(こうもん)側の腸の中に、ちょうど望遠鏡の筒(つつ)を短くするように入り込んで、二重に重なった状態になってしまうものです。
消化管は口から食道、胃、小腸、大腸、そして肛門へとつながっています。小腸の終わりの部分(回腸(かいちょう))が、大腸の始まりの部分(盲腸(もうちょう))に入り込む回腸結腸型腸重積症(かいちょうけっちょうがたちょうじゅうせきしょう)(図「腸重積症」)が多くみられます。
狭いところにつめ込まれた腸は血液が流れにくくなり、時間が経つと壊死(えし)(組織細胞の死滅)をおこすため、放置するのは危険です。
生後6か月前後の乳児にもっとも多くみられ、生後3か月未満、3歳以上ではまれになります。また、男児に多く、女児例の約4倍といわれています。
なぜ腸が腸の中に入り込むのかは、発生例の約95%で不明ですが、アデノウイルスというウイルスの感染と関係があるのではないかと考えられています。確かに腸重積症はかぜや下痢(げり)をしばしば合併するので、ウイルス感染によって腸のリンパ節が肥大(ひだい)することが誘因となる可能性は否定できません。
なお、腸管のポリープ、メッケル憩室(けいしつ)など、腸重積の原因と考えられる疾患がある例が約5%ほどあり、2歳以上の子どもに多くみられます。
◎突然、激しい腹痛で始まる
[症状]
三大症状は腹痛、嘔吐(おうと)、血便(けつべん)です。腸重積症による腸閉塞(ちょうへいそく)のため激しい腹痛が始まり、それまで元気であった子どもが、突然不機嫌になり、顔色が真っ青になり激しく泣きだします。ことばで痛みを訴えられない乳児はからだをよじって苦しみます。
激しい痛みはしばらくすると一時消えますが、またぶり返します。最初のうちは痛みと痛みの間は比較的機嫌がよくけろりとしていますが、痛みがくり返され、時間がたつとともに元気がなくなり、ぐったりしてきます。泣き声も、初めは激しく強いのですが、しだいに弱々しくなります。
多くの場合、嘔吐がみられます。これは腸管の通過障害のためで、時間がたつにつれ回数が増します。吐物(とぶつ)は、最初のうちは胃の内容物ですが、しだいに胆汁(たんじゅう)を含んだ黄色い液になります。
また、粘液(ねんえき)と血液の混ざった粘血便(ねんけつべん)が約60%の例でみられます。多くの場合、病気が始まってから12時間以内に生じますが、ときには1~2日たっても生じないことがあります。便はイチゴジャム、あるいはトマトジュースのようにみえます。
いままで機嫌がよかった乳幼児が突然、間欠的(かんけつてき)に激しく泣くときは腸重積症の可能性があります。小児科医あるいは外科医をすぐに受診しましょう。
なお、浣腸(かんちょう)をすると粘血便が出ることが多いのですが、症状が悪化することもあるため、医師が必要と判断したときのみ行ないます。
[検査と診断]
腸重積症が疑われるときにはX線透視、超音波検査が行なわれます。X線を透過しないバリウムを含む水溶液を肛門(こうもん)から注入してX線透視すると(バリウム注腸法(ちゅうちょうほう))、腸が重なった部分がカニのハサミのような形あるいはコイル状にみえます。これで腸重積症の診断がつきます。
最近、バリウム水溶液の代わりに空気を用いる空気注腸法が開発されました。バリウム法より安全性が高いため、よく使われるようになりつつあります。
◎注腸法(ちゅうちょうほう)か手術でただちに治療
[治療]
腸重積症の診断が確定すれば、ただちに治療が行なわれなければなりません。時間がたつほど腸の壊死が進み、腸壁が破れて腹膜炎(ふくまくえん)をおこす危険性が高まるからです。
治療法は注腸法による保存的方法と手術とがあります。どちらの方法で治療するかは病気の経過、症状、診察所見、検査成績で判断されます。ふつう、発症24時間以内ならば、ほとんど注腸法で治りますが、早期に見つかっても手術が必要なこともあります。
●注腸法(ちゅうちょうほう)
発症してから24時間以内の回腸結腸型腸重積症の場合、全身麻酔下にバリウム水溶液あるいは空気を肛門から注入し、少しずつ圧力をかけて、肛門側から押し戻すようにして重なった腸を解きほぐし、整復する方法です。X線で透視しながら、バリウムあるいは空気が重なった腸を整復(せいふく)し、さらに上の方まで十分入り込むことを確認して治療が終わります。
注腸整復後の再発が約10%の例にみられるため、数日入院して様子をみなければなりません。
●手術
注腸法は圧力で整復するため、血行障害が進んでいると腸壁が破れてしまう危険性があります。また、整復しにくい場所や、入り込んだ腸が二重になっていたりすると、注腸法では整復できないこともあります。さらに、診断時にすでに壊死した腸が破れ、腸の内容物が腹腔(ふくくう)に漏(も)れ出し、腹膜炎をおこしていることもあります。このような例が手術対象となります。
開腹して腸を観察し、腸壁の血行障害による変化が軽い場合は、重なった腸を引き出してもとに戻します。腸が壊死や穿孔(せんこう)をおこしているときは、腸の一部を切除してつなぎ合わせる手術(吻合(ふんごう)手術)が必要になります。
●予後(よご)
治療までの時間で決まります。発症後24時間以内ならば、多くは手術をしないでも治ります。おこりやすい年齢、症状に注意が必要です。
ポリープやメッケル憩室などが原因の腸重積は、発症後の時間が短くとも、しばしば手術が必要になります。
出典 小学館家庭医学館について 情報
腸重積症
ちょうじゅうせきしょう
Intussusception
(子どもの病気)
腸重積症とは、本来は口から肛門まで1本のトンネルであるはずの腸管の一部が、肛門に近いほうの腸管に入り込んで重なってしまった病気です。2歳以下、とくに生後4カ月~1歳までが起こりやすく、男女比は2対1と男児に多いと報告されています。
多くは原因不明ですが、ウイルスの腸管感染による腸蠕動の異常が原因とする考え方が有力です。メッケル憩室(けいしつ)、ポリープ、悪性リンパ腫やアレルギー性紫斑病などの基礎疾患が原因となることがあります。
発症初期には、嘔吐、腹痛や不機嫌がみられます(80%以上)。それまで元気であった子どもが、急に激しく泣いてはおさまること(間欠的啼泣)が続くようなら、注意が必要です。感冒様症状を伴うこともあります。
嘔吐が続くと脱水症状を来し、重なっている部分の腸管が炎症を起こして出血を伴い、粘血便やショック症状がみられます。最悪の場合は腸管が破れて腹膜炎を起こし、命に関わることがある緊急性の高い病気です。
診断は症状、経過のほかに、腹部の診察にて右側上部に押すと痛みのある腫瘤を触れること、超音波検査で特徴的な所見を示すこと、注腸造影(肛門からカテーテルを入れて造影剤を注入し、X線撮影する)などで行います。
発症後12時間以内で全身状態が比較的良い場合は、診断を兼ねて注腸造影を行い、整復を試みます。X線透視下で、造影剤や空気を用いて整復を行うことが一般的ですが、現在では超音波下で整復を行う施設もあります。整復が成功した場合でも、再発が起こらないかどうか入院して経過を観察します。
発症から長時間経過している、腸閉塞が高度である、全身状態が著しく悪い、注腸造影で整復できない、すでに腹膜炎を合併しているなどの場合は、手術が必要になります。
再発は、注腸造影による整復例で5~10%にみられます。再発例の50%は、初回整復後5日以内にみられます。手術での整復後の再発は3.5%以下と報告されています。再発を繰り返す場合は基礎疾患の検索が必要になります。
前記の症状が重なって現れ、続くようなら、夜間でも救急外来を受診する必要があります。もちろん、日中であれば小児科を受診してください。なお、腸重積を発症した場合でも、退院後は食生活の制限は必要ありません。
春名 英典
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
腸重積症 (ちょうじゅうせきしょう)
intussusception
腸管の一部が隣接する肛門側の腸管内に入りこむ絞扼(こうやく)性イレウス。回腸が盲腸内に入りこむことが多い。小児は盲腸の固定が不十分で可動性があるために起きやすく,生後3ヵ月から2歳までの小児,とくによく太った男児に多い。ほとんどの場合,原因は不明であるが,前駆症状として風邪をひいていることが多く,腸管周囲のリンパ節の腫張が誘因になると考えられている。腸管ポリープ,メッケル憩室,小腸腫瘍なども腸重積を誘発することがあるが,頻度は少ない。
発病すると,元気であった乳幼児が突然不機嫌となったり,腹痛を訴える。不機嫌や腹痛発作は数分間持続し,15~30分の周期でくり返すのが特徴である。顔色は蒼白となり,発病の初期から嘔吐がみられる。発病数時間後に便に新鮮な血液が混じると診断はほぼ確実である。腹部所見では右上腹部に重積した腸管を腫瘤として触れることができるが,押すと痛がる。症状が進行すれば,小腸内に液体やガスが停滞し,腹部は膨満する。
確定診断はレントゲン透視下でバリウムなどの造影剤を直腸から注入して行う。重積部で造影剤の進入が停止すると診断は確定する。発病してからあまり時間がたっていない場合は,ひきつづきバリウムによる高圧浣腸を行うと重積腸管が押しもどされて整復されることがある。発病から1日以上たっている場合や高圧浣腸で整復されない場合は腸穿孔(せんこう)の危険があるので,緊急手術により整復したほうが安全である。腸がすでに壊死している場合は重積腸管の切除が必要となる。しかし,これら高圧浣腸や手術で腸重積を整復しても,再発することがある。
腸重積の特殊なものとしては,手術を契機として起きる小腸重積症である術後腸重積症がある。
執筆者:伊藤 泰雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
腸重積症
ちょうじゅうせきしょう
腸の一部が隣接した腸管腔(くう)内へ嵌入(かんにゅう)し重積したもので、その部の通過障害と血行障害を伴う。腸管の通過障害をイレウス(腸閉塞(へいそく))というが、乳幼児の後天性イレウスとして腸重積症は頻度も多く、早期診断・早期治療によって後遺症なく治癒させることが可能な疾患であるので、的確な診断と対応が重要である。年齢は4か月から2歳くらいの乳幼児がほとんどで、栄養状態のよい健康児に突然発症する。女児より男児に多くみられる。
原因は不明であるが、腸間膜リンパ節の腫脹(しゅちょう)や上気道感染を伴うことが多いところから、アデノウイルスあるいはロタウイルスとの関連性が論じられている。
症状は、突然の嘔吐(おうと)あるいは腹痛を訴えるような激しい啼泣(ていきゅう)で始まり、これがいったん治まるかのようにみえるが、再発し、何回も繰り返すのが特徴である。間欠期にはぐったりして元気なく、血液を混じた粘液、いわゆる粘血便を排泄(はいせつ)する。
診断は、前述のような症状とともに、腹部触診によって右側あるいは上腹部にソーセージ様腫瘤(しゅりゅう)を触れること、X線透視下で直腸から造影剤を注入すると、嵌入部で進行が阻止され、先進部が盃(さかずき)状あるいはカニの爪(つめ)(はさみ脚(あし))状を呈すると確定する。
治療は、発症からあまり時間が経過していなければ、高圧浣腸(かんちょう)によって嵌入部に圧を加え、重積した部分を元に戻す。発症から12時間以上経過すると、血行障害によって嵌入部が組織変化し、高圧を加えると穿孔(せんこう)するおそれがあるので注意を要する。長時間経過したものは外科的に治療する。
なお、成人にもみられるが、乳幼児の場合とは異なり、80%までは原因が明らかである。その大半は良性または悪性腫瘍(しゅよう)によるもので、病変部の切除が必要となる。
[山口規容子]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
腸重積症【ちょうじゅうせきしょう】
腸管の一部が連続している腸管の間にはまりこみ,腸閉塞(へいそく)に陥るもの。6ヵ月〜2歳児に多い。嘔吐(おうと)と腹痛が主症状で,顔色が悪く,ぐったりしている。腹痛発作時には足を縮めて激しく泣く。バリウムの高圧浣腸(かんちょう)または手術で整復する。
→関連項目小児外科|腸捻転
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
腸重積症
ちょうじゅうせきしょう
invagination
腸重畳症,腸重鞘症ともいう。腸管の一部がそれに連なる腸管の内腔に折れ込んだ状態で,肛門側に向って嵌入することが多い。腸閉塞症の一型で,その3分の1を占めている。右下腹部の回盲部に多発する。原因にはなお不明の点が多い。腹痛,血便,嘔吐を伴う。乳幼児や 10歳未満の小児に多い。まず注腸透視をしながら整復し,整復不能のものには手術を行う。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の腸重積症の言及
【イレウス】より
…単純性イレウスは,先天性腸閉鎖や腸狭窄,鎖肛,腸の腫瘍,手術後の癒着,腸管内異物による閉塞などが原因となる。絞扼性イレウスには,癒着による腸管の絞扼,腸の軸捻転,ヘルニア嵌頓(かんとん),[腸重積症]などがあり,いずれも緊急に腸の血行障害を除かないと腸が腐ってしまい,危険である。俗にイレウスのことを腸捻転というが,実際に腸がねじれるのは絞扼性イレウスのうちの軸捻転で,老人にみられるS状結腸軸捻転と子どもの小腸軸捻転ぐらいである。…
【腹痛】より
…このような腸閉塞を絞扼(こうやく)性イレウスといい,血行障害を伴わない単純性イレウスと区別している。腹痛は生後1~2年までの小児にみられる[腸重積症]やヘルニア嵌頓(かんとん)などでも起こり,短時間の間に腸は壊死に陥る。ヘルニア嵌頓はいくらか経過がよいが,幼児などで原因不明の腹痛ではまずこれを考えなければならない。…
※「腸重積症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」