一般に境、境界を意味し、物理学では物質の物理的性質が異なる境界をさす用語として用いられる。とくに原子炉や核燃料について、核分裂反応が時間とともに増大し始める境目の状態、中性子の生成と消滅が均衡している状態を臨界あるいは臨界状態という。
ウランやプルトニウムは、中性子の照射により、核分裂するとともに2~3個の中性子を放出する。放出された中性子が次の核分裂を引き起こすと、連鎖反応と同時に急速に核分裂反応が倍増していく( )。中性子の数を制御しながら核分裂反応が増加しないように連鎖反応を継続させ、臨界状態を実現することを、臨界に達したという( )。臨界状態になっていない状態を未臨界または臨界未満といい、時間とともに連鎖反応が増加することを超臨界または臨界超過という。また、臨界に達したのち、原子炉の運転を停止し、核分裂が停止した未臨界状態となり、その後、ふたたび臨界状態になることを再臨界とよんでいる。
[加藤幾芳]
原子炉では、カドミウムやホウ素などの、中性子を吸収しやすい物質を用いて中性子の数を制御する。臨界状態は、これらの物質でできた制御棒を原子炉から出し入れして実現する。臨界事故(制御されない連鎖反応が起こることや意図しない臨界状態が実現すること)に至らないように、ウランやプルトニウムなどの核燃料物質を取り扱う施設や作業手順などについて管理することを臨界管理といい、その研究分野を臨界安全とよんでいる。
核分裂物質を一定量集めると、核分裂反応が連鎖的に起こる。連鎖反応の起こる最少量を臨界質量あるいは単に臨界量といい、核分裂物質の種類、形状、密度、周囲の物質の種類や状態などによって異なる。核燃料や核分裂物質が臨界量になることがないように、臨界管理は厳重に行わなければならず、臨界安全では、たとえ臨界事故が発生しても重大な状態にならないように、さまざまな対応処置を検討するとともに、臨界量を決めるデータの収集・分析が行われている。
1999年(平成11)、茨城県東海村JCO核燃料加工施設で発生し、作業員2名が死亡した臨界事故は、作業の効率化を意図して正規の工程から外れ、背丈が低く内径の広い沈殿槽に臨界量以上の硝酸ウラニル溶液を注入したために生じたものである。沈殿槽を包む冷却ジャケット内の水が中性子の反射材となって核分裂反応が促進され、臨界状態は約20時間継続した。臨界状態を脱することができたのは、冷却ジャケットの水を抜いて反射機能を除去し、中性子が容器の外に漏れるようにしたことによる。このように、臨界量が核分裂物質の形状や周囲の状態に依存することを理解することは重要である。
臨界状態を保ちながら運転する現在の原子炉は、つねに中性子の生成と消滅のバランスを保ちながら運転するため、臨界事故の危険性を抱えている。もし、未臨界の状態で運転し、不足する中性子を外から絶えず供給して運転できれば、臨界事故が起こらない原子炉が可能である。このような原子炉は未臨界加速器駆動原子炉とよばれ、次世代原子炉の一つとして研究されている。
[加藤幾芳]
核分裂性物質を含む物質の集合体において,単位時間に核分裂で発生する中性子の数と吸収や漏れで失われる中性子の数が等しい状態をいう。核融合装置では,核融合反応を維持するために入力されるエネルギーと反応の結果発生するエネルギーが等しいとき,臨界状態にあるということがある。臨界にできる核分裂性物質の集合体は原子炉と呼ばれ,その設置には国の許可が必要である。関連する概念に未臨界,超臨界がある。すなわち,単位時間に発生する中性子の数よりも失われる中性子の数の方が多い状態を未臨界,発生する中性子の数の方が多い状態を超臨界(あるいは臨界超過)であるという。実動原子炉中での微小時間⊿t(秒)間の中性子数n(t)の変化n(t+⊿t)-n(t)は,核分裂により中性子数n(t)が実効増倍係数keffに従ってkeff倍になるのに要する時間をl秒とするとき,
で与えられる。これから,という微分方程式が得られ,n(0)=n0について解くと,となるから,軽水炉ではl≒10⁻4秒であることを使えば,keff=1.001としてもn(t)=n0e10tとなり,わずかに臨界超過にしても1秒間に中性子数が2万倍にもなることがわかる。
実際には,核分裂によって,核分裂中性子がすべてすぐに発生するわけではなく,約0.3~0.8%は0.1~数十秒にわたって遅れて発生する。これを遅発中性子という。この結果keff-1が,この遅発中性子の割合より小さければ,遅発中性子が発生して初めてこのkeffの値が実現するので,上のlが実効的には1秒前後の値になる結果,中性子数の増加はゆっくりしたものになる。この状態を遅発臨界にあるという。一方,keff-1がこの割合より大きければ,遅発中性子がなくても臨界になってしまうので,上式で示した事態が出現してしまう。この状態を即発臨界という。原子炉を即発臨界にすると通常の制御系では出力制御が困難になるので,これが実現しないよう制御棒1本の反応度を制限するなどの対策がとられている。
→原子炉
執筆者:近藤 駿介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
原子炉または核分裂性物質を含む系において,単位時間当たりの核分裂数が一定となる状態をいう.臨界では中性子の生成数が吸収と漏れによる消失数に等しく,定常的な中性子密度が保持される.臨界には2種類あり,遅発中性子の寄与によって達成される遅発臨界と,即発中性子のみによって達成される即発臨界がある.通常,単に臨界といえば遅発臨界のことである.臨界になるために必要な核燃料の量(臨界質量)は,種類,形状,形態,中性子反射材の有無などの条件によってかわるが,金属状の 235U およびα相の 239Pu の最小臨界質量は,それぞれ22.8 kg と5.6 kg である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…一定量の気体を温度一定に保って圧縮すると,気体の体積は小さくなり,圧力が増す。圧縮を続けると,ある圧力のところで液化が始まる。しかし,ある温度より上では,どんなに圧縮しても気体は液化しない。圧力を加えることによって液化が起こる限界の温度を臨界温度critical temperature,臨界温度で液化の起こり始める圧力を臨界圧力critical pressureという。臨界温度,臨界圧力は,各気体に特有なものであり,気体の量にはよらない。…
…そして,ちょうどkeff=1のときにのみ中性子数,したがって単位時間当りの核分裂数は世代を経ても変化しない。この状態を臨界という。また,keff>1のときを臨界超過または超臨界,keff<1のときを未臨界または臨界未満という。…
※「臨界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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