ある生物に生じた遺伝的変異のうち、生存競争において有利に作用するものは保存され、有利でないものは除去され、選択されることをいう。自然淘汰(とうた)ともいう。C・R・ダーウィンが、品種改良で行われる人為選択から類推し、自然界における新しい種の出現のための主要因として提唱した概念。ダーウィンは、生物が多産であるが、その子孫の多くが繁殖に参加することなく死んでしまうことから、生存競争の存在を想定し、同じ種の生物であっても個体は互いにすこしずつ異なっている、つまり変異が存在することから、生存競争において生き残り、子孫を残すのは、わずかでも生存に有利な変異をもった個体に違いないと考えた。有利な変異が子孫に遺伝するならば、その子孫もまた生存競争において有利となろう。こうした自然選択の効果が長い間蓄積され続ければ、しだいに生物が変化し、新しい種が生じると考えたわけである。現代でも自然選択説は、変異の供給を説明する突然変異説とともに、進化要因論の中心概念である。しかし、その実証例となると、ヨーロッパの工業都市で知られるガの工業暗化という現象など、わずかにすぎない。それらの例も、一つの種内での小さな適応的変化にすぎないので、自然選択は、小進化の説明に限定すべきだとの見方も少なくない。
生存競争における有利・不利は、生存率の差ではなく、次世代に寄与する子孫をどれだけ残すかで決まる。したがって、それは、ある個体の一生を通して実現されるものであり、生活の個々の局面での有利・不利とは、かならずしも結び付くものでない。また、当然、環境条件に変化がおこれば、有利な形質も違ってくる。自然選択を最適者生存と同義にみる傾向があるが、前述のことからもわかるように、それは一般に考えられているほど単純なものではない。条件を単純化して考える人間の頭のなかにしか最適者は存在しえないともいえよう。
[上田哲行]
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…自然選択ともいう。生物進化のしくみの中で,最も重要なものと考えられている過程。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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