翻訳|free port
輸入品に関税を賦課して保護貿易政策をとっている国が、保護政策を保持しつつ、中継貿易や加工貿易の発展を図る目的で、貿易港の全域あるいは一部の地域に限って、自国の関税法を適用しないで輸入貨物の自由な出入を認める制度である。この区域では、輸入貨物の積込み、陸揚げ、保管、荷分け、あるいは加工製造が行われ、海運、倉庫、保険などの商港業務の発展も図られている。自由港の制度は、中世のイタリアの自由都市に由来するといわれるが、現在ではその指定地域や業務の範囲によって自由港市、自由港区、自由地区の三つに分けられる。自由港市は本来の自由港であり、港市全体が関税区域外とされ、外国貨物の輸出入およびそれらの加工のみならず市民の居住も認められている。しかし、自由港市は脱税や密貿易の危険、あるいは港内の市民と港外の市民との利害対立などがおこるため、現在ではほとんどみられない。ただシンガポール、香港(ホンコン)がこれに近い形態を残している。自由港区は自由港市の欠点を除き、範囲がより狭くなったものである。貿易港のうちとくに開放地域の全部あるいは一部を関税区域外とし、そこでの貨物の輸出入、保管、加工は自由になされるが、居住は認められていない。加工貿易や中継貿易の促進を目的としている。自由地区の場合はさらに範囲が狭くなり、加工も認められず、貨物の積み卸しと倉庫保管が認められるだけで、いわばおもに中継貿易の発展のみを目的としたものである。なお最近では、中継貿易や加工貿易の振興のためには、この自由港制度にかえて、より弾力的な保税地域制度が利用されることが多い。たとえば、台湾の高雄(たかお/カオシュン)や韓国の馬山(ばさん/マサン)、マレーシアのペナンなどでは、外国資本を誘致して輸出の増大と外貨獲得、技術導入、雇用機会の増大などを目的に、輸出加工区を設けた。わが国でも類似の制度として、輸入を促進するために、1992年以降輸入品を関税や消費税を支払わずに展示、加工できる総合保税地域を設けている。
[秋山憲治]
外国貿易には税関審査,関税支払等の複雑な税関手続が必要であるが,港湾の一部または全部をそのような手続から解放し,中継貿易ないし加工貿易の促進をはかるのが自由港である。港湾設備の利用率を高め,中継貿易の発展に資するために設けられる港湾内の自由地域free port zoneでは,外国貨物の搬入,再輸出が認められている。例としてはアメリカのニューヨーク,ニューオーリンズ,サンフランシスコなどがある。また外国貨物の加工・製造をも認めるのが自由港区free port quarterであり,コペンハーゲン,ロッテルダム,グダンスク,シンガポール,香港などがある。
自由港の歴史をさかのぼると,古代カルタゴ,ローマ帝国に求められるが,近代の原型は16,17世紀イタリアの主要港,リボルノ,ベネチア,ナポリ,ジェノバなどである。これらの港のあった都市は外国人の居住も自由に認めたので自由港市free port cityとも呼ばれる。のちに,中・北欧の発展に伴って自由港市はハンブルク,ブレーメン,ダンチヒ(グダンスク)などにも広がった。自由港市は密輸の取締りが難しく,現在では存在せず,香港,シンガポールがそれに近い形で残っているだけである。
最近では自由港制度と似た保税倉庫・保税工場の制度によって,中継・加工貿易の促進に資するケースが増えてきている(〈保税制度〉の項参照)。これらの制度は港湾から離れた地域での2年間までの貨物の蔵置,あるいは加工等を認めるので,自由港よりも弾力的な制度である。
執筆者:平山 健二郎
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