航路標識(読み)こうろひょうしき(英語表記)navigation mark

精選版 日本国語大辞典 「航路標識」の意味・読み・例文・類語

こうろ‐ひょうしき カウロヘウシキ【航路標識】

〘名〙 主に沿岸を航行する船舶の安全を保護するために、沿岸および航路に設けられた標識の総称。夜標(灯台、灯標、灯浮標、灯柱)、昼標(立標、浮標、陸標)、霧信号、特殊信号、無線方位信号に分類される。〔航路標識条例(明治二一年)(1888)〕

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デジタル大辞泉 「航路標識」の意味・読み・例文・類語

こうろ‐ひょうしき〔カウロヘウシキ〕【航路標識】

船舶が安全に航行するために設けられた標識。光波標識・音波標識・電波標識などがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「航路標識」の意味・わかりやすい解説

航路標識
こうろひょうしき
navigation mark

灯光、形象、彩色、音響、電波などを用いて船舶の航行を援助する施設をいう。日本では航路標識法によって、海上保安庁または同庁長官の許可を受けた者が設置・管理を行っている。

[川本文彦]

歴史

底の浅い小舟で視界のよいときだけの小航海では、山頂、島、著樹(海上から見て顕著な樹木)などの自然目標だけでもよいが、船が大きくなり、喫水も深くなって、陸岸が見えなくなるほど遠くへ船を進め、昼夜を分かたず夜間も航海するようになると、船舶に位置を確認する手段を与え、障害物の存在や安全な水路を示す人為的施設が必要になる。航路標識の起源は遠く紀元前にさかのぼる。日本では、船の通行できる水深の深い水路である「みお」を示す「みおつくし」が『万葉集』に出てくるほか、烽(とぶひ)は1200年以上前、灯明(とうみょう)台は400年以上も前から夜の道しるべとして用いられてきた。

 現状に近い灯台が初めて建設されたのは、1795年、イギリスのプリマス港のエジストン灯台である。日本では1869年(明治2)、横浜本牧(ほんもく)、観音(かんのん)崎、野島(のじま)崎につくられた灯台がもっとも古い。

[川本文彦]

現代の航路標識

〔1〕灯光・形象・彩色によるもの
 夜間は一定の灯光により、昼間は形象と彩色によって、位置、障害物、航路などを示す。点灯装置のあるものを夜標(やひょう)、ないものを昼標と区別することがあるが、夜標も、昼間の目標として効果のある構造を選ぶのが通例である。

(1)灯台・灯柱・陸標 船舶が陸地、主要変針点または船位を確認する際の目標として沿岸に設置されたり、港湾、港口等を示すために設けられた構造物。灯光を発し構造が塔状の灯台、柱状の灯柱と、灯光を発しない陸標がある。

(2)灯標・立標(りっぴょう) 障害物や航路を示すために岩礁、浅瀬などに設置した構造物で、灯光を発する灯標と、発しない立標がある。

(3)灯浮標(とうふひょう)・浮標 (2)と同じ目的で用いられるが、重りや錨(いかり)で海底に固定されて海上に浮かぶ構造物である。灯光を発する灯浮標と、発しない浮標とに分かれる。

(4)導灯・導標 通航の困難な水道や湾口などの航路を示すために、航路の延長線上の陸地に2基以上を1対として設置される。灯光を発するものを導灯、発しないものを導標という。

(5)指向灯 (4)と同じ目的で航路の延長線上の陸地に設置される。白光で航路を、緑光で左舷危険側を、紅光で右舷危険側を示す。

(6)橋梁(きょうりょう)灯 橋下の航路または可航水域の中央・側縁および橋脚の存在を示すために、橋桁(はしげた)、橋脚などに設置する灯光をいい、中央灯、側端灯、橋脚灯がある。

(7)照射灯 障害物の存在を知らせるため、暗礁、岩礁、防波堤先端などを照射する灯火。

(8)その他の灯光 シーバース、波浪観測塔、石油掘削塔など海上に設置された固定構造物を示す灯光。

 夜標は原則として日没時から日の出時まで点灯されるが、無看守・無管制のものは常時点灯している場合も多い。また看守者のいる灯台でも、霧の発生など、天候によっては昼間から点灯されることがある。また出入船舶の少ない港湾や河口で、船舶出入時だけ点灯される標識や、季節を限って点灯される臨時灯もある。灯台改築中などには簡単な仮灯が設けられる。

 これらの航路標識は、夜間は灯質、昼間は立標式・浮標式によって識別し、航路を指示する。

〔2〕音響によるもの
 霧・雪などで視界の悪いとき、音を出して近くを航行中の船舶に位置を知らせるものを霧(きり)信号といい、多くは灯台その他の航路標識に付設される。音は、エアサイレン、モーターサイレン、ダイヤホン、ダイヤフラムホン、霧鐘、ホイッスルなどによって発せられる。大気の状況や地形、風向などにより音の達する距離も不定で、音源の方向判断もむずかしい。

〔3〕電波によるもの
 無線方位信号所、ロラン局デッカ局、オメガ局などがある。

〔4〕その他
 特殊な航行援助施設として次のものがある。

(1)潮流信号所 潮流の強い海峡において、潮流の流向・流速の変化を、形象、灯光(電光板)、電波で船舶に通報する施設。来島(くるしま)海峡、関門海峡に設置されている。

(2)船舶通航信号所 レーダー、テレビカメラにより、港内の特定航路やその付近の水域の船舶の交通情報を収集し、特定航路の管制状況とともに、定時および依頼に応じて無線電話で船舶に通報する施設。東京13号地、塩浜、本牧(神奈川県)に設置されている。

(3)レーダー局 レーダーにより港内または船舶の輻輳(ふくそう)する海域において、船舶情報を収集し、定時および依頼に応じて無線電話で船舶に通報する施設。釧路(くしろ)港、観音崎(神奈川県)、大阪港に設置されている。

(4)船舶動静信号所 橋梁が船舶のレーダー映像に障害を及ぼす海域で、視界不良時に橋脚に設置された陸上レーダーで、海域内の船舶の有無を検知し、灯光、またはレーダービーコンで通報する施設。瀬戸内海大三島橋に設置されている。

[川本文彦]


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改訂新版 世界大百科事典 「航路標識」の意味・わかりやすい解説

航路標識 (こうろひょうしき)
navigation mark

海上交通の激しい港の入口,狭水道,暗礁や浅瀬の多い沿岸航路付近などにおいて,その危険な場所を示したり,船が自分の位置を確かめたり,あるいは航路を指示するために設けられる人為的な施設。灯光,形象,彩色,音響,電波などを利用しており,種類としては夜標,昼標,霧信号所,電波標識などがある。灯台も航路標識の一種で,夜標の代表的なものである。国際的な関連が強く,国際航路標識協会(IALA)および国際水路機関(IHO)において国際的に極力内容を統一するよう協議しており,日本では航路標識法に基づき海上保安庁が管理している。

 航路標識の歴史は古く,前279年ころエジプトのファロス島に建設された高さ60mの石積塔のファロス灯台はきわめて有名である。日本では7世紀中ごろ遣唐使船の目標として九州北岸にのろしを置いたのが始まりとされている。その後1635年(寛永12)には徳川幕府により御前崎に灯明台が建てられ,1866年(慶応2)馬関戦争の賠償金にかえて観音崎,剣崎,野島崎など8ヵ所に灯台を設置することとなり,69年(明治2)観音埼灯台が点灯された。これが洋式灯台の初めで,その後,船の大型化,運航技術の発達に伴い,航路標識の機構,性能も急速に進歩した。

(1)夜標 灯火によってその位置を示し,特定の灯光信号を発して,主として夜間航行の目標とするが,昼間の目標としても十分効力のある構造と彩色を備えている。夜標の種類としては,遠距離からの目標あるいは港湾および沿岸航路の標識となる灯台,暗礁や浅瀬上に設置し,乗揚げを予防する灯標,暗礁や浅瀬を示し乗揚げを予防し安全な航路を表示するブイ形式の灯浮標,沖合または航路上重要な位置に定置する灯船,航行困難な狭水道や狭い湾口,港口などの航路線を2個以上の標識で示す導灯,狭水路などを安全航行できるように可航水路を白光で,その外側危険水域を緑光および紅光で示す指向灯,険礁,防波堤先端などの危険物付近海面を照射する照射灯などがある。航路標識の灯火は一般の灯火と識別しやすいように,また付近にある他の航路標識との誤認を避けるために特定の灯火の色と発射状態(灯質)を決めている。航路標識の灯の等級はレンズの焦点距離とその高さにより1~6等級および等外に区分されている。光源はアセチレン,ボンベガス,電球などで,近年では波浪発電,太陽電池,日光弁自動点滅方式,停電時の応急管制の自動化,無線による遠隔操縦なども利用されている。
灯台
(2)昼標 点灯装置がなく,形象,彩色により昼間の目標となる標識。暗礁や露岩上に設置される立標のほか,浮標,導標などがあり,それぞれの目的は灯標,灯浮標,導灯などの夜標とほぼ同じである。

(3)霧信号所 霧,雪その他視界不良のとき音響で信号所の位置を知らせ,付近を航行する船に警告するもの。音響の発生にはエアサイレン,モーターサイレン,ダイヤフォン,霧鐘などが利用される。

(4)電波標識 視覚による標識の利用は内海や沿岸の航路付近に限られ,また天候に左右される不利がある。それに反して電波を利用した標識は大洋においても,また天候不良の場合にもきわめて有効である。この標識を大別すると無線方位信号所と双曲線航法用の施設に分けられる。無線方位信号所には船が発射した電波を陸上で受信して船の方位を測定し,その方位を船に通報する無線方向探知局と船自身で方位を測定できるよう,陸上または灯船から標識電波を発射する無線標識局がある。なお,無線標識局には無指向性電波を発射する無指向性式,指向性電波を回転しながら発射する指向性回転式および両者を併用したものとがある。以上は中波または中短波を用いたものであるが,このほかにマイクロ波の無線標識局として,方位を度数で知らせるトーキングビーコン,誘導信号で安全な航路を指示するコースビーコン,船のレーダー映像面に局の方位が輝線で現れるよう電波を発するレーマーク局などがある。双曲線航法は,1対の海岸発信局から発射された短いパルス電波を船の特殊受信機で受信し,その2局からの信号の到着時間差または位相差を測定することにより船の位置を求めるもので,このための電波発信局としてロラン局,デッカ局およびオメガ局がある。
電波航法
(5)潮流信号所 来島海峡や関門海峡のように船がふくそうし,とくに潮流の速い海峡において潮流の状況(流向,流速など)を形象,灯光,電波(無線信号および電光板)などにより船に知らせるための施設。

1888年に制定された航路標識条例に代わるものとして,1945年に制定された法律で,航路標識の整備,その合理的・能率的運営により船の運航能率の増進を図ることを目的としている。内容は,航路標識の設置および管理,航路標識の告示,事故発見者の報告義務,航路標識の誤認および障害となる恐れのある灯火,工事,植物などの制限,汚損行為の禁止などが規定されている。
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百科事典マイペディア 「航路標識」の意味・わかりやすい解説

航路標識【こうろひょうしき】

海上交通の激しい港口,危険な沿岸航路,潮流の強い海峡,水道などで,船位を知らせたり航路を示すために設ける標識。灯光を発する灯台・灯標などの夜標,形象や彩色による立標・浮標(ブイ)などの昼標,電波を利用した無線方向探知局や無線標識局,音響で信号所の位置を知らせる霧信号所,潮流の状況を知らせる潮流信号所などがある。航路標識法に基づき海上保安庁が管理する。
→関連項目灯船導標灯浮標ラジオブイ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航路標識」の意味・わかりやすい解説

航路標識
こうろひょうしき
navigational aids

航行する船舶の安全と,能率のよい運航に役立てるための目印となる施設。指標に用いる手段によって,光波標識,電波標識,音波標識,その他に大別される。代表的なものは灯台で,ほかにも灯標,灯船,浮標 (ブイ) ,デッカチェーン,無線方位信号所,霧信号所,潮流信号所などがある。航路沿いの岬や島,港の入口,潮流の強い海峡や水道,暗礁や浅瀬の多い沿岸部,霧の多い水路などに設けられている。標識の様式は国際的にほぼ統一されており,日本では海上保安庁が管理にあたっている。

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