デジタル大辞泉
「藤衣」の意味・読み・例文・類語
ふじ‐ごろも〔ふぢ‐〕【藤衣】
1 藤づるの皮の繊維で織った粗末な衣服。ふじのころも。
「穂にもいでぬ山田をもると―稲葉の露にぬれぬ日ぞなき」〈古今・秋下〉
2 麻布で作った喪服。ふじのころも。
「―露けき秋の山びとは鹿のなく音に音をぞそへつる」〈源・夕霧〉
3 序詞として用いて、織り目が粗い意から「間遠に」に、衣のなれる意から「馴れる」に、衣を織るの同音から「折れる」にそれぞれかかる。
「須磨の海人の塩焼き衣の―間遠にしあればいまだ着なれず」〈万・四一三〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
ふじ‐ごろも ふぢ‥【藤衣】
〘名〙
① 藤や葛など、つる性の植物の皮の繊維で織った布の
衣類。織目が荒く、肌
(はだ)ざわりが固く、じょうぶではあるが粗末なもので、貧しい者の衣類とされていた。また、序詞として衣の織目の粗い意から「間遠に」、衣になれるという意から「なれる」、衣を織るという音から「折れる」をそれぞれ引き出す。藤の衣。
※
万葉(8C後)三・四一三「須磨の
海人の塩焼衣の藤服
(ふぢころも)間遠にしあればいまだ着なれず」
② 喪服をいう。もと、①の衣服を喪服として用いたからであろうが、後、麻で作ったものをもいう。中古の例は、
大部分が喪服をさしたものである。藤の衣。
※古今(905‐914)
哀傷・八四一「ふぢ衣はつるるいとはわび人の涙の玉の緒とぞなりける〈
壬生忠岑〉」
[補注]「
安斎随筆」の房総志料に、「望陁布」として紫藤から作る衣類のことを述べ、樵などが着るとあるので、近世頃まで実際にあったと考えられる。
ふじ‐ぎぬ ふぢ‥【藤衣】
※天永元年右近衛中将師時山家五番歌合(1110)「網曳きする
立石の蜑
(あま)のふぢぎぬもなにによりてか袖は湿
(ひ)づらむ〈
藤原仲実〉」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
普及版 字通
「藤衣」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
世界大百科事典(旧版)内の藤衣の言及
【藤布】より
…木綿の伝わる中世末期までは植物性繊維として,アサ(麻)についで栲(たえ)などとともに庶民の間には広く行われていたと思われる。藤衣(ふじごろも)というのが公家(くげ)の服飾の中で喪服として用いられたが,これはもともと粗末なものを用いることをたてまえとする喪服が,庶民の衣服材料である麻布や藤布で作られたため,このように称したのであろう。近代には藤布はござの縁布として織られた。…
※「藤衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」