ドイツ語 Hämo は血の意、philie は友の意。血友病は、古くから知られていたが、一九世紀の初頭、遺伝病であることが明らかになった。明治初期の医学用語集「医語類聚」(一八七二)や「漢洋病名対照録」(一八八二)には載せられていない。
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
血友病は、
血友病の原因は、止血に重要な血液凝固第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の欠乏ないし異常です。それぞれ、X染色体上にある第Ⅷ因子遺伝子あるいは第Ⅸ因子遺伝子のさまざまな変異(遺伝子の欠損、挿入、点変異(遺伝子塩基配列における1塩基置換による変異)など)に基づくもので、時に家系内遺伝のない突然変異による孤発例もあります。
第Ⅷ因子の遺伝子および第Ⅸ因子遺伝子は、ともにX染色体(性染色体:女性は2本/XX、男性は1本/XY)上にあるため、血友病A、Bはともにほとんど男児に発症(
重症型(因子活性1%以下)では、乳児期のささいな外傷、打撲に伴う皮下血腫、関節出血などで発症します。
中等症・軽症の血友病では、出血症状はまれです。抜歯や外傷後の止血が困難な時に検査を受け、初めて診断されることもあります。
特徴的な出血症状の観察や、家族歴をよく聴取することで、診断が可能な場合があります。血液凝固検査では、出血時間とPT(プロトロンビン時間)は正常ですが、全血凝固時間とAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)は延長します。確定診断には、血中第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の活性を測定し、重症(1 %以下)、中等症(1~5%)および軽症(5~30%)に分類します。
また、それぞれ第Ⅷ因子の遺伝子あるいは第Ⅸ因子の遺伝子の異常を調べる遺伝子診断も行われています。とくに保因者診断において、各因子の活性測定による診断が困難な場合の確定診断に威力を発揮しています。
治療の基本は、凝固因子製剤の輸注(補充療法)による止血で、常に早期止血が重要です。1983年から導入された家庭輸注療法(自己注射)は極めて有用で、出血を繰り返す例では定期投与による血友病性関節症の予防を、また過激な運動・旅行などで出血が予想される場合には予防のための補充療法を行います。
①
補充療法では、血友病Aでは第Ⅷ因子製剤、血友病Bには第Ⅸ因子製剤を使います。現在用いられている凝固因子製剤はすべてウイルス不活化処理がされており、止血効果は製剤間で差はありません。
補充療法での投与量、投与間隔、投与期間は、それぞれ出血部位、程度、血中半減期(第Ⅷ因子は8~12時間、第Ⅸ因子は18~24時間)によって異なります(表17)。投与量の計算法は、血友病Aでは1%上昇させるために体重1㎏あたり2分の1単位の第Ⅷ因子を、血友病Bでは1単位の第Ⅸ因子を必要とします。
また、治療中に10~20%の症例に、因子に対するインヒビター(抗体)が発生することがあり、このような症例にはバイパス療法として、活性型プロトロンビン複合体あるいはリコンビナント第Ⅶa因子製剤を用います。
②デスモプレシン療法
本剤は、血管内皮からの内因性第Ⅷ因子の放出により血中濃度を上昇させるので、中等症~軽症の血友病Aに有効です。
③補助的薬物療法
鼻出血に対して、鼻腔内タンポン(オキシセル綿型など)による圧迫止血を行う場合もあります。
まず、専門医による正確な診断が必要です。血友病性関節症の防止のためには早期輸注による止血が重要で、家庭輸注療法(自己注射)が極めて有用です。
いつもと違う頭痛、腰痛、股関節痛が現れたら、すぐに主治医と連絡を取り、必要に応じて補充療法などの治療を受けてください。
小嶋 哲人
出血が止まるためには、局所の血管が収縮するとともに血小板が粘着・凝集し、引き続いて血液凝固反応が起こり、フィブリンという
血友病は、この二次凝固に関わる血液凝固因子である第Ⅷ因子(FⅧ)あるいは第Ⅸ因子(FⅨ)が先天的に欠乏するために出血症状を示す疾患です。FⅧが欠乏している血友病AとFⅨが欠乏している血友病Bとに大別されます。
FⅧ遺伝子とFⅨ遺伝子はともにX染色体に存在し、
まれに頭蓋内出血などで新生児期に発見されることもありますが、多くは運動量が増える生後6カ月以降に出血症状で気づきます。ハイハイをする時期には
長期的には同じ関節に繰り返して出血した結果、関節の変形や可動制限などの血友病性関節症が問題になります。しかし軽症型の場合は出血症状が明らかでなく、抜歯や外傷時に止血されにくいということで初めて診断されることもあります。
凝固系検査では、外因系凝固を反映するプロトロンビン時間は正常ですが、FⅧとFⅨが関係する内因系凝固を反映する活性化部分トロンボプラスチン時間が延長した場合、血友病が疑われます。
確定診断のためには第Ⅷ因子活性と第Ⅸ因子活性の定量(測定)を行います。健常人の各凝固因子活性を100%として、1%以下を重症型、1~5%を中等症型、5%以上を軽症型と診断します。
凝固因子製剤の補充療法が行われます。在宅自己注射療法の普及により、従来の出血時投与から定期的予防投与へと治療の中心が変わりつつあります。適切な予防投与により血友病患児の生活の質(QOL)も向上し、健常人とほぼ同様の生活が可能になってきています。
高橋 良博, 伊藤 悦朗
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
古くから知られている遺伝病で,先天的に血が固まりにくいために異常に出血しやすい病気。原因は血漿中に血を固まらせる凝固因子が生まれつきないため。血液凝固因子のうち,第Ⅷ因子欠如によるものを血友病A,第Ⅸ因子欠如によるものを血友病Bというが,血友病Aのほうがはるかに多い。病気は男性に出現し,女性は病的遺伝子を伝える(保因者)だけで病気は現れない。つまり赤緑色盲などと同じ伴性劣性遺伝病である。出血症状は生まれた直後から起こることもあるが,歩きはじめのころから現れることが多い。大きい出血斑ができ,ひじ,ひざ,足関節に出血し,痛くて動かせなくなることも多い。治療としては,血友病Aには第Ⅷ因子を,血友病Bには第Ⅸ因子を血管内に注射する。ひどい運動などでけがをしないように注意し,また手術や抜歯は入院して血液凝固因子を使いながら慎重に行う必要がある。
→血液凝固
執筆者:黒木 良和 この病気はギリシア・ローマ時代の医師には記録されなかったが,3世紀のユダヤ,アラビアの医師には知られていたと思われる。18世紀までは遺伝病とは気づかれず,アメリカの医師オットーJohn Conrad Otto(1774-1844)が19世紀初頭はじめて遺伝病であることを明らかにし,血友病--ヘモ(血)+フィリア(友)--という名称は,1828年にシェーンラインによって与えられた。歴史の中で血友病の悲劇として知られるのは,イギリスのビクトリア女王の家系である。ビクトリア女王には9人の子女があったが,3人の王子のうち,レオポルド王子が血友病のため31歳で死亡し,その娘アリス公女にも血友病の男児が生まれた。女児は血友病にならないが,2人に1人が保因者となるので,女王の孫では3人の男性が血友病となり,さらに曾孫に再び血友病が現れ,女王に連なる3代18人の男性のうち,10人が血友病で夭折した。
執筆者:立川 昭二
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血液凝固因子のなかの第Ⅷ、第Ⅸ因子の欠乏によって、止血機能が障害をおこし出血しやすくなる病気。第Ⅷ因子(抗血友病因子)の欠乏を血友病A、第Ⅸ因子(クリスマス因子)の欠乏を血友病B、両方欠乏しているものを血友病ABという。Aは85%、Bは15%、ABでは1%以下の割合であり、またAは男性2万人に1人、Bは同じく10万人に1人の割合でみられる。患者の半分ぐらいに遺伝関係がみられるが、遺伝形式は伴性潜性遺伝で、女性は血友病の遺伝子をもっているが発病せず、男性に発病する。両親が血友病の男性と正常の女性の場合、男児は正常で、女児は保因者となる。両親が正常の男性と保因者の女性の場合は、男児の半分が血友病になり、女児の半分が保因者となる。血友病の男性と、保因者の女性が両親だと、男児はすべて血友病、女児はすべて保因者となる。また、第Ⅹ(スチュワート・パワー因子)、第Ⅺ(PTA)、第Ⅻ(ヘッグマン因子)欠乏を類血友病とよんだが、遺伝形式は異なっている。
血友病の小児は、起立歩行して運動が盛んになる幼稚園から小学校のころになって、関節内、筋肉内に出血して、ついには関節が硬直し、筋肉の発育が悪くて歩行不能になる。紫斑(しはん)病のような皮下、粘膜への表在性の出血がないので、出血しやすい体質であることに気づかず、抜歯後に血が止まらないとか、頭部の打撲後に脳内出血がおきて死亡するなど、突然みまわれることがある。治療には、欠乏している因子を補給すればよく、そのために抗血友病グロブリン製剤がつくられている。
[伊藤健次郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…血管や血小板の異常(数が少ないか,働きが悪いか)があると皮膚に針でついたくらいの点状出血を生じやすく,この状態の出血傾向を紫斑病という。これと対照的に凝固因子の欠乏があると関節や筋肉に出血しやすく,代表的疾患として第VIII因子が欠乏したためにおこる血友病Aが有名である。これは伴性劣性遺伝の形式で男子に発病する。…
…血液凝固異常による出血傾向の場合は,紫斑や粘膜出血よりも,体深部に組織内に広範に広がる出血すなわち血腫や,筋肉内出血,関節内出血が特徴的にみられる。血友病その他の先天性血液凝固因子欠損症の場合が典型的である。多くの血液凝固因子は肝臓で産生されるため,肝臓疾患では血液凝固因子の血中濃度が低下し,出血傾向が生ずる。…
※「血友病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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