血栓(読み)けっせん(英語表記)thrombus

翻訳|thrombus

精選版 日本国語大辞典 「血栓」の意味・読み・例文・類語

けっ‐せん【血栓】

〘名〙 血管中を流れる血液が凝固してできる固まり。血管内皮が損傷したり、血管壁の炎症などによって血液が変化したりすると起こる。〔現代術語辞典(1931)〕

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デジタル大辞泉 「血栓」の意味・読み・例文・類語

けっ‐せん【血栓】

血管内で生じた血のかたまり。→血栓症

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改訂新版 世界大百科事典 「血栓」の意味・わかりやすい解説

血栓 (けっせん)
thrombus

正常な状態では心臓や血管内で血液が凝固することはないが,病的な要因から凝固をおこすことがある。このように血液が凝固してできた塊を血栓といい,血栓のある状態を血栓症thrombosisという。これに対し,死後に血液が凝固してできた塊は凝血塊coagulumと呼ばれ,血栓と区別される。血栓は,凝血塊に比べて,硬く乾燥しており,弾性に乏しく,血管壁と密着しはがれにくい。肉眼で見た色調により,白色血栓赤色血栓混合血栓に分けられる。白色血栓は,顕微鏡で見ると特殊な網状の構造を示しており,赤血球血小板白血球に比べて著しく減少しており,肉眼的に帯黄白色または灰白色に見える。赤色血栓は,血液凝固と同様に特殊な構造をとらず,析出したフィブリンの間に多数の赤血球と少数の白血球と血小板がみられる。混合血栓では,白色血栓と赤色血栓が交互に層をなしている。

 血栓ができるのは,血流が緩慢になったり血流に乱れがおこって異常が生じた場合,血管壁の異常たとえば血管の内膜に病変がある場合,血液の性状に変化があり凝固性が異常に高まった場合などである。血栓の及ぼす影響は,内腔が完全に閉塞しているかどうか,静脈動脈か,静脈の場合には傍側循環ができやすいかどうか,動脈では吻合(ふんごう)のない終動脈かどうかなどによって異なる。

 血栓は,動脈よりは静脈にできやすく,また心臓では心耳や弁膜にできやすい。血栓は,水分が吸収されてもろくなり,ちぎれて血液の流れにそって体の他の部分に移動し,血管の内腔を閉塞して塞栓症の原因となる。2次的に細菌感染をおこすと,化膿,軟化して菌血症や敗血症の原因ともなる。血栓そのものは,血管壁からの肉芽組織でおきかえられ(これを器質化organisationという),瘢痕はんこん)化する。また場合によっては,肉芽組織内に新しく形成された血管が相互に連絡して血栓の上流下流つなぎ,不完全ながら血流が再開することがある。このような状態は,血栓の疎通または血管の再疎通と呼ばれる。また血栓は,水分を失い,石灰塩類が2次的に沈着して結石となることもある。
塞栓
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百科事典マイペディア 「血栓」の意味・わかりやすい解説

血栓【けっせん】

生体の血管内で血液が凝固したもの。血管壁の炎症や損傷,鬱血(うっけつ)や血管拡張が誘因となる。血栓のでき方と色により膠着(こうちゃく)血栓(白色血栓)と凝固血栓(赤色血栓)に分ける。血栓は血管壁に固着し,血流を阻害し,種々の血栓症を起こす。また時に剥離(はくり)して脳や肺の細小血管に運ばれて塞栓(そくせん)を起こす。治療は抗凝固剤,血栓溶解剤投与,部位によっては手術により摘除する。
→関連項目カテーテルアブレーション血小板静脈瘤人工心臓DHA脳梗塞

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「血栓」の意味・わかりやすい解説

血栓
けっせん

血管内で血液が固まった状態。健康者の血液は、血管の中で凝固することはないが、血管の内皮の変化(損傷とか炎症、あるいは動脈硬化などによる異常)、血液の停滞、凝固性が高まった場合などでは、その局所において血液が固まって凝固物ができる。これが血栓で、大きい血栓ができて、血管を閉塞(へいそく)すると、そこから先の血液の流れが止まって、臓器によっては致死的な異常をおこす。このような状態を血栓症といい、またそれによる血流の停止した場所の組織が死滅する(梗塞(こうそく))。もっとも多い原因は動脈硬化で、その粥(かゆ)状硬化に、血小板が粘着、凝集して凝血ができ、それが動脈を閉塞すると、心筋梗塞、脳梗塞、腎(じん)梗塞、肺梗塞などが発生する。

[伊藤健次郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「血栓」の意味・わかりやすい解説

血栓
けっせん
thrombus

生体内を循環している血液が,血管の中で凝固したものをいう。血栓によって血管が閉塞した結果起る病的状態が血栓症である。血栓は色によって,白色血栓,赤色血栓,混合血栓に分けられる。原因としては,(1) 動脈硬化などによる血管内皮の損傷,(2) 長期臥床などによる血流,血圧の低下,(3) 癌などによる血液凝固性の亢進,などがある。血栓が生じると,それより末梢では血流が絶たれるので,壊死に陥る。そのため,脳血栓症では脳梗塞が起る。血栓性心内膜炎では,血栓がくずれ,血流によって他臓器に運ばれて,塞栓症を起す。冠動脈血栓症では心筋梗塞が起る。これらは血栓症の重篤な合併症である。

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栄養・生化学辞典 「血栓」の解説

血栓

 生存中に血液が血管内で凝塊を形成すること.血管を閉塞することがある.

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世界大百科事典(旧版)内の血栓の言及

【冠状動脈】より

… 冠状動脈には先天性の異常として,冠状動脈から血流が直接静脈に流れる冠状動静脈瘻(ろう)や肺動脈から冠状動脈が分枝する奇形がある。子どもでは川崎病の冠状動脈炎,中年以後では冠状動脈硬化による冠状動脈の狭窄や閉塞(血栓)が起こり,狭心症心筋梗塞など虚血性疾患の原因となる。冠状動脈硬化は冠動脈危険因子の人に起こりやすく,男性では女性より若くて発症する。…

【血液】より

…血管が破れて内皮細胞の下にある膠原(こうげん)繊維や周囲の組織が露出すると,まず血小板が付着し,つぎつぎと集合して血小板塊をつくり血管の破れた部位に栓をする。続いて血漿の中にある凝固因子(12種類)が膠原繊維との接触や組織液の混入により活性化されて連鎖反応をおこし,最終的には可溶性のフィブリノーゲンが不溶性のフィブリン(繊維素)となって網目構造が形成され,強固な血液凝集塊(血栓)をつくって出血を止める。しばらくして内皮細胞が再生し血管壁の修復が完了すると,血漿に含まれている繊維素溶解物質が活性化され,役割を終えた血栓を溶かし(繊維素溶解),血液の流れが正常状態に戻る。…

【血管系】より

…動脈壁の肥厚,硬化,改築を示す限局性病変の総称で,粥状硬化,中膜硬化,細動脈硬化などがあるが,一般に動脈硬化といえば粥状硬化を指す。粥状硬化は内膜への脂肪の沈着と繊維性肥厚をきたすもので,石灰沈着,潰瘍形成,血栓形成などを伴う。動脈硬化に伴う血管壁の破壊に対する修復についてはいまだ十分明らかではない。…

【塞栓】より

血栓が流血中に脱落したり,異物が脈管内に流れ込んだりして,血液またはリンパ液により運ばれて,細い血管またはリンパ管に達して,それ以上進むことができなくなって管腔を閉塞する。このように管腔を閉塞したものを塞栓,このような現象を塞栓症embolismという。…

【脳梗塞】より

…脳梗塞は次の四つに大きく分けられる。すなわち,動脈硬化であるアテローム硬化を伴う脳血栓症,脳塞栓症,他の原因による脳梗塞,原因不明の脳梗塞である。(1)アテローム硬化を伴う脳血栓症 頸動脈や脳動脈にアテローム硬化をきたし,その部に凝血塊(血栓)を生じるもので,俗に脳血栓ともいわれる。…

※「血栓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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