①や②の意味では、仏典や漢籍に用例があるが、③は、明治以降、科学的な学問の方法態度の浸透・定着によって獲得された意味と考えられる。
観察は、実験とともに自然科学の重要な研究方法である。したがって、理科教育(自然科学教育)の学習方法としても重視されてきた。自然科学の研究対象である自然は、客観的な実在であるから、われわれの頭のなかでさまざまに解釈しても、自然そのものの構造や法則性が明らかになるわけではない。われわれが、自己の身体や道具を使って自然に直接働きかけることによって、初めて自然は、その構造や法則性をわれわれに語りかけてくる。その働きかけが実験や観察である。
実験と観察の区別は、詳細な議論をすればむずかしい問題も出てくるが、いちおう、実験は、自然的な条件を人為的にコントロールして、自然の状態ではおこらないような現象をおこさせるのに対して、観察は、自然状態のままで事物や現象をとらえることだとしてよいであろう。しかし、自然をありのままに見るということは、ただ漫然と視点も決めないで見るということではない。このような観察をいくら繰り返してみても、自然についての新しい発見を得ることはない。したがって、理科授業などで生徒が観察の重点を決められないでいるときに、教師が援助してやることは、けっして生徒の自主性や観察の目的を損ねるものではない。観察というと、どうしても「目で見る」ことに重点が置かれがちであるが、耳や鼻、舌などのほか、皮膚や筋肉などの感覚も重視しなければならない。
われわれが、観察をもとにして自然の事物や現象に関するさまざまな概念を形成していく過程は複雑である。まず最初に、いろいろな感覚器官を通して得られた感覚が、大脳に伝えられて、そこに知覚を生じさせる。それからいろいろな知覚が統合されて一つの表象がつくられ、続いてその表象が他の表象と比較されたり、分析されたり、総合されたりして抽象や捨象が行われ、概括され、一般化されて一つの概念に高まるのである。したがって、自然をありのままに、主観を混ぜないで見れば、おのずから自然についての正しい概念が得られるなどということはありえないのであって、観察から概念形成までには高度な思考過程が含まれている。
それと同時に、一つの概念が実際の事物や現象と正しく対応し、豊かな内容をもつためには、その概念が事物に対する豊かな感覚や知覚によって裏づけられていなければならないのである。
[真船和夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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