詩劇(読み)シゲキ(その他表記)poetic drama

デジタル大辞泉 「詩劇」の意味・読み・例文・類語

し‐げき【詩劇】

詩の形式で書かれた劇。韻文劇広義には詩的内容と情緒をもつ劇も含める。

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精選版 日本国語大辞典 「詩劇」の意味・読み・例文・類語

し‐げき【詩劇】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] poetic drama の訳語 ) 韻文や詩の形式で書かれた劇。古代から劇の主流だったが、一九世紀後半の近代劇以降、散文劇に押されて衰退。第一次世界大戦後、イギリス詩人T=S=エリオット復興。韻文劇。
    1. [初出の実例]「彼の詩劇は、日本の詩的自覚の変遷の上に組みこまれなければならない」(出典:古典と現代文学(1955)〈山本健吉〉詩の自覚の歴史)

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改訂新版 世界大百科事典 「詩劇」の意味・わかりやすい解説

詩劇 (しげき)
poetic drama

韻文を用いた演劇。演劇において詩的言語が散文的言語に先行したことは,歴史が証明している。演劇の母体祈禱朗誦)や舞踊を伴った宗教的祭儀,つまりリズミカルな音声言語の語られる場にあったことを思えば,これは当然といえよう。ディオニュソス祭儀に由来するギリシア悲劇ギリシア演劇)も,中世キリスト教会の神事の展開としての聖史劇,秘跡劇も,そして寺社に所属して祭礼のおりに芸を演じた猿楽師たちの後身である観阿弥,世阿弥の能も,すべて詩劇である。散文が演劇の主たる言語になるのは,西欧近代以後のことである。

 ギリシア演劇の衰退ののち,ローマ時代は代表的悲劇作家セネカを得るが,彼の詩劇は祝祭性を失って,ほとんど〈レーゼドラマ〉(上演よりも読書のための戯曲)に近づいている。中世に入ってほとんど勢いを失った演劇は,聖史劇,道徳劇,笑劇として復活,ルネサンス時代にはめざましい開花を遂げる。その頂点をなすW.シェークスピアの数多くの傑作劇もその表現形式であるいわゆる〈ブランク・バースblank verse〉(弱強五歩格の無韻詩形)と不可分である。詩的高揚のみならず,きわめて論理的・散文的思考の表現にも適したこの詩形を,彼は完璧に使いこなした。同時代スペインのローペ・デ・ベガやカルデロン・デ・ラ・バルカ,ルイ14世時代,いわゆる〈古典主義〉の時代のP.コルネイユやJ.ラシーヌも,輝かしい詩劇を作った。この黄金時代のあと衰微した詩劇の復興を図ったのはロマン派詩人たちだった。J.W.ゲーテ,J.C.F.シラー,G.G.バイロン,V.ユゴー,それに壮大な祝祭としての楽劇を夢みたW.R.ワーグナーも,ここに加えられよう。現実にはH.イプセンやA.チェーホフの散文リアリズム演劇が主流になってゆくのが近代演劇の歴史であるが,それに抗して,世紀末以後絶えず詩劇の復興が試みられてきたことも忘れてはならない。S.マラルメの《イジチュールIgitur》はあまりにもレーゼドラマであるとしても,W.B.イェーツ,H.vonホフマンスタール,P.クローデル,T.S.エリオット,W.H.オーデン,J.ジロードゥーなどの詩劇は現代演劇の重要部分をなしている。日本では,能や歌舞伎という世界に冠たる詩劇の伝統が,明治維新以後,創造的に継承されることはなかった。わずかにバイロンの影響下に書かれた北村透谷の《蓬萊曲》,森鷗外の《玉篋両浦島(たまくしげふたりうらしま)》,幸田露伴の《有福詩人》などがあるのみである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「詩劇」の意味・わかりやすい解説

詩劇
しげき

poetic dramaの訳語。詩(韻文)形式の台詞(せりふ)による演劇。狭義には韻文劇をさすが、今日では詩的内容と情緒をもつ散文劇をも広く含める。古代のギリシア劇をはじめ、エリザベス朝のシェークスピア劇にみられるブランク・バースblank verse、フランス古典主義時代のラシーヌらのアレクサンドランalexandrinなど、戯曲は本来韻文形式であったが、近代に入るとしだいに散文劇が増えて、19世紀には主流となり、韻文劇は劇場から追放された。第一次世界大戦後は、近代リアリズム演劇の行き詰まりから詩劇が見直され、復活をみた。イギリスの詩人T・S・エリオットは詩劇の復興を提唱し、『寺院の殺人』(1935)、『カクテル・パーティ』(1949)などで実践し、C・フライらが後を追った。日本の現代戯曲では、加藤道夫の『なよたけ』(1946)のように詩的幻想味豊かな詩劇もあるが、福田恆存(つねあり)が『明暗』(1956)で、各行に七つのストレス(強音部)を置く定型詩劇の試みを行っている。

[藤木宏幸]

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百科事典マイペディア 「詩劇」の意味・わかりやすい解説

詩劇【しげき】

韻文による演劇。散文によるものよりも先行し,ギリシア,ローマ,古典主義,ロマン主義期の演劇は多く韻文によっており,散文による演劇が主流になるのは西欧近代以後である。19世紀末以来,W.B.イェーツやT.S.エリオット,W.H.オーデンらの詩人によって詩劇の復興が試みられている。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「詩劇」の意味・わかりやすい解説

詩劇
しげき
verse drama

韻文によって書かれた劇。ギリシア悲劇をはじめ,西ヨーロッパの古典劇は韻文で書かれているのが普通であったが,やがて劇中の喜劇的部分や喜劇には散文が用いられるようになり,18世紀には悲劇,喜劇ともに散文劇が主流をなすにいたった。ビクトリア朝にはイギリスの R.ブラウニングや A.テニソンらの詩人による劇詩の試みはあるが,演劇における韻文の効果を現代に復活させる努力が意識的になされるようになったのは 19世紀末から 20世紀に入ってからで,代表的作家としてはアイルランドの W.B.イェーツ,イギリスの T.S.エリオット,C.フライ,アメリカの M.アンダーソン,スペインの G.ロルカらがあげられる。

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