デジタル大辞泉
「誘導」の意味・読み・例文・類語
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ゆう‐どうイウダウ【誘導】
- 〘 名詞 〙
- ① さそいみちびくこと。誘誨(ゆうかい)。
- [初出の実例]「翁が誘導せし我門の徒弟にして」(出典:蘭東事始(1815)下)
- 「客を誘導して地下へ避難しなければならなかった」(出典:面影(1969)〈芝木好子〉四)
- [その他の文献]〔呉志‐士燮伝〕
- ② 電気や磁気がその電場や磁場内にある物体におよぼす作用。静電誘導・磁気誘導・電磁誘導など。〔電気工学ポケットブック(1928)〕
- ③ 生物の胚域の分化の方向が、その胚域に近接した他の胚域によって決定される現象。
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誘導 (ゆうどう)
induction
動物発生学上の用語。脊椎動物の個体発生の過程では,胚のある部域(胚域)Aが他の部域(胚域)Bになんらかの作用を及ぼして,胚域Bの形成可能性を決定づけ,一定の組織や器官を形成させるという現象があいつづいて起こる。この場合には,胚域Aは作用系であり,また胚域Bは反応系となっている。このように胚のある部分が作用系として他の部分になんらかの刺激を与え,その形成可能性の実現を誘発することを誘導という。たとえばイモリ初期囊胚の原口背唇部は,他の初期囊胚に移植されると陥入して脊索や中胚葉に分化するが,一方では形成体(オーガナイザー)としてそれに接する宿主胚の外胚葉に神経管の形成を誘発する。
目の水晶体は頭部表皮外胚葉からできてくるが,誘導現象はこの過程を明らかにしたH.シュペーマンによって1905年に発見された。イモリでは,将来網膜となる眼胞に隣接した表皮外胚葉が水晶体原基を形成する。水晶体原基形成前に眼胞を除去するか,外胚葉と眼胞との間にフィルムを介在させるかすると,水晶体原基の形成は阻止される。また眼胞を適当な発生段階の胚の体表下に移植すると,そこに水晶体が形成される。つまり眼胞は表皮外胚葉に作用してそれに水晶体原基形成を誘発したことになる。シュペーマンはこのような現象を電磁誘導になぞらえて〈誘導Induktion(ドイツ語)〉ということばを導入して説明し,その調節因子を化学的な物と考えた。その後,誘導物質の存在を想定したうえでの誘導機構の研究が盛んに展開されたが,上述のような意味での誘導因子としての物質は,今日に至っても得られていないといってよい。
このように誘導ということばは実験発生学の分野ではかなり特殊な意義を包含しているが,今では他の分野でもひじょうに幅広く活用されるようになっている。また細胞に特定の物質を与えると,それを代謝するのに必要な酵素群が生成されることがあるが,この場合は,酵素合成の誘導と呼ばれる。
→発生 →誘導酵素
執筆者:江口 吾朗
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誘導
ゆうどう
発生学において、胚(はい)のある部域(組織)の分化が、近接する部域(組織)の影響によって決定される現象をいう。誘導は、発生学のもっとも重要な概念の一つである。
顕著な例としては、予定外胚葉が形成体からの影響によって神経への分化を引き起こされる現象があるが、そのほかにも多くの誘導の例が知られる。たとえば、眼杯はそれに接した表皮にレンズを誘導し、ついでレンズが表皮に作用して角膜を誘導する。この場合、最初の誘導では眼杯が誘導系で表皮が反応系であり、次の誘導ではレンズが誘導系になる。多くの器官について数次にわたる誘導が知られており、実際の胚発生は誘導の連鎖によって正常な分化が保障されていると考えられる。
誘導の本質についてはなお不明の点が多いが、タンパク質のような化学物質が重要である場合や、誘導系が反応系に対して特定の物理的環境を提供することが重要な場合などが想定されており、また誘導系と反応系がきわめて近接していないと誘導がおこらない場合や、そうでない場合が知られている。誘導は誘導系のみが活動的であればおこるのではなく、反応系の反応性も重要であり、表皮の眼杯の誘導に対する反応性は両者が接する時期にもっとも高いことが知られている。また多くの組織は実験的に誘導系を取り除いても自律的に分化する能力を備えていて、正常発生では誘導系の誘導能、反応系の反応性と自律分化能が時間的・空間的に整合的に出現することが、秩序正しい発生を可能にしている。
[八杉貞雄]
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誘導(生物)【ゆうどう】
(1)発生学用語。発生過程で胚のある部分が隣接した他の部分に影響を与え,その部分の形態形成に関与する現象。形成体で裏うちされた外胚葉に神経管ができる場合,眼杯の接した表皮が水晶体になる場合,後脳が耳胞の形成にあずかる場合などはその例。この現象は両者の相互的なはたらきあいの結果であり,かつ接触が起こる時期,場所等によって大幅に変動する。(2)分子生物学用語。細菌などで特定の物質を与えたとき,その代謝にかかわる酵素群が生成される現象。その機構はオペロン説によって説明される。
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普及版 字通
「誘導」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の誘導の言及
【発生】より
… この原条の前方域および原腸蓋は[形成体]organizerとよばれ,まもなくその部位では活発な形態形成運動がくり広げられる。この細胞群は胚の中では最も早く組織分化を起こし,中でもその中心をなす予定脊索部は胚体の正中線上に位置し,みずからは急速に前後に伸長して棒状の支持器官に発達しながら,上方に接する外胚葉には神経管の,また左右に接する中胚葉には体節の形成を[誘導]する(図4)。(1)外胚葉性器官 神経管は,[脊索]の伸長につれて前後に伸びながら,やがて前方は脳および眼(脊椎動物のみ)に,また後方は脊髄に分化して,中枢神経系をつくり上げる。…
【発生学】より
… このような発生の後成的側面の説明は,多細胞生物においては,個々の細胞は自律的でなく,細胞間の相互作用が必然的に存在する,という点に求められるのである。古典的な後成論の全盛時代である20世紀の前半において,発生の説明のための基本的概念とされてきた[誘導]inductionも,発生における細胞間の相互作用をいうものであり,1970年代になって提唱された発生における位置情報positional informationの概念も,同じカテゴリーのものである。 現在において,これら二つの異なった立場は対立する二つの考え方による違いではなく,学説として対比されるべきものでもない。…
【目∥眼】より
…イモリやサンショウウオなどの有尾両生類では,眼胞や眼杯を取り除くと水晶体胞の形成が見られず,また,眼胞を予定水晶体域以外の表皮下に移植すると,移植された眼胞に接する表皮から水晶体胞が形成されることが確かめられている。このような現象を眼杯による表皮からの水晶体胞の[誘導]と呼んでいる。水晶体胞の網膜に面した部域の細胞が伸長し,水晶体繊維に分化することにより水晶体が完成するが,この過程に網膜が関与している。…
※「誘導」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」