貧血(読み)ヒンケツ(英語表記)anemia

翻訳|anemia

デジタル大辞泉 「貧血」の意味・読み・例文・類語

ひん‐けつ【貧血】

血液中の赤血球数またはヘモグロビン量が正常以下となり、酸素運搬能力が低下した状態。出血や栄養不足、骨髄の造血機能低下、溶血などさまざまな原因によって起こる。顔色が白く、疲れやすく、動悸どうき・めまい・耳鳴りなどの症状のみられることが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「貧血」の意味・読み・例文・類語

ひん‐けつ【貧血】

  1. 〘 名詞 〙 血液中の赤血球ならびにヘモグロビンが減って、健康人の九〇パーセント以下になった状態。からだがだるい、顔色が青白い、また動悸・息切れなどの症状を呈する。出血、栄養不足、骨髄疾患、腎疾患などの原因で起こる。〔医語類聚(1872)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「貧血」の意味・わかりやすい解説

貧血 (ひんけつ)
anemia

一般に貧血といえば,〈立ちくらみ〉など起立性低血圧症による,いわゆる脳貧血(失神)をさすことが多いが,医学的には,血液中のヘモグロビン濃度が低くなった状態をいう。また,身体の一部分に血がなくなることも貧血ということがあるが,この場合は,ふつう虚血といって区別される。血液中の赤血球には鉄を含んだタンパク質であるヘモグロビン(血色素)があり,これに酸素が結合して,体内に酸素が供給される。したがって,ヘモグロビンの原料である鉄そのものが不足するか,赤血球産生のしくみに異常があって赤血球の産生が足りなかったり不完全な赤血球ができるか,出血や溶血(赤血球が破壊されること)などによって赤血球の量やヘモグロビン濃度が減ると,体内の組織は低酸素状態に陥る。この状態が貧血である。つまり,貧血は症状であって,病名ではなく,種々の病気がこの中に含まれている。貧血は発生原因や赤血球の形によって,鉄欠乏性貧血再生不良性貧血溶血性貧血,鉄芽球性貧血,悪性貧血などに分けられ,このうち鉄欠乏性貧血が最も多くみられる。

医学的には,貧血は,血液の単位容積中のヘモグロビン濃度が,年齢および性を考慮した正常値に達しない状態と定義される。通常同時に赤血球数も減少するが,つねに赤血球減少を伴うとは限らない。そこで,より厳密に定義するなら,体内の循環ヘモグロビン量が正常範囲に達しない状態ということになる。たとえば妊娠などで水血症があると,循環ヘモグロビン量は減少しないのに,循環血漿量が増加するため,血液単位容積中のヘモグロビン濃度は低下する。逆に頻繁な嘔吐や下痢によって脱水があると,循環血漿量減少のため,実際には循環ヘモグロビン量減少があっても正常ヘモグロビン濃度を呈することもある。また大出血直後では,循環ヘモグロビン量と循環血漿量がともに減少するため,ヘモグロビン濃度を測定しても正常に出る。しかし循環ヘモグロビン量測定は複雑な手技を要して実際的でないため,日常診療上は,水血症,脱水,急性出血といった因子を十分考慮に入れたうえで,血液単位容積中のヘモグロビン濃度を測定して貧血の判断を行う。ヘモグロビン濃度の正常値は年齢,性によって異なり,成人男性で14~18g/dl,成人女性で12~16g/dlとされる。国際的には貧血判定基準として,幼児(6ヵ月~6歳)11g/dl,小児(6~14歳)12g/dl,成人男性13g/dl,成人女性12g/dl,妊婦11g/dlに達しないとき,とする基準が用いられている。

貧血患者には次のような症状がみられる。酸素運搬の役割をするヘモグロビンの低下による組織の低酸素状態にもとづく疲れやすさ,頭重感,めまい,起立性低血圧,労作時の呼吸困難,狭心症様の症状,ヘモグロビン濃度低下による顔面蒼白,貧血を代償するしくみとしての心拍出量増加による心悸亢進などである。しかし,これらのどれ一つをとっても貧血に特有の症状ではない。これらの症状の組合せは貧血を強く疑わせるが,結局貧血は検査をしなければ診断がつけられない。発症原因によって貧血は表1のように,(1)赤血球産生低下によるもの,(2)赤血球の崩壊亢進によるもの,(3)赤血球の喪失亢進によるもの,(4)これらの二つ以上の機序が重なり合って生ずるもの,の4種類に大別される。一方,血液検査によって測定されたヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値(単位容積の血液中に占める赤血球容積の割合),赤血球数から,平均赤血球容積,平均赤血球ヘモグロビン含量が計算でき,これによって,赤血球の大きさの大きな大球性貧血,正常な大きさの正球性貧血,赤血球が小さくヘモグロビン含量も少ない低色素性小球性貧血の三つに分ける形態学的分類もある(表2)。形態学的分類は貧血の診断を進めるうえで実際的なものなので,まずこの結果によって的をしぼり,さらに必要な検査を行うことによって発症原因にもとづく分類による個々の疾患に到達する方法がとられる。これらのうち,低色素性小球性貧血に属する鉄欠乏性貧血が頻度として圧倒的に多く,この診断のためには血清鉄の低下と総鉄結合能(血漿中で鉄を結合して運ぶ役目をするタンパク質であるトランスフェリンの量)の上昇をみればよい。また正球性貧血の場合は,種々の病因によるものがあって,やや的をしぼりにくい。

貧血の治療は正しい診断にもとづいて必要とする薬剤の投与その他適切な治療を用いるのが原則である。鉄欠乏性貧血なら鉄剤の服用ないし注射,悪性貧血ならビタミンB12の注射を行う。続発性貧血では原疾患の治療が第一である。鉄,ビタミンB12,葉酸,ビタミンC,B6,B2などをすべて含んだいわゆる総合造血剤が市販されているが,医師の診断を受けずに用いるべきでない。なぜなら,いつまでも明確な診断がつかないままに終わり再発予防の対策がたたないし,経済的に高価についてむだが多いことのほかに,早く正しい診断に到達していれば速やかに適切な治療で改善がはかれるのを放置して進行するにまかせる危険があるからである。貧血の治療法としての食事療法の役割はあまり大きなものではなく,要は偏食に陥らぬよう栄養のバランスに注意することでよく,一般に薬物療法のほうがたいせつである。貧血は鉄,葉酸など赤血球産生の素材の不足によって起こる場合があるが,この場合でも食事指導はむしろ貧血の発生予防ないし治療後の生活指導の面で重要になる。貧血が高度な場合には組織の低酸素状態を防ぐ意味から,余分な運動はなるべく避けるようにする。しかし,軽度な貧血ではむしろ適度な運動を行い,新陳代謝を盛んにして赤血球の産生を促すことが必要である。新陳代謝が低下すると赤血球産生に働くホルモン(エリトロポエチン)の腎臓での産生が低下し,そのために骨髄での赤血球産生が低下するからである。鉄欠乏性貧血の鉄剤治療,悪性貧血のビタミンB12注射による治療,自己免疫性溶血性貧血の副腎皮質ステロイドホルモンによる治療など,治癒が期待できる治療法のある場合には一般に輸血は不要である。しかし,再生不良性貧血,腎不全の貧血,白血病や骨髄腫などの造血器悪性腫瘍や癌,種々の溶血性貧血,鉄芽球性貧血など,薬剤による貧血の急速な回復が期待できないものでは,対症療法としてしばしば輸血が必要である。しかし輸血で正常ヘモグロビン濃度まで回復させると,エリトロポエチン産生刺激がなくなって赤血球産生能は低下してしまうので,対症療法として高度の貧血患者に輸血する場合,必要最小限度にとどめ,患者みずからの赤血球産生促進機序がいつも働いているように配慮される。

貧血のコラム・用語解説

【おもな貧血】

鉄欠乏性貧血 iron deficiency anemia
ヘモグロビンの素材である鉄が体内で欠乏するために起こる貧血で,低色素性小球性貧血であり,貧血の中で最も頻度が高く,女性に多い。鉄は正常成人で体内に3~5gあり,その2/3はヘモグロビンとして赤血球内にある。1日に体外に排出される鉄量は,成人男性で0.6㎎,女性では月経で失われる血液中の鉄量が加わりこの約倍量である。分娩,出産のため失う鉄量は1g近くに達し,女性にこの貧血が多い原因となっている。平均的な日本人成人がとる食事中から吸収される鉄量はほぼ失われる鉄量を満たすのに十分であるが,痔出血,胃潰瘍,月経過多などの慢性出血や急速に成長する時期には不足して貧血となる。鉄分の少ない食事をとることや,胃腸の手術による鉄分の吸収障害も原因となる。貧血がひどくなるとつめがわれやすくなったり,舌炎を生じたりする。鉄剤の投与によってよくなる。
再生不良性貧血 aplastic anemia
骨髄の造血幹細胞の障害によって起こる貧血で,難病の一つ。ベンゾールなどの薬物や放射線が原因で起こるものもあるが,原因のわからないものもある。正球性ないし大球性貧血であるほかに,白血球減少,血小板減少も伴っており,そのため感染,発熱や出血を生じやすい。一般に難治性の疾患であるが,男性ホルモンやタンパク質同化ステロイドホルモンでよい経過をとる例もかなりある。
溶血性貧血 hemolytic anemia
赤血球の寿命は約120日であるが,なんらかの原因で寿命が短くなり早くこわれることにより起こる貧血で,正球性ないし大球性である。遺伝性で赤血球の細胞膜,酵素ないしヘモグロビンの異常によるもの,後天性で自分の赤血球に対する抗体が生じて起こる自己免疫性溶血性貧血,Rh血液型不適合妊娠による新生児溶血性疾患など,多くの原因によるものがある。
巨赤芽球性貧血 megaloblastic anemia
ビタミンB12ないし葉酸はDNAの合成に必要である。したがって,これらの欠乏はDNA合成障害,ひいては核の成熟障害を起こし,分裂,増殖の盛んな造血細胞ことに赤血球は産生障害を起こして,貧血を生じる。この場合RNAおよびタンパク質合成は障害されずDNA合成のみが障害されるために,細胞質は正常に成熟するのに核の成熟は遅延し,大型の未熟な核構造を示すいわゆる巨赤芽球が骨髄中で増殖して大球性貧血を呈するので,巨赤芽球性貧血とよばれる。骨髄中の巨赤芽球の増殖で診断がつくが,ビタミンB12欠乏によるか葉酸の欠乏によるかは血清中のビタミンB12,葉酸定量によってなされる。日本では,葉酸欠乏によるものは少なく,ビタミンB12欠乏によるものが多いが,なかでも悪性貧血が多い。
悪性貧血 pernicious anemia
胃粘膜で分泌されビタミンB12と結合して腸管内を運ばれ小腸下部でビタミンB12が吸収されるのに必要な内因子とよばれる糖タンパク質の分泌が低下するために,体内のビタミンB12欠乏を生じ巨赤芽球性貧血を起こすもの。巨赤芽球性貧血の一つ。ビタミンB12の注射で貧血は治るので,現代ではむしろ良性の貧血であり悪性貧血という名称は適切でない。
鉄芽球性貧血 sideroblastic anemia
ヘモグロビンは,ヘムという鉄とプロトポルフィリンからなる物質に,グロビンとよばれるタンパク質が結合してできる。鉄芽球性貧血はプロトポルフィリンの赤芽球内での生合成の障害によって生じ,鉄が細胞内に過剰にあるため,鉄染色をすると赤芽球の核をとり囲んで鉄顆粒のある環状鉄芽球が骨髄内に増加し,低色素性小球性赤血球が流血中に出現する。鉛中毒でも鉛がポルフィリン生合成過程を障害して環状鉄芽球を生ずることがある。鉄芽球性貧血には遺伝性のものと後天性のものとある。
続発性貧血 secondary anemia
慢性疾患に合併する貧血,腎不全による貧血,内分泌疾患による貧血がある。慢性疾患と合併するものは,感染症,膠原(こうげん)病,悪性腫瘍などに続発する貧血で,貧血の程度は全身症状の程度にほぼ比例する。正球性貧血で,原因は単一ではなく,鉄代謝の異常,溶血,出血などが重なり合って起こると考えられる。原病が治療により軽快すると貧血も軽快する。腎不全による貧血は腎性貧血ともよばれる。正球性貧血である。血球の産生低下,溶血,出血など種々の要因が重なって生ずるが,主要な原因は,腎機能低下に伴って,腎臓で産生されるエリトロポエチンの産生低下が起こり,このため骨髄での赤血球産生能が低下するためと考えられる。腎不全自体は定期的血液透析療法によって長期間の管理が可能であるが,血液透析で貧血を軽快させることはできず,定期的な輸血を要することが多い。しかし,腎臓移植が成功すると移植腎からのエリトロポエチン分泌によって貧血は軽快する。内分泌疾患による貧血は,甲状腺機能低下,脳下垂体機能低下によって全身の代謝が低下し,エリトロポエチンの分泌も低下することによって生ずる。
脾機能亢進による貧血
脾腫があると,貧血とともに白血球減少や血小板減少を生じやすい。脾臓は元来赤血球のおもな崩壊場所だが,肥大した脾臓では,その容積増大に伴い赤血球崩壊能力も増大するために貧血が増強する。脾腫を生ずるような肝硬変症,溶血性貧血などでは原病自体も貧血を生ずるが,脾腫が大きくなると貧血は増強する。バンチ症候群は脾機能亢進症を代表する疾患(症候群)である。
妊婦の貧血
血漿量の増加による水血症,鉄欠乏,葉酸欠乏の機序があるが,日本では葉酸欠乏はまれである。妊娠中には赤血球量は妊娠前の17~25%も増加するが,血漿量は40%も増加するので,水血症によるみかけの貧血はどの妊婦にも起こる生理的現象である。しかしヘモグロビン濃度が11g/dlを下まわる場合は単なる希釈によるものではなく,鉄欠乏性貧血の合併が疑われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「貧血」の意味・わかりやすい解説

貧血
ひんけつ

血液の一定容積中の赤血球つまりはヘモグロビン(血色素ともいい、赤血球全重量の3分の1を占める)が減少している状態をさす。正常範囲は、赤血球は1立方ミリメートルに400万~500万個、ヘモグロビンは1デシリットル中に12~16グラムである。赤血球が1立方ミリメートル中350万個以下、ヘモグロビンが1デシリットル中11グラム以下であれば確実に貧血といえる。ヘモグロビンの減少により酸素と二酸化炭素のガス交換が低下するため、組織では酸素が減少して貧血性の低酸素状態となる。紛らわしいものに脳貧血という状態があるが、これは、脳を流れている血液量が減少して脳の低酸素症をおこし、一過性の意識障害を伴う。脳だけについていえば血液が少なくなっているので貧血であるが、体全体からみれば赤血球、ヘモグロビンは正常である。したがって、貧血は全身的なもので、局所的な循環の低下による虚血は貧血とはいわない。

[伊藤健次郎]

原因・分類

貧血にはいろいろな原因があるが、赤血球が減少する場合と、赤血球内に含まれているヘモグロビンの合成が低下する場合とがある。赤血球が減少する原因としては、骨髄内で赤血球の産生が低下する場合(再生不良性貧血、造血面積の狭小化による場合、幼若赤芽球の成熟ができない場合としての悪性貧血)、赤血球の破壊が亢進(こうしん)した場合(溶血性貧血)、出血で赤血球を失った場合(出血性貧血)などがある。また、赤血球がつくられても、中のヘモグロビンがつくられない場合としては、鉄が不足した鉄欠乏性貧血、ヘモグロビンをつくっているタンパク部分に異常があるサラセミア、ビタミンB6の欠乏、δ(デルタ)‐アミノレブリン酸(ALA)合成酵素の欠乏によっておこる鉄芽球性貧血、さらに、鉄を運搬しているトランスフェリンの欠乏症、鉛中毒などがある。

 貧血にはこのような発生機序別の分類があるが、このほかに、以前から用いられている赤血球係数による分類がある。これは、色素指数、平均容積、平均ヘモグロビン量、平均ヘモグロビン濃度によるもので、ヘモグロビン、赤血球、ヘマトクリット(赤血球容積率)から計算される。(1)小球性低色素性貧血 血色素合成障害による貧血がこれに属する。(2)大球性高色素性貧血 赤芽球の成熟障害による貧血がこれに属する。(3)正球性正色素性貧血 赤芽球を含めて赤血球の産生が低下する場合、溶血による場合、出血による場合がこれに属する。また続発性貧血もこれに属する。

 この分類によると、(1)と(2)は鉄欠乏性貧血と、ビタミンB12および葉酸欠乏性貧血、(3)は再生不良性貧血、悪性血液疾患、溶血性貧血、続発性貧血などが代表的疾患である。(1)と(2)は欠乏物質の補給で容易に完治するもの、(3)は簡単には治らない貧血群であり、貧血の予後までわかる都合のよい分類法である。なお、続発性貧血というのは、他に疾患があって、その症状の一部として現れた貧血のことで、発生機序は前記のものが複合して原因となっている。

[伊藤健次郎]

症状

貧血は全身の臓器組織の酸素欠乏であるために、どの臓器も機能が低下するが、とくに酸素消費の多いところが先に症状として現れやすい。そのような臓器は中枢神経(脳)、心筋、呼吸器(肺)、消化器(胃腸)、生殖器(卵巣)などで、運動時には全身の筋肉も参画する。したがって、頭痛、頭重、めまい、耳鳴り、注意力低下、集中力低下、傾眠(強い眠気)、記銘力(時間的にごく近い体験の記憶力)低下、心悸亢進(しんきこうしん)(動悸)、狭心症様の胸痛、呼吸困難、息切れ、食欲不振、下痢、便秘、るいそう(病的にやせる)、生理不順、疲労、倦怠(けんたい)、肩こり、そしてさらに浮腫(ふしゅ)が出やすくなり、最低血圧が下降し、心臓が拡張して雑音が出現し、静脈でも雑音が聞かれるようになる。顔は蒼白(そうはく)、粘膜も蒼(あお)白く、唇の鮮やかな赤みが消失する。貧血がゆっくり進行するときは、体がそれに慣れて順応していくために、自覚症状は軽く、赤血球が200万個以下になっても、普通に仕事をしている例もある。しかし、運動時、歩行時、階段を昇るときなどには、かならず動悸とか呼吸困難、胸痛などが出現し、運動を停止しても健康者のように速やかに元に戻ることはなく、回復するのに時間がかかる。

 血液が一時に大量に失われると急性失血性貧血をおこし、血球とともに血漿(けっしょう)も血管外に出てしまうために、血管が虚脱に陥って血圧が低下し、脈拍が小さく頻数となり、意識が混濁からさらに消失して昏睡(こんすい)になり、やがては死亡する。一般に全血液量の3分の1(1000~1500ミリリットル)が一時に失われると、貧血性ショック(前記の症状が激しくおこる)をおこして生命が危険となる。慢性的に少量ずつ出血が続いている場合は、それに対応して赤血球がつくられ補給されるので貧血はおこりにくいが、血液中の赤血球には鉄分が含まれており(1ミリリットルの赤血球は1ミリグラムの鉄に相当する)、漸次体内の鉄が欠乏して、ついには鉄欠乏性貧血が発生することになる。

[伊藤健次郎]

鉄欠乏性貧血

ヘモグロビンのヘムをつくるために鉄は必須(ひっす)の物質であり、その欠乏は小球性低色素性貧血の原因となる。食品中に10~20ミリグラム含まれている鉄分は、胃内の消化でイオン化され、おもに十二指腸で吸収されたのち、トランスフェリンに結合して運ばれる。おもに骨髄でヘモグロビン合成に用いられるほか、一部は筋肉のミオグロビン、ヘム酵素の合成にも用いられ、不必要な分は貯蔵される。そして1日に1ミリグラムぐらいが、爪(つめ)、毛髪、剥離(はくり)する上皮細胞などに混じって体外に出ていく。出血があると、大量の鉄を喪失するほか、妊娠、分娩(ぶんべん)、授乳を経験するたびに約1000ミリグラム(貯蔵鉄量とほぼ同量)が失われる。また、思春期には体の成長に伴う造血促進により鉄の必要量が増加する。このような鉄の代謝、需要量の増加などに関係して鉄分が欠乏するが、とくに思春期から閉経期までの女性は月経に伴う鉄欠乏に傾きやすい。また、男女ともに原因として重要なものは、癌(がん)、潰瘍(かいよう)、痔(じ)などからの出血で、女性では子宮筋腫が原因になりやすい。鉄欠乏性貧血は慢性の貧血で、前述の貧血の症状が現れるほかに、鉄の欠乏のための症状が加わる。鉄欠乏性無力症として、強い無力感、倦怠感、疲労感があり、ヘム酵素欠乏のために爪の扁平脆弱(へんぺいぜいじゃく)化、スプーン様の変形がみられ、口角のびらん、白毛のほか、咽頭(いんとう)、舌、食道入口部の粘膜の異常による嚥下(えんげ)痛などが特有で、これらは貧血がなくても鉄欠乏のみでも出現するので注意を要する。診断には、貧血の性質をみて、血清鉄、トランスフェリン、フェリチン(貯蔵鉄)を測定して参考にするが、血清鉄の著減と、トランスフェリンの増加、フェリチンの著減がみられる。

[伊藤健次郎]

悪性貧血

ビタミンB12、葉酸の欠乏によっておこる大球性高色素性貧血である。ビタミンB12は動物性食品中に含まれ、胃液中の内因子と結合してから回腸で吸収され、トランスコバラミンと結合して体内を運ばれ、葉酸と協力して体細胞の分裂成熟に役だっている。また、神経組織の代謝に必須のものである。胃液中の内因子が欠乏したり、胃を全部切除したり、あるいは妊娠などで消費が増加した場合、または腸内細菌によって摂取され尽くしたりすると、欠乏して貧血をおこす。この際は白血球も血小板も減少する。骨髄の中は、分裂成熟のできない大きい赤芽球(巨赤芽球)や顆粒(かりゅう)球(巨大好中球)などで満たされる。この場合は巨赤芽球性貧血ともいわれる。そのほか、脊髄索(せきずいさく)が冒されて歩行ができなくなったり、脳細胞が変性して精神症状が現れる。舌粘膜が萎縮(いしゅく)して舌炎(ハンター舌)、下痢などの消化不良、胃の塩酸が完全に消失し、白毛、黄疸(おうだん)、出血傾向を伴う。葉酸は緑色野菜に多く含まれ、小腸から吸収される。欠乏することはまれであるが、アルコール中毒者、吸収不全症などでみられることがあり、また妊娠時にも欠乏しやすい。神経症状を欠くほかはビタミンB12欠乏と同様であるが、B12欠乏は高齢者におこるが、葉酸欠乏は全年代におこりうる。

[伊藤健次郎]

溶血性貧血

赤血球が120日の寿命を保てないで崩壊するためにおこる。その原因は多いが、先天的に球状赤血球や楕円(だえん)赤血球をつくるもの、また先天的に赤血球酵素の欠乏した場合、後天的に赤血球抗体ができた場合、血液毒が作用した場合、心臓とか血管に異常のある場合、異常血色素症、やけどなどである。もっとも多いのは遺伝的球状赤血球症と、後天的自己免疫性溶血性貧血である。貧血とともに溶血性黄疸を併発し、先天性のものは小・中学生時代から症状が現れ、脾腫(ひしゅ)を伴い、胆石の合併が多い。

[伊藤健次郎]

再生不良性貧血

骨髄の造血機能が低下して全血球数が減少する、治りにくい貧血である。

[伊藤健次郎]

続発性貧血

これに属する腎(じん)性貧血は尿毒症の程度と並行した貧血で、エリスロポエチンの産生が停止したためにおこると考えられる。ほかに、リウマチ性疾患、感染症、内分泌異常、悪性腫瘍(しゅよう)などに伴うものがある。

[伊藤健次郎]

小児貧血

小児期は成人と異なって、急激な成長が行われているが、各臓器の機能は不完全で、すべてにわたって影響を受けやすく、貧血も発生しやすい。貧血の種類や発生機序は成人と変わらないが、成人に発生しやすいものは小児ではまれである。また成人と同じ血液像になるのは学童期で、それ以前は顆粒球、リンパ球の比が異なる。小児特有の貧血に、長すぎる授乳期間による食事性貧血とか、小児仮性貧血(血管の収縮による蒼白)、ファンコニー貧血(形態異常を伴う先天的疾患)などがあり、また、遺伝的血液疾患は学童期から発病してくる。

[伊藤健次郎]

治療

貧血の治療法は原因によって異なる。鉄欠乏、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏にはそれぞれ欠乏したものを補給し、十分貯蔵ができるまで続けて再発を防ぐ。副腎皮質ホルモン、免疫抑制剤は抗体による貧血に用いられ、脾臓の摘出は遺伝性球状赤血球症に絶対必要である。根治療法のない貧血には輸血療法を行うが、必要最小限にとどめ、また、白血球や血小板の混じらない赤血球だけを用いるのがよい。過剰の輸血は造血機能を低下させる一方、鉄分の過剰投与になる。

[伊藤健次郎]

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家庭医学館 「貧血」の解説

ひんけつ【貧血 (Anemia)】

◎赤血球(せっけっきゅう)やヘモグロビンが減少
◎貧血の症状
◎貧血の検査
◎貧血の診断
◎貧血の原因

◎赤血球(せっけっきゅう)やヘモグロビンが減少
 血液が肺の中を通過する間に、血液中の二酸化炭素はすてられ、酸素がとり入れられます(ガス交換)。全身の組織、細胞は、動脈を通って送られてくるこの酸素の豊富な血液から、酸素と栄養分を受けとり、エネルギー源としてみずからを維持しています。
 肺で血液中に酸素をとり入れることができるのは、血液の中にある細胞成分(血球(けっきゅう))のうち、赤血球のはたらきによります。
 血液が肺の中を通過するとき、肺に吸い込まれた空気中の酸素が、赤血球に含まれるヘモグロビン(血色素(けっしきそ))というたんぱく質と結合します。
 全身の組織や細胞が、酸素と栄養分を利用すると、排気ガスともいうべき二酸化炭素が生じます。この二酸化炭素と結合して、二酸化炭素を静脈から肺へと運んでくるのも赤血球であり、ヘモグロビンなのです。
 貧血(ひんけつ)とは、この赤血球内のヘモグロビンの量が、正常よりも減った状態をいいます。
 貧血というと、脳貧血(のうひんけつ)と同じと思っている人もいますが、脳貧血というのは脳を流れる血液の量が減り、顔が青白くなって冷や汗が出て、意識が薄れたりする状態をいい、まったく別の状態です。ただし、貧血の人が脳貧血をおこすことはあります。
 貧血になると、運ばれてくる酸素の量が減るために、全身の組織や臓器が酸素不足になります。酸素が不足すると、いくら栄養分が足りていても、それらが結合して生じるエネルギーは少なくなり、はたらきが低下してしまいます。こうして、さまざまな症状が現われてくることが多いのです。
 また、血液が酸素不足になって、酸素の薄い状態になると、それを全身に送る血液の量で補おうとするために、心臓に負担がかかったり、肺でのガス交換を無理に増やそうとして肺の負担が多くなったりします。
 貧血の症状には、こうしたメカニズムがはたらくために現われるものもあります。

◎貧血の症状
 からだがだるく、寒さを人一倍感じるようになってきます。心臓や肺に負担がかかるので、正常であればなんでもない運動、たとえばのぼりなれている階段や坂でも、どきどきしたり(動悸(どうき))、息切れを感じるようになります。
 貧血が進行すると、皮膚や粘膜(ねんまく)の赤みがなくなり、少し黄色みをおびてきます。そのほか下肢(かし)(脚(あし))が少しむくんだり、微熱が出ることもあります。
 まわりの人から「顔色が悪い」とか「だるそうだ」などといわれることもよくあります。
 ときには食欲がなくなり、吐(は)き気(け)などを感じることもあります。
 このような症状は、貧血の原因に関係なく、どのような貧血にもみられるので、貧血の一般症状と呼ばれます。
 貧血と思われる症状があるときは、一刻も早く医師にかかり、検査を受けるべきです。おとなは内科、子どもは小児科、妊娠中の女性は産婦人科を受診するのがよいでしょう。
 しかし、貧血をおこしている人のなかには、まったく症状がなかったり、症状があっても気づかずにいて、健康診断や献血(けんけつ)の際の血液検査で、偶然にみつかるという人もかなりいます。

◎貧血の検査
 貧血かどうかは、腕などの静脈から2~3mℓの血液をとり(末梢血検査(まっしょうけつけんさ))、その中の赤血球の数とヘモグロビンの量を調べれば、簡単にわかります。血液の比重を調べ、いわば血液の濃さから判断する場合もありますが、この検査だけでは不十分です。
 赤血球の数とヘモグロビンの量、とくにヘモグロビン量の測定が、貧血を診断するためには欠かせません。
 貧血の検査は、どこの医院や病院でもできますし、採血の前にとくに注意しなければならないということもありません。採血してから、ふつう2~3日で結果がわかります。

◎貧血の診断
 正常なヘモグロビンの量は、血液1dℓ中、成人男性で14~18g、成人女性で12~16gです。これが、男性は14g以下、女性は12g以下になった場合、貧血と診断します。ただしお年寄りは、11g以下で貧血とします。
 とくに10g以下の貧血は、医師の治療が必要な貧血です。
 正常な赤血球の数は、血液1mm3中、おとなの男性で450万~550万、おとなの女性で400~450万です。貧血のときは、男性では400万以下、女性では350万以下である場合が多いのです。

◎貧血の原因
 赤血球は、骨の内部にある骨髄(こつずい)という部分でつくられ、約120日たつと、おもに脾臓(ひぞう)でマクロファージという細胞に食べられて破壊されます。
 骨髄で赤血球がつくられるには、ビタミンB12と、葉酸(ようさん)の助けが必要です。また、ヘモグロビンがつくられるためには鉄分が必要です。
 したがって、骨髄にある造血細胞(ぞうけつさいぼう)の異常、ビタミンB12・葉酸・鉄分の不足、マクロファージによる赤血球の破壊が活発になりすぎるといった原因によって、貧血がおこります。
 貧血は原因によって、つぎのような種類に分けられています。
■鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)
 体内の鉄分が不足したためにおこる貧血です(「鉄欠乏性貧血」)。
■巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)
 ビタミンB12や葉酸などの不足によっておこる貧血をいいます(「巨赤芽球性貧血」)。
■溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)
 なんらかの理由で、マクロファージによる赤血球の破壊が進んでおこる貧血をいいます(「溶血性貧血」)。
■再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)
 骨髄のはたらきが異常で、赤血球などが十分につくれなくなっておこる貧血です(「再生不良性貧血」)。
異常ヘモグロビン症
 遺伝子の異常で、ヘモグロビン(血色素)にも異常があるためにおこる貧血です(「異常ヘモグロビン症」)。
二次性貧血(にじせいひんけつ)(続発性貧血(ぞくはつせいひんけつ))
 他の病気にともなっておこる貧血です(「二次性貧血(続発性貧血/症候性貧血)」)。

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六訂版 家庭医学大全科 「貧血」の解説

貧血
ひんけつ
Anemia
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 貧血とは、血液中の血色素すなわちヘモグロビン(Hb)濃度が低下した状態と定義されます。Hb濃度には性差があり、また加齢とともに低下することが知られています。

 したがって、若年成人の正常範囲を、高齢者にそのままあてはめることはできません。高齢者の貧血の定義としては、男女の区別をせずに一律にHb濃度11g/㎗以下とするのが実際的です。表13に、通常の健診で測定される、貧血の評価に重要な血液検査の項目をかかげます。

●高齢者における貧血の原因

 高齢者の貧血で頻度が最も高いのは、鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)です。鉄欠乏性貧血の原因は、若年女性の場合は、子宮の疾患や妊娠に伴うものが多いのに対し、高齢者の場合の過半数が消化管出血によります。消化管の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)は、高齢者の貧血の原因として重要です。

 図16に、鉄欠乏性貧血患者の血液塗抹標本にみられるHb含有量の少ない赤血球の様子を、正常者の赤血球と並べて示します。

 それ以外の高齢者の貧血の大部分は、ほかの疾患に伴う二次性貧血(にじせいひんけつ)と呼ばれるものです。また、「血液のがん」といわれる白血病(はっけつびょう)悪性リンパ腫では、貧血はほぼ必ず現れますが、高齢者の貧血の原因として、これらが占める割合は5%未満と低いものです。

●高齢者における貧血の症状

 貧血の一般的な症状は、運動時の動悸(どうき)、息切れ、()疲労感(疲れやすい)です。しかし高齢者の場合、Hb濃度が9g/㎗未満でも、これらの自覚症状のない場合が半数以上あります。また、貧血が慢性の経過で現れた場合、Hb濃度7g/㎗未満の高度の貧血でも自覚症状のないことが少なくありません。

 高齢者の場合、階段の昇降や布団の上げ下げを行っても心臓がドキドキせず、疲れやすいなどの自覚がなくても、貧血がないとはいえません。

 高齢者では、諸臓器の血管の動脈硬化を背景として、「貧血らしからぬ症状」が前面に立つ場合があるので注意が必要です。貧血らしからぬ症状の代表的なものは、精神神経症状(意識障害、認知症(にんちしょう)、歩行障害)、呼吸循環器症状(呼吸困難、気道のぜいぜい音、むくみ、狭心痛(きょうしんつう))、消化器症状(食欲不振、口内炎(こうないえん))などです。

治療とケアのポイント

●貧血を見逃さないために

 高齢者の貧血を見逃さないためのポイントは、①便の性状の変化(黒色便や血便)に注意すること、②健康診断の血液検査(血算)の値に注目すること、の2点です。

 ①は、高齢者に多い消化管出血を原因とする鉄欠乏性貧血に気づく手がかりとなります。②は、貧血の早期発見や、典型的な貧血の症状がない場合の診断に有効です。

●貧血の治療には原因疾患の特定が必要

 貧血とは1種類の疾患ではなく、その原因は多様です。貧血の正しい治療のためには、原因疾患の見極めが重要で、治療の方法はひと通りではありません。

 高齢者に最も多い鉄欠乏性貧血では、鉄剤の内服が有効で、貧血の改善が期待できます。しかし、たとえば胃がんからの出血が貧血の原因である場合は、胃がんの外科的切除こそが根本的な治療になります。

 便潜血(べんせんけつ)反応や内視鏡検査を外来で行い、診断が容易につくこともありますが、貧血の原因疾患を特定するために、入院を要することもあります。医師から検査入院を提案された場合は、それが貧血の正しい治療のために必要であることを理解してください。

その他の重要事項

 高齢者が立ちくらみやめまいを起こす疾患として、椎骨脳底動脈循環不全(ついこつのうていどうみゃくじゅんかんふぜん)、血圧調節の異常(食後低血圧、起立性(きりつせい)低血圧)などがあります。これらは、脳血流量が一過性の減少を起こして、俗にいう「脳貧血(のうひんけつ)」の症状を示しますが、血液検査の値(血算)には異常を認めず、貧血とは別の病態です。

堤 久


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「貧血」の解説

貧血(症候学)

概念
 赤血球が正常値以下に減少した病態が貧血であるが,末梢血液検査で,ヘモグロビン濃度・赤血球数・ヘマトクリットの値が基準値以下になった場合を一般に貧血という.赤血球の生理的役割は酸素を全身の組織に運ぶことであり,それが不十分になると各臓器・組織の酸素不足によるさまざまな貧血症状が出現する.ヘモグロビンが酸素の運搬体の役割を果たすことから,ヘモグロビン値が最も重要な貧血の指標となる.【⇨14-9-1)-(1)】
病態生理・成因
 赤血球は,多能性造血幹細胞から赤血球系前駆細胞の段階を経て,赤芽球となり,さらに脱核して生成される.最初はRNAが多く含まれており,網赤血球とよばれる.正常な状態での赤血球の寿命は120日である. 再生不良性貧血・赤芽球癆や急性白血病のように未分化な段階で赤血球造血が抑制される場合は,正常赤血球系が低形成の状態となる.一方,成熟赤血球が何らかの理由により破壊される溶血性貧血では,代償性に骨髄で赤血球造血が亢進する.この赤血球産生能力は健常時の6倍以上あるため,軽度の溶血では貧血を発症しない.
 赤血球の成熟障害では,それぞれの成因に特徴的な所見が観察される.骨髄異形成症候群では,名称どおりに血球の異形成像(巨赤芽球様変化など)が観察される.また,ビタミンB12や葉酸の欠乏などによる巨赤芽球性貧血でも巨赤芽球を認め,いずれの疾患でも無効造血(骨髄は過形成で,末梢血は汎血球減少を認める)が特徴的である.鉄欠乏性貧血では,ヘモグロビン合成が不十分であるため,もし骨髄検査(通常はこの検査は不要)を行った場合には,細胞質の乏しい好塩基性赤芽球が観察される.腎性貧血では,エリスロポエチンが不足になるため,貧血のレベルに見合った赤血球造血が起こらない. その他,失血(出血)による貧血や,妊娠時の生理的貧血などのように見かけ上のもの(希釈性貧血)もある.
診断(表2-28-1)
 問診では,健診や人間ドックで過去に貧血の指摘を受けたことがないかどうか,顔色が悪くなったと周囲の人に言われないかどうか,その場合はいつ頃からかを聞く.自覚症状としては,労作時の息切れ・動悸,貧血に基づくさまざまな不定愁訴(易疲労感・全身倦怠感・頭痛・めまい・耳鳴りなど)がないかどうかを聞く.また,鼻出血・消化管出血(黒色便や下血)・痔出血などがないかどうか,過多月経などの婦人科的問題の有無,極端な偏食の有無,胃切除の既往歴の有無,食事が舌にしみたり,のどにつかえる感じ(嚥下障害)がないかどうかを聞く.なお,貧血がゆっくりと進行してきた場合には,体のなかで代償機転が働くため,ヘモグロビン値がかなり下がるまで自覚症状を訴えないことも多いので注意する.溶血性貧血を疑う場合は胆石発作の有無を聞く.遺伝性疾患が考えられる場合は,家族歴も重要である.薬剤の服用の有無も確認する. 視診では,顔色や皮膚・爪床の色調が蒼白でないかどうか,手掌の襞の部分の赤みがなくなっていないかどうか,また,眼瞼結膜の色調を調べる.鉄欠乏性貧血でみられる爪の変形(匙状爪 )にも注意する.鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血でみられる舌炎の有無については,粘膜・舌乳頭の萎縮,舌苔がなくなりテカテカした感じ,ヒリヒリ感などを調べる.巨赤芽球性貧血の場合の白髪,溶血性貧血の場合の黄疸や,血小板減少を伴っている場合の紫斑などにも気をつける. その他の身体所見では,頻脈の有無を調べ,心臓の聴診で機能性収縮期心雑音,頸部の聴診で静脈コマ音(血管性雑音)の有無を調べる.なお,心電図で虚血性変化を認めることがあるが,このような所見は貧血の改善とともに消失する.
鑑別診断
 貧血を疑った場合は,ヘモグロビン値で確認する.基準値は成人男性が13.0〜18.0 g/dL,成人女性が11.5〜17.0 g/dL程度である. 鑑別診断の第一段階としては,赤血球指数の中の平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV)の値から小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血のいずれであるかを判断する(表2-28-2).小球性貧血(MCV≦80 fL)は,ヘモグロビン合成が正常に起こらない病態に基づくものであり(細胞質成熟障害),代表的なものとしては,鉄欠乏性貧血・鉄芽球性貧血・サラセミア・無トランスフェリン血症などがある.日常臨床では大半が鉄欠乏性貧血である.正球性貧血(81 fL≦MCV≦100 fL)のなかには,溶血性貧血・再生不良性貧血・二次性貧血・急性出血後の貧血などが含まれる.なお,溶血性貧血で網赤血球が著増している場合や再生不良性貧血では大球性を呈することもある.大球性貧血(MCV≧101 fL)は,DNA合成障害がある場合で(核成熟障害),ヘモグロビン合成の方がより進む結果,赤血球1個あたりのサイズが大きくなる.代表的な疾患が巨赤芽球性貧血(悪性貧血や胃切除後のビタミンB12欠乏症など;葉酸欠乏はまれ)で,その他,再生不良性貧血や骨髄異形成症候群,肝疾患や甲状腺機能低下症に伴う貧血などがある.また,抗癌薬の投与を受けている場合も,大球性貧血が認められる. 網赤血球数は赤血球造血の状態を反映した指標となる.溶血性貧血などの場合のように,代償性に骨髄での赤血球造血が活発になっている場合は,著しい増加が認められる.一方,正常赤血球造血が低下している場合は,網赤血球数も低下する.
 末梢血塗抹標本で赤血球形態をみることも重要である.遺伝性の溶血性貧血のなかでは,遺伝性球状赤血球症はわが国で比較的よくみられる.奇形赤血球が目立つ場合は,骨髄線維症を考える.
 鉄代謝に関連した検査も鑑別診断に重要である.血清鉄,総鉄結合能あるいは不飽和鉄結合能,フェリチン値(貯蔵鉄の量を反映する)を調べることにより,貧血の種類に応じたパターンを示す.鉄欠乏性貧血では,血清鉄とフェリチン値が低下し,不飽和鉄結合能が増加する.一方,再生不良性貧血などのように,鉄が有効に利用されない場合は,血清鉄とフェリチン値が増加し,不飽和鉄結合能は低下する.その他,慢性感染症や炎症・腫瘍などによる二次性貧血では,血清鉄と総鉄結合能が低値となるが,フェリチン値は正常ないし増加を示す.
 血液生化学検査では,間接ビリルビン(溶血性貧血で高値),LDH(溶血性貧血で高値,また,巨赤芽球性貧血や骨髄異形成症候群による無効造血の際にも高値となる),クレアチニン(腎性貧血で高値)などの検査値に注意を払う.その他,ハプトグロビン(溶血性貧血で低下),血清ビタミンB12,葉酸などを調べる.血清学的検査ではCoombs試験(自己免疫性溶血性貧血で陽性)を行う. 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群・急性白血病・多発性骨髄腫・骨髄線維症などが疑われる場合は,骨髄検査を行う.
 二次性貧血は,何らかの疾患に伴って認められる貧血で,癌や膠原病・慢性感染症などの炎症に伴うものや,腎性貧血などがある.疑わしい疾患に関連した検査を行う.[小澤敬也]

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食の医学館 「貧血」の解説

ひんけつ【貧血】

《どんな病気か?》


〈貧血は、ヘモグロビンの減少している状態〉
 血液は赤血球(せっけっきゅう)、白血球(はっけっきゅう)、血小板(けっしょうばん)、血漿(けっしょう)から成り、体内を留まることなく流れ続けています。血液は肺を通過するときに、余分な二酸化炭素を除去し、酸素を取り入れて、また全身を巡ります。
 そして、全身の細胞に酸素とエネルギー源を供給し、同時に老廃物を除去するなど、人体の機能にとっては、とてもたいせつな役割をはたしています。
 この流れのなかで、肺で酸素を受け取る役割をするのが、赤血球です。最初に赤血球中のヘモグロビンというたんぱく質が酸素と結合し、体内に酸素を供給します。
 そしてヘモグロビンはそこで生じた二酸化炭素と再び結合し、肺へもどるのです。
 貧血(ひんけつ)は、このヘモグロビンの量が基準値よりも減少している状態をいいます。
◆貧血とみなされるヘモグロビン量
 成人男子‥‥‥13g/dl以下
 成人女子‥‥‥12g/dl以下
 妊婦‥‥‥‥‥11g/dl以下
 そのために、十分な酸素が全身に供給されず、各機能の働きが低下して、さまざまな症状を引き起こすのです。
 貧血の一般症状は、だるい、寒け、動悸(どうき)や息切れ、食欲不振や吐(は)き気(け)などの自覚症状のほか、顔色が悪い、目や口の粘膜(ねんまく)が白いなどの外見的な症状もあります。

《関連する食品》


〈鉄欠乏性貧血には十分なエネルギーと鉄分の摂取を〉
 ヘモグロビンが減少する原因としては、ヘモグロビンの構成要素である鉄分の不足、赤血球をつくる骨髄(こつずい)の異常、赤血球の破壊など、いくつかあります。
 その原因によって貧血の種類がわけられ、一般症状に加え、別な症状もみられるようになります。
 しかし、貧血のなかでもっとも多いのは、鉄分の不足による鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)です。
 一般に、貧血というと、この鉄欠乏性貧血を意味することがほとんどです。
 とくに若い女性に多くみられ、5人に1人は貧血だといわれているほどです。
 もともと鉄分は吸収されにくい物質で、摂取した10%しか吸収されません。さらに、女性は月経時に出血するために男性の50%も多くの鉄分が、また妊婦にいたってはおよそ男性の約3倍の鉄分が必要になります。
 それゆえに、スタイルを気にしてのダイエットや、かたよった食生活により、貧血を起こしやすくなるのです。
◆1日の鉄分の推奨量
 成人男子‥‥‥‥‥‥‥7.0~7.5mg
 成人女子‥‥‥‥‥‥‥10.5mg
 妊婦(前期)‥‥‥‥‥8.5~9.0mg
 妊婦(中期/後期)‥‥21.0~21.5mg
 授乳期‥‥‥‥‥‥‥‥8.5~9.0mg
 鉄欠乏性貧血の場合、前にあげた一般症状に加え、爪(つめ)が平たくなったりスプーン状になる、舌がただれたり、肩こりや頭痛が現れたりすることもあります。
 出血をともなう場合や急激な貧血症状には鉄剤の投与が行われますが、改善や予防には体重やスタイルを気にせず、毎日3食きちんと食事をすること、必要な栄養をしっかりととることがたいせつです。
〈緑黄色野菜と組み合わせ、効率的に鉄分を摂取〉
○栄養成分としての働きから
 鉄分が不足して起こるだけに、鉄の補給は欠かせません。鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、吸収率が異なります。
 レバーなどの内臓肉や肉類、カツオやブリなどの赤身の魚、シジミやアサリ、ハマグリ、カキなどの貝類に含まれる鉄分をヘム鉄といいます。一方、ホウレンソウやコマツナ、シュンギク、パセリ、シソなどの野菜、豆類に含まれる鉄分を非ヘム鉄といいます。吸収率はヘム鉄のほうが、かなりまさります。
 両方ともビタミンCといっしょに摂取すると吸収しやすくなるので、ブロッコリーやピーマンなどの緑黄色野菜をじょうずに組み合わせて食べると効果的です。
 同様に動物性のたんぱく質も非ヘム鉄の吸収を促進します。とくに牛肉と鶏肉にその効果がみられます。同時にたんぱく質も、ヘモグロビンの重要な構成要素なので、十分な量を摂取したい栄養素です。
〈ローヤルゼリー、クマ笹エキスが造血、貧血を予防〉
○漢方的な働きから
 漢方では、血液を浄化させるために、カルシウムをたっぷり摂取することもたいせつとされています。
 キクラゲにはその作用が十分に含まれると同時に、漢方的にも白キクラゲは血液浄化の薬効がとくにすぐれているとされています。料理に使用するほか、煎(せん)じておいてあたためて飲むといいでしょう。
 造血作用をうながすには、漢方的に効果があるとされている栄養補助食品なども役に立ちます。
 ローヤルゼリーがその1つで、造血作用のほか、とくに婦人科系疾患などによる貧血には効果的とされています。
 同様にクマ笹エキスにも造血作用がありますが、これはローヤルゼリーとはちがい、末梢(まっしょう)血管を拡張する働きがあるため、全身の隅々まで酸素を送り込むことで貧血を予防・解消します。
 意外にも、皮膚疾患に効果があるとされている漢方薬、ドクダミも貧血に効果があります。毎食前にコップ1杯の煎じたドクダミを飲むようにしましょう。
 このほかにも、漢方薬ではアカヤジオウが貧血の特効薬といわれています。
 乾燥させたアカヤジオウの根を煎じて飲みますが、薬用酒として地黄酒(じおうしゅ)を代用することもできますし、地黄などの生薬(しょうやく)が含まれる十全大補(じゅうぜんたいほ)酒も貧血の予防効果があります。
 また、たまごの殻も貧血によいと昔からいわれています。細かく砕いたたまごの殻(から)をきつね色になるまで煎(い)り、さらに粉末状にしてぬるま湯に溶かして飲むのです。
○注意すべきこと
 コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるタンニンは、鉄分と結合して、鉄分の吸収をさまたげてしまうので、鉄剤服用時にはお茶やコーヒーでとらないほうがよいといわれてきました。しかし、鉄剤に含まれる鉄が多いため、あまり影響がないのではともいわれています。気になる場合は、ぬるま湯で服用しましょう。

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百科事典マイペディア 「貧血」の意味・わかりやすい解説

貧血【ひんけつ】

血流中の赤血球数あるいは血色素量が減少している状態。出血,溶血,赤血球形成不全などをきたす種々の疾患が原因となる。軽度では無症状だが,高度になると皮膚粘膜が蒼白(そうはく)化し,倦怠(けんたい)感,めまい,頭痛,耳鳴り,注意力減退などの精神症状などをきたす。急激な大量出血による急性出血性貧血ではショック状態となる。体内の鉄分の欠乏による鉄欠乏性(低色素性)貧血には萎黄(いおう)病,本態性低色素性貧血等があり,溶血の異常亢進による溶血性貧血には地中海貧血鎌状細胞貧血,中毒性溶血性貧血等がある。そのほか悪性貧血再生不良性貧血など。→虚血
→関連項目造血薬鉄剤ヘモグロビン輸血老人病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「貧血」の意味・わかりやすい解説

貧血
ひんけつ
anemia

正確には,循環している赤血球数とヘモグロビン量が絶対的に減少した状態を貧血というが,実際には,単位体積の血液中の赤血球数またはヘモグロビン濃度が減少した状態をいう。症状は,顔色や皮膚の蒼白,運動時の息切れ,心悸亢進,舌炎,嚥下困難,発熱,黄疸,出血傾向など。治療には,原因の除去 (出血の防止,駆虫,感染症の治療など) ,脾臓摘出,ACTH,副腎皮質ホルモンの投与,欠乏物質の補給 (ビタミン B12 ,鉄剤など) ,輸血などが必要に応じて行われる。貧血には種々のものがあり,M. M.ウィントローブは次のように分類している。これらは,各種の血液検査によって鑑別できる。 (1) 大赤血球性貧血 赤血球の平均容積が正常より大きい貧血で,悪性貧血,葉酸欠乏による貧血などがこれに属する。 (2) 正赤血球性貧血 赤血球の容積が正常範囲内にあるもので,急性出血,溶血性貧血,再生不良性貧血,妊娠による貧血などがある。 (3) 低色素性,小赤血球性貧血 赤血球の容積が正常より小さく,ヘモグロビンの含有量も少いもので,鉄欠乏性貧血,サラセミア,鉄芽球性貧血などが属している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

とっさの日本語便利帳 「貧血」の解説

貧血

赤血球に含まれる色素、ヘモグロビンが低下した状態。約七〇%が、鉄の欠乏により骨髄でのヘモグロビン合成が障害されるために起こる鉄欠乏性貧血。このほか、赤血球の形成不全による貧血や赤血球の破壊による貧血など、様々な型がある。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

妊娠・子育て用語辞典 「貧血」の解説

ひんけつ【貧血】

妊娠の全期間を通して、約3割の人は貧血になると言われています。そして妊婦さんの貧血の9割は「鉄欠乏性貧血」。血液中の赤血球の中にあるヘモグロビンが少なくなった状態で、いってみれば血液が薄くなるのです。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

栄養・生化学辞典 「貧血」の解説

貧血

 赤血球減少症ともいう.ヘモグロビン量が正常より少ない状態.諸種の原因で起こる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の貧血の言及

【血液】より

…広い意味では,血球の産生や破壊に関係する骨髄,脾臓,リンパ節の病気も含まれる。(1)赤血球の異常による病気 赤血球の数が減り,その結果血色素による酸素運搬力が低下したものが貧血である。赤血球を産生する能力が低下したり,あるいは産生は十分でも寿命が短縮して破壊が亢進すると貧血になる。…

【子宮筋腫】より

…おもな症状は,筋腫が子宮に発生することからも理解できるように,子宮内膜からの周期的出血による月経の異常である。とくに過多月経(月経の量が多い),月経困難症(月経のときに下腹とか腰が痛い)が挙げられ,症状がひどくなると,月経の時期を問わず出血する不正子宮出血の形をとり,出血が多くて貧血の状態に陥ることもよくみられる。その他,筋腫が大きくなって,まわりの組織,膀胱あるいは骨盤の中の神経や直腸を圧迫するための症状が認められる。…

【赤血球】より

…ヒトの赤血球の寿命は約120日で,老化した血球は脾臓や骨髄で崩壊し,新たに産生された赤血球が骨髄から血液へ供給されている。赤血球が減って血液による酸素運搬能力が低下した状態が貧血で,最も多い貧血の原因はヘモグロビンの材料になる鉄の不足によるものである。赤血球の病気にはこのほか,赤血球が増える多血症などがある。…

【造血薬】より

…貧血の治療に用いられる薬剤。貧血にも種類があり,おもなものに鉄欠乏性貧血,悪性貧血(巨赤芽球性貧血),再生不良性貧血,溶血性貧血などがある。…

※「貧血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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