場の理論を相対論的に表現するための手法。朝永振一郎によって1943年に提出され,J.シュウィンガーによっても独立に拡張されたので朝永=シュウィンガーの理論ともいう。粒子の相対速度が光速cに比べて遅い場合(例えばふつうの原子中の電子の核に対する速度はc×10⁻5)には,量子力学は非相対論的なシュレーディンガー方程式で十分よく記述される。その場合,複数の電子の位置座標がそれぞれ独立な変数として取り扱われる。しかし,時間座標は共通に一つあるだけであるから,この定式化は明らかに相対論的に不変ではない。相対論では位置および時間のx,y,z,tの四つの座標の間に区別がないように書かれる。したがってn個の粒子が存在する場合には,n個の時間を導入することで相対論的に不変な定式化が可能となる。実際,このような理論はP.A.M.ディラックによって構築され(1933),多時間理論と呼ばれる。そのためには,ふつうのシュレーディンガー表示(そこでは波動関数が時間に依存し,物理量としての演算子は時間によらない)から少なくとも放射場に関しての相互作用表示(そこでは放射場は自由な放射場としてマクスウェルの方程式に従う)に移行し,変換されたシュレーディンガー方程式を一般化して各粒子ごとの時間(t1,t2,……,tn)を導入し,t1=t2=……tn=tの極限でもとの方程式に一致するようにするのである。
さて場の理論では,独立な変数は空間の各点で定義される場の量である。空間の各点を変数の添字と考えると,場の理論は形式的に連続無限個の粒子の系と考えられる。したがってディラックの方法によって相対論的に不変な形式を考えると,t1,t2,……,tnに対してt(x,y,z)という空間の各点で定義される時間変数を導入することになる。これは四次元時空の中の超曲面である。このようにして連続無限個の時間変数を導入して場の理論を相対論的に書く方法を超多時間理論という。この理論に基づいて初めていろいろな物理量を相対論的に不変な形で計算することが可能になり,のちのくりこみ理論の発展に寄与した。
執筆者:菅原 寛孝
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場の量子論(「場」を量子力学的に取り扱う理論)の内容が(特殊)相対性理論に従っていることを、数学的形式のうえでも一目瞭然(りょうぜん)となるように定式化した理論。朝永(ともなが)振一郎とJ・シュウィンガーとが1943年、1948年に、それぞれ独立にこの理論をつくった。この理論によれば、空間の全領域に広がった場の量子力学的状態を記述するために、状態ベクトルを、単一の時間変数の関数としてではなく空間の場所ごとに異なる時刻を指定して、ミンコフスキー空間のなかで定義される「空間的超曲面」の汎(はん)関数として書き表す。したがって、状態は無限個の空間の点に対応して無限個の時刻値に(空間的超曲面への依存性を通じて)依存するのでこの名がつけられた。
この状態ベクトルは「朝永‐シュウィンガー方程式」に従って場の相互作用から生ずる変化を受け、他方、場の力学変数(場の演算子など)自体は場に相互作用のない場合と同形の運動方程式と交換関係に従う。
場の量子論を超多時間理論の形式に再定式化することによって理論の含む物理的内容がきわめて明確になり、場の理論に基づく計算にしばしば現れる発散量(無限大の自己エネルギーなど)を矛盾なく取り除いて有限確定の結果を得る「くりこみrenormalization理論」も理論のこの形式を用いて発見されたものである。
[牧 二郎]
『朝永振一郎著、山口嘉夫解説『朝永振一郎著作集11 量子力学と私』新装版(2002・みすず書房)』
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… 広い意味では相対論的量子力学は相対論的場の量子論と同義となる。この理論では空間の各点に対応する時刻が必要であり,超多時間理論となる。すなわち,ある時刻での事象を問題にするのでなく,四次元時空中の三次元超曲面上での波動関数を考えるのである。…
※「超多時間理論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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