軟骨(読み)ナンコツ(英語表記)cartilage

翻訳|cartilage

デジタル大辞泉 「軟骨」の意味・読み・例文・類語

なん‐こつ【軟骨】

軟骨細胞とそれを取り囲む基質からなる支持器官弾力性があり、脊椎動物によく発達。発生初期は骨格の大部分を占めるが、のちに骨組織に置換され、人間では関節喉頭蓋こうとうがい耳介椎間板などにみられる。⇔硬骨

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精選版 日本国語大辞典 「軟骨」の意味・読み・例文・類語

なん‐こつ【軟骨】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [オランダ語] Kraakbeen の訳語 ) 動物の体を支持する器官の一つで、軟骨組織からなるものをさしていう。主に脊椎動物で見られ、発生初期には大部分の骨格が軟骨でつくられ、後に硬骨によって置換されるが、軟骨魚類では終生軟骨のままである。頭足類にも見られる。
    1. [初出の実例]「加蝋仮(からかべん)。此翻軟骨」(出典:解体新書(1774)一)
  3. ( 形動 ) 意見や態度などが軟弱であること。意志の薄弱なこと。また、そのさま。こしぬけ。
    1. [初出の実例]「民党の分裂〈略〉自由党の軟骨(ナンコツ)を罵るの好材料として此事を持出し」(出典:朝野新聞‐明治二六年(1893)二月一九日)
    2. [その他の文献]〔張祜‐観杭州柘枝詩〕

軟骨の補助注記

は挙例の「解体新書」に初めて見える訳語。同書の凡例によれば、原語の「脆軟」という意味を汲み取り、「軟」という字をあてたとのことで、意訳(義訳)の例として紹介されている。

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改訂新版 世界大百科事典 「軟骨」の意味・わかりやすい解説

軟骨 (なんこつ)
cartilage

脊椎動物の間葉由来の支持組織の一種で,無脊椎動物の一部にも存在する。脊椎動物では,骨(硬骨)とともに骨格組織を構成する。軟骨は,ある程度の硬さと弾力性をもつと同時に,骨と違って内部からの膨張によって成長できる。軟骨細胞と軟骨組織からなり,繊維性結合組織軟骨膜で覆われる。軟骨膜を構成する扁平な繊維細胞は,順次肥大して,卵形ないし球形の軟骨細胞に移行する。軟骨細胞は,コラーゲン原繊維を含むコンドロイチン硫酸のゼリー状の基質を分泌しつつ,単独または数個の小集団として基質中に埋め込まれる。軟骨細胞は,基質中をしみとおってくる組織液から栄養をうけとり,終生細胞分裂と基質形成の能力を保持し,必要に応じて軟骨の形と大きさを変えることができる。

 軟骨基質の成分の違いにより,硝子(ガラス)/(しようし)軟骨,弾性軟骨繊維軟骨が区別される。硝子軟骨半透明,均質無構造で柔軟性に富み,下等脊椎動物や胎生期の高等動物の内骨格を構成し,成体では関節面,肋軟骨,呼吸器(喉頭,気管,気管支)の壁に存在する。弾性軟骨は多量の弾性繊維を含むため弾力性に富み,耳介や喉頭蓋に存在する。繊維軟骨は強靱結合組織と軟骨の中間型で,膠原(こうげん)繊維を多く含み,恥骨結合,下顎結合,椎間円板や,腱や靱帯の骨への付着部に存在する。また,基質にリン酸石灰または炭酸石灰が沈着して,石灰化軟骨を形成することもある。

 軟骨様組織は,頭足類でよく発達するほか,腹足類の歯舌やシャミセンガイ(腕足類)の触手冠に存在する。脊椎動物では,下等なグループほど内骨格としてよく発達している。高等動物では胎生期には存在するが,しだいに骨によって置き換えられる。すなわち,円口類と軟骨魚類では内骨格が生涯軟骨のみからなり,後者では椎体などに石灰化軟骨が発達する。硬骨魚類以上の動物では,初期には軟骨性の内骨格(頭蓋(とうがい),脊柱,体肢骨,鰓弓(さいきゆう)骨)が成長とともに骨によって置換される。これを軟骨性骨化といい,まず軟骨細胞が肥大し,軟骨基質が石灰化した後,軟骨組織の破壊と骨の形成がおこる。軟骨は成長期間中,成長の中心として骨の一部に残存する。このような現象から,軟骨の発達を胎生期における成長のための適応機構とみる見解もあるが,比較解剖学の立場からすれば,軟骨は骨に先行する原始的な骨格組織と考えるべきであろう。
仮骨
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軟骨」の意味・わかりやすい解説

軟骨
なんこつ

骨格系の一部をなすもので、支持組織に属し、軟骨細胞と軟骨細胞間を埋めている多量の細胞間質(基質)で構成されている。他の支持組織(結合組織、骨組織など)と異なる点は、軟骨組織の細胞間質内には血管、リンパ管、神経などが存在しないことで、新陳代謝の物質移動は細胞間質への拡散によって行われている。軟骨は、細胞間質内に存在する膠原(こうげん)線維や弾性線維によって硝子(しょうし)軟骨、弾性軟骨、線維軟骨が区別されている。身体の中の大部分の軟骨は硝子軟骨で、関節軟骨、肋(ろく)軟骨、気道の軟骨、胎児の骨格部分がこれにあたる。硝子軟骨の細胞間質は半透明で、一見、無構造を示すが、微細な膠原線維が縦横に走り、間質は硫酸ムコタンパク(タンパクとコンドロイチン硫酸との複合タンパク)を含んでいる。また、水分も60~80%含まれている。弾性軟骨は間質内に多量の弾性線維を含み、著しい弾力性をもっている。耳介、外耳道、喉頭蓋(こうとうがい)の軟骨がこれに属している。線維軟骨は間質内を多量の太い膠原線維が縦横に走っており、椎間(ついかん)円板、恥骨結合の結合部、一部の関節軟骨がこれに属している。

 軟骨は関節に面した部分を除いて、緻密(ちみつ)な結合組織からなる軟骨膜に包まれている。軟骨の働きは、関節軟骨のように骨端の摩擦を防ぐと同時に大きな重量を支持する緩衝装置の役を果たすほか、耳介のように柔軟な骨組ともなるし、肋軟骨、恥骨結合の軟骨のように圧力に対する抵抗力の基盤ともなる。軟骨は骨の成長にも関係があるため、栄養不良などの代謝障害では敏感に反応する。したがって、軟骨はこれら検査の指標ともされる。

[嶋井和世]

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百科事典マイペディア 「軟骨」の意味・わかりやすい解説

軟骨【なんこつ】

脊椎動物の支持組織で,軟体動物など一部の無脊椎動物にもある。軟骨細胞と基質からなり,一般に弾性に富み強いが,基質に石灰塩の沈着がないので骨のようには堅くない。軟骨膜に包まれる。発生の初期には骨格の大部分は軟骨で,のち骨組織に置き換えられる。ヒトでは耳介,外鼻,喉頭(こうとう),気管,気管支などの支柱のほかの関節面や肋骨端などに見られる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軟骨」の意味・わかりやすい解説

軟骨
なんこつ
cartilage

軟骨組織から成る支持器官で,弾力性に富む。発生の初期には骨格の大部分を構成しているが,のちに骨組織に置換される。成体では,関節のように骨と骨が連結する部位に多い。鼻や耳,肋骨,椎骨間,恥骨間などにも軟骨がある。硝子軟骨,弾性軟骨,線維軟骨などに分類される。

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栄養・生化学辞典 「軟骨」の解説

軟骨

 骨の関節の面にあり,運動を円滑にする弾力のある結合組織.

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世界大百科事典(旧版)内の軟骨の言及

【骨】より

…脊椎動物の骨格の構成要素,およびその組織。無脊椎動物にも貝類の殻,イカの甲,カニの甲殻などさまざまな骨格が見いだされるが,リン酸カルシウム質の骨は軟骨と並んで脊椎動物独特のものである。脊椎動物がどのようにして骨をもつに至ったかは不明であるが,化石として知られる最古の脊椎動物,すなわち無顎(むがく)類に属した古生代の甲皮類(カブトウオ類)は〈皮甲〉と呼ばれる堅固な骨性の外骨格を備えていた。…

※「軟骨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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