われわれが普通近親婚という場合、血のつながりの濃い者同士の結婚という意味の自明の語として用いられている。だが、とかく、婚姻がさまざまの社会的・文化的要素からなる複雑な仕組みであることを見過ごし、性的交渉と同義語のように扱い、近親婚を優生学的考慮の対象にしさえすればよいと思い込みがちである。日本では、たとえば民法第734条に「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない」などとあり、4親等になるいとこ同士の結婚は法的に認められているのに、人々の間では近親間の結婚の代表的な例とされ、問題にされることも多い。さらに民法では、一部の姻族とも結婚できない決まりになっている。ローマ時代のエジプトの王朝、ハワイやインカ帝国の王族の間でかつては兄弟姉妹の結婚が許されていた事実、いとこ(多くの場合、男性の母親の兄弟の娘)との結婚が許され、あるいは奨励される多数の社会、さらにはアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)に住むレレ人の社会では祖父と孫娘の結婚が許されている事例など、非西欧的社会から報告される婚姻習俗を近親婚として取り上げるのが一般的であろう。しかし、地球上のさまざまの社会にみられる婚姻を分析し比較する見方で考える際には、少なくとも、(1)血のつながりとは実際になにを意味するのか、(2)濃い薄いなど、しばしば親族名称のあり方と密接に関連する、親族の区分の仕方はどのようになされているか、(3)いわゆる近親相姦(そうかん)(インセスト)と混同してはいないであろうか、(4)近親との結婚を当該社会の成員自身はどう説明するか、(5)その社会組織に及ぼす作用がいかなるものであるか、といった問題を十分に考えなければならない。最後の問題については、出自集団の結束を強化する、財産の分散を防ぐ、支配的地位を有する血統の独自性を保つ、二つ以上の集団間での女性交換による社会関係の維持などが、これまでの社会人類学の婚姻研究によって明らかにされてきている。結局、社会が違うと、近親婚とされうる婚姻の型も異なってくるのであるし、否定的な先入観にとらわれていてはその理解もきわめて困難であるといわざるをえない。
[小川正恭]
『ルーシー・メア著、土橋文子訳『婚姻 夫とは何か/人類学的考察』(1979・法政大学出版局・りぶらりあ選書)』
血のつながりのある親類を「近親者(血縁者)」といい、共通する遺伝子をもっている可能性が高い集団です。共通する遺伝子をもつ確率によって第一度近親者、第二度近親者というように分類します(表5)。
家系調査により共通の祖先をもつ関係は、すべて近親ということになります。そのような血縁者同士が婚姻関係を結ぶことを「近親婚」といいます。法律により日本では「いとこ婚」までは認められています。ここでは、いとこ婚を例にあげて説明します。
図14のように、結婚関係にあるⅢ1とⅢ2は親が兄弟姉妹の関係にあり、祖父母であるⅠ1(祖父)とⅠ2(祖母)は共通の人物です。ある遺伝子
4種類あるので、いとこ婚において共通祖先Ⅰ1とⅠ2から伝えられた遺伝子がホモ接合する確率は16分の1(64分の1×4)になります。
劣性遺伝病の時、近親婚が大きな意味合いをもちます。たとえば、Ⅰ1とⅠ2のどちらかが保因者(ヘテロ接合)であるとすると、曽孫が発病する確率が高まることになります。代謝性疾患で多く認められる常染色体劣性遺伝病の場合、他人婚に比較し、発病の確率が数倍~数十倍高まることがあります。
田村 和朗
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…重複した場合,それぞれの親族関係は互いに干渉することなくそのまま効力をもちつづける。たとえば前者の場合,兄の養子となった弟は,養子としての立場からいえば,おば(伯叔母)との関係は四親等の傍系血族になるから近親婚の禁止(734条)に触れないことになるが,父の実子(兄の弟)としては三親等の傍系血族という関係がつづいているからこれに触れることになる。
[法律効果]
親族関係にあることによって,当事者間にどのような権利・義務が発生するかが法律効果の問題である。…
※「近親婚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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