追奪担保(読み)ついだつたんぽ

精選版 日本国語大辞典 「追奪担保」の意味・読み・例文・類語

ついだつ‐たんぽ【追奪担保】

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デジタル大辞泉 「追奪担保」の意味・読み・例文・類語

ついだつ‐たんぽ【追奪担保】

売買の目的となった権利瑕疵かし欠陥)があった場合に、売り主が買い主に対して負う担保責任。→瑕疵担保責任

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改訂新版 世界大百科事典 「追奪担保」の意味・わかりやすい解説

追奪担保 (ついだつたんぽ)

権利の瑕疵(かし)担保ともいわれる。売買の目的物が他人に属している場合や,その目的物に他人の利用権が設定されているとか他人の担保物権が設定されている場合には,買主は目的物の所有権を取得したと思っても,真の所有者から目的物を奪われたり,別の利用権者が現れて買主が利用できなくなったり,他人の担保物権が実行されたりすることがある。売買の目的物にかような法律上の欠点(瑕疵)があると買主が売買の目的を達成しえなくなるおそれがある。そこで売主は売買の目的物に法律上の欠点がないことを請け合う責任を課せられている。この制度を追奪担保という。これについては,売主が契約で引き受けた義務違反に根拠をもつという見方と,民法が目的物にそうした欠点がないことをふまえて代金が支払われるという売買の有償双務性から売主に課した無過失責任であるという見方とが対立している。追奪担保という名称は,上例でみるように,買主がいったん目的物を入手した後に,真の権利者等により目的物が奪われる事態に対する特別の責任として発展してきたことに由来する。なお,この責任は,民法559条により売買以外の有償契約に準用されているので,問題になる範囲はきわめて広い。

 追奪担保はかつては文字どおり,他の権利者の権利主張による〈追奪〉事実を,その責任発生の要件としていた。つまり,他人による追奪という事態が発生してはじめて買主に与えられる事後的な救済であった。歴史的にさかのぼると,他人が追奪しようとして買主に訴求してきた場合に買主が売主に訴訟を通告してその訴訟上での防御義務を課し,売主がそれを怠ったり,防御しても敗訴すると代金の2倍額責任を課す時期もあった。追奪担保はこうした訴訟上の防御義務とは切り離されて展開した実体法上の責任である。19世紀にヨーロッパで近代民法が制定される時期にはローマ法以来の追奪担保の考え方がなお強く残っていたが,それと同時に,教会法・自然法に由来する完全な権利供与の考え方が登場してくる。すなわち,売主は完全な所有権を買主に移転する義務を契約により負担し,追奪等により買主が所有権を取得しえないのは,売主の債務不履行であるとする考え方である。この考え方に立つと,売主は当初から法律上の瑕疵のない所有権を移転する義務を契約により負っているので,追奪という事態をまって売主が事後的に責任を請け合うのではなくなる。近代民法のうち,オーストリア民法やフランス民法はまだ追奪担保,〈権利の瑕疵担保〉型であるが,ドイツ民法は完全な所有権供与義務を明記し,権利の瑕疵担保を債務不履行の特則とした。そこでは,担保責任が債務不履行に吸収されている。

 日本の民法の起草者は,権利の瑕疵担保も物の瑕疵担保(単に瑕疵担保ということが多い。瑕疵担保責任)も売主の債務不履行責任とみたのであるが,その後,ドイツ民法学説の圧倒的影響を受けるなかで,学説上,権利の瑕疵担保は債務不履行,物の瑕疵担保は特別の担保責任であるという見解が通説化した。現在は,権利の瑕疵担保も物の瑕疵担保も担保責任として同一視する考え方も実務では強い。

 現行法上,権利の瑕疵担保は,他人の権利の売買(民法560~564条),数量不足,物の一部滅失(565条),他人の利用権や担保物権付の売買(566~567条),債権の売買(569条)等に分けて規定されている。買主に与えられる救済は,損害賠償と契約解除,代金減額が中心である。債務不履行説と担保責任説とで,救済が与えられる要件はほとんど差が生じないが(両者とも無過失責任),与えられる救済の範囲(ことに損害賠償が履行利益に及ぶか信頼利益にとどまるか)等でかなり相違点が見られる。ただ,この相違点もまだ十分理論的に究明されているとはいえないのが現状である。
債務不履行
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「追奪担保」の意味・わかりやすい解説

追奪担保
ついだつたんぽ

売買の目的たる権利に瑕疵(かし)(欠陥)があることによる売り主の担保責任をいう。買い主が目的物を真正の権利者たる第三者から追奪された場合の責任という意味で「追奪担保」とよばれるが、民法の認める権利の瑕疵に対する担保責任は追奪の場合に限られないから正確な用語ではない。権利の瑕疵についての担保責任には、他人の権利を売買した場合(民法561条以下)、売買の目的物が数量不足および一部滅失の場合(同法565条)、売買の目的物に占有を内容とする他人の権利(地上権や質権など)が付着している場合(同法566条)、担保物権(先取(さきどり)特権および抵当権)の行使によって所有権を失った場合(同法567条)、の4種類がある。担保責任の内容は、前記のそれぞれの場合および買い主の善意・悪意によって異なるが、おおむね解除権および損害賠償請求権であり、まれに代金減額請求権が与えられている。

[淡路剛久]

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