被疑者の身柄を拘束する処分をいう。憲法は、何人(なんぴと)も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲(裁判官)が発しかつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない、と規定している(憲法33条。令状主義)。したがって、逮捕には、憲法上は、令状による逮捕(通常逮捕)と現行犯逮捕があることになるが、刑事訴訟法はこれ以外に緊急逮捕を認めている。
[内田一郎・田口守一]
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合に、裁判官から逮捕状を得て、検察官、検察事務官または司法警察職員により行われる(刑事訴訟法199条1項)。ただし、被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重および態様などの諸般の事情に照らし、被疑者に逃亡のおそれがなく、かつ、証拠を隠滅するおそれがないなど明らかに逮捕の必要がないと認められるときには、逮捕状は発付されない(刑事訴訟規則142条の3)。また、一定の軽微犯罪については、被疑者が住居不定か捜査機関の出頭要求に応じない場合に限り逮捕が可能となる(刑事訴訟法199条1項但書)。
[田口守一]
現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者を現行犯人といい(同法212条1項)、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(同法213条)。現行犯逮捕は、嫌疑が明白であることから、令状主義の例外とされる。検察官、検察事務官および司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、ただちにこれを地方検察庁もしくは区検察庁の検察官または司法警察職員に引き渡さなければならない(同法214条)。司法巡査は、現行犯人を受け取ったときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。司法巡査は、犯人を受け取った場合には、逮捕者の氏名、住居および逮捕の事由を聴き取らなければならない。必要があるときは、逮捕者に対しともに官公署に行くことを求めることができる(同法215条)。
[内田一郎・田口守一]
検察官、検察事務官または司法警察職員は、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる(同法210条)。逮捕後は、ただちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは、ただちに被疑者を釈放しなければならない(同法210条)。憲法第33条は、令状主義の例外を現行犯逮捕のみと規定したので、緊急逮捕が憲法第33条に反しないかが問題となるが、学説・判例はこれを合憲と解している。
[内田一郎・田口守一]
逮捕後の手続については、時間の制限がある。(1)検察事務官または司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、ただちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない(刑事訴訟法202条)。(2)司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、または逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは、ただちに犯罪事実の要旨および弁護人を選任することができる旨を告げたうえ、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料する(考える)ときはただちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類および証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない(同法203条1項・2項)。
送致を受けた検察官は、弁解の機会を付与し、留置の必要がないときは、ただちに釈放し、留置の必要があると思料するときは、被疑者を受け取ったときから24時間以内に、裁判官に被疑者の勾留(こうりゅう)を請求しなければならない(同法205条1項)。この時間の制限は、被疑者が身体を拘束されたときから72時間を超えることはできない(同法205条2項)。すなわち、逮捕された被疑者は最大で3日間の身柄拘束を受けることになる。
緊急逮捕、現行犯逮捕についても、逮捕後の手続は、通常逮捕の場合と同様である。重大な本件について取り調べる目的で、まず軽い別件で逮捕・勾留しておいてもっぱら、または主として本件について取調べをするような、いわゆる別件逮捕は違法である。令状主義を潜脱することになるからである。
[内田一郎・田口守一]
刑事手続のために法律上許される人の身体の拘束をいう。日本国憲法33条は,〈何人も,現行犯として逮捕される場合を除いては,権限を有する司法官憲が発し,且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ,逮捕されない〉と規定している。したがって,現行犯でないかぎり,刑事手続で人の身体を拘束するには裁判官の令状(逮捕状,勾引状,勾留状など)が必要である(令状主義)。
狭義では,刑事訴訟法上の術語として,公訴提起前に被疑者の身体を一時的に拘束することを逮捕という。刑事訴訟法上の逮捕には,通常逮捕(刑事訴訟法199条以下),現行犯逮捕(212条以下),緊急逮捕(210条,211条)の3種類がある。通常逮捕は,捜査機関が,その請求により裁判官があらかじめ発した逮捕状により,被疑者を逮捕するものである。ただし,30万円(特別法犯の大部分については2万円)以下の罰金,拘留,科料にあたる罪については,被疑者が住所不定のとき,または正当な理由なしに捜査機関の任意出頭の要求に応じないときでなければ,逮捕できない。逮捕する際は,原則として逮捕状を被疑者に示さなければならない。現行犯逮捕は,現行犯人を令状なしに逮捕するものであり,一定条件のもとに,一般人もすることができる。緊急逮捕は,一定の緊急の場合に,とりあえず令状なしに逮捕して事後に逮捕状を得るということを認めるものだが,憲法上問題を含む。
逮捕した被疑者は,警察が逮捕したときは,警察に48時間,さらに検察庁に24時間,また,検察官・検察事務官が逮捕したときは検察庁に48時間,それぞれ留置できる。監獄(この場合は拘置所)もしくは代用監獄としての警察の留置場に留置することもできる。この制限時間は,身体拘束の瞬間から起算する。検察官がこの時間内に被疑者の勾留を請求するか公訴を提起するかしないかぎり,被疑者は釈放されなければならない。
日本の実務では,逮捕を捜査機関が被疑者を取り調べるためのものとみる傾向が強いが,これは,ヨーロッパ大陸諸国の伝統と,それにならった戦前の旧刑事訴訟法下の考え方を引き継いだものである。これに対して,英米法では,逮捕は裁判所が勾留を行うための引致手続であり,出頭確保のための手続であって取調べのための手続ではないとされている。日本でも,最近の学説では,後者のような考え方も強くなってきている。
なお,刑法上は,人の身体・行動の自由の拘束一般を逮捕といい,不法に人を逮捕した者は逮捕罪(刑法220条)に問われ,とくに,裁判,検察,警察の職にある者が職権を濫用して人を逮捕すれば,職権濫用による逮捕罪に問われる(194条,196条)。
→勾留 →別件逮捕
執筆者:平川 宗信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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