明確な心理的・社会的ストレス因子があり、そのストレスの始まりから1か月以内に情緒的症状や非社会的行為が現れ、社会的機能が著しく障害される精神疾患。ストレス因子には対人関係のほかに、仕事や勉強上の問題、事故や災害、住居移転など環境の変化などがあげられ、これらのストレス因子が引き金となって、家庭ばかりでなく学校や職場などでも不適応を起こす。しかし、うつ病などと違って、ストレスにさらされない環境では症状の改善がみられることも多い。適応障害はこうした不適応の結果として起こる精神疾患として定義され、アメリカ精神医学会のDSM-5(『精神障害の診断と統計の手引き 第5版』Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 5)では「トラウマとストレスに関する障害」という大カテゴリーに分類されている。
情緒的症状は、抑うつ気分、不安、苦悩、絶望、怒り、焦り、緊張などであり、日課や計画の遂行あるいは継続ができない場合などに感じることがある。また非社会的行為とは、無断欠勤および欠席や、過度の飲酒や摂食のほか、無謀な運転、けんか、破壊行為など社会的規範を無視するような攻撃的なものである。適応障害は、こうした症状や行為が個人に通常予測されるよりも強い苦痛を与え、もしくは社会的または職業的(あるいは学業上の)機能に著しい障害を与えている場合に診断されるが、大うつ病エピソードや統合失調症などほかの精神疾患の診断基準を満たす場合や、すでに存在している精神疾患の単なる悪化である場合は適応障害とは診断されない。また、ストレス因子には死別反応は含まれない。さらに、これらの症状はストレス因子が消失してから6か月以上続くことはなく改善される。
[編集部]
(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…この緊張や不安解消のため,防衛機制または適応機制と呼ばれる無意識的な心理機制が働くが,神経症はこの緊張や不安の処理が不適切なために発症すると考えられる。外的適応または内的適応がうまくいかない場合を適応障害または不適応と呼び,それには一過性の場合と持続的な場合,環境要因の強い場合と人格要因の強い場合とがある。適応異常をきたす原因は,(1)精神病,神経症などの疾患,(2)精神遅滞,性格異常などの欠陥状態,(3)状況による場合に大別される。…
※「適応障害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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