頭の鉢に手ぬぐいその他の布を巻く習俗。古くは抹額(まつこう)または末額(もこう)といったが,後世はもっぱら鉢巻と呼んでいる。手ぬぐいなどを細長く折りたたんで,頭の鉢に巻き,前額部で結ぶのを〈むこう鉢巻〉,後頭部で結ぶのを〈うしろ鉢巻〉といい,折りたたまずにしごいてよりをかけ,前額部にはさみ込むのを〈ねじり鉢巻〉という。きれで頭部を包むことは,もともと頭髪の乱れを防ぐために行ったものであろうが,やがて他人の面前ではこれが礼儀となり,ついには長く習俗となったもので,鉢巻の起源もこれにつながるものと考えられる。《源平盛衰記》に〈那須宗高,薄紅梅の鉢巻しめ……〉とあるように,鎌倉時代以降は,武士が軍陣に際して烏帽子(えぼし)の脱げ落ちるのを防ぐために鉢巻をしめたので,鉢巻は長く武装の一つと考えられていた。しかし民間には古来の風が伝えられ,《嬉遊笑覧》にも〈鉢巻は男女ともにふるきふり也(なり),田舎の女は木綿の単衣(ひとえ)なる物を帯したる上に著,鉢巻するを礼服とす〉と見える。江戸時代まで5月5日の端午の節供(せつく)に男児がショウブの葉の鉢巻をしたのも,上代の菖蒲鬘(あやめかずら)の遺風であった。また頭痛その他の病気や出産に際して,鉢巻をする習俗もごく近年まで広く各地で行われていた。現在はふつう労働の際にかぶる。
執筆者:宮本 馨太郎
鉢巻は単に労働のための身ごしらえとしてでなく,ハレの礼装としても用いられている。山口県見島では初宮参りの子どもが鉢巻をするし,伊豆の新島では神仏にもうでるときには〈ヒッシュ〉という6尺の赤手ぬぐいを二つ折りにして頭の脇で結ぶという。また伊豆の大島では婚礼の際,近親の婦人は盛装して紫ちりめんの5尺の鉢巻を結び垂れるという。このほか,伊豆の島々には,葬送に参列する女がみな鉢巻をする風習もある。また,祭りの日に神輿(みこし)をかつぐ子どもや若者が鉢巻をする風習は広く行われている。このように,鉢巻は神事に参加する資格をもったしるしやモノイミの状態にあることを表しているといえる。花嫁の角隠しも,ハレの鉢巻と同じ意味をもつものと考えられる。沖縄では神事や葬式の際に女性は鉢巻をする風習があるが,布の鉢巻のほか,ハブイといって植物の蔓や草花を頭に巻く例も多く知られている。これは《万葉集》などでうたわれている〈ハネカズラ〉の一種といえ,神事に携わる者のしるしであった。
執筆者:村下 重夫
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手拭(てぬぐい)かぶりの一種。頭の鉢に手拭などの布を巻く習俗。古くは抹額(まっこう)または末額(もこう)ともよんだ。『源平盛衰記(じょうすいき)』に那須与一(なすのよいち)が「薄紅梅の鉢巻しめ」とみえるように、鎌倉時代以降は、武士が軍陣に際して、精神を引き締めると同時に、烏帽子(えぼし)の脱げ落ちるのを防ぐために鉢巻を締めたので、鉢巻は長く武装の一種と考えられていた。江戸時代になると、額のところに金具をつけたり、内部に鎖を仕込んだ鉢巻もつくられている。これに対して庶民は、ありあわせの手拭を利用して鉢巻を行い、細長く折り畳んで頭に巻き、額のところで結ぶのを向こう鉢巻、後頭部で結ぶのを後ろ鉢巻といい、しごいて撚(よ)りをかけ、結ばずに額に挟み込むのをねじり鉢巻といった。このほか、鉢巻をする習俗は、ごく近年まで各地に行われていたが、たとえば、端午(たんご)の節供に男児がショウブの葉を鉢巻にしたり、頭痛その他の病気や出産に際して布の鉢巻をしたりした。またヒッシュ、アカテヌグイなどといって、伊豆諸島の婦人たちは儀式や神仏の参拝に際して、赤、紫、浅葱(あさぎ)などの六尺(約1.8メートル)の布を二つに折った鉢巻をした。これらの習俗は、いずれも鉢巻に一種の霊力を感じているといえよう。なお現在も祭礼、芸能、生産の場において、鉢巻は重要な意義をもっているといえる。
[宮本瑞夫]
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…普通の土蔵造は,柱の間に縦横に丸竹または細丸太を組み合わせ,木舞(こまい)をかき,これに縄をかけて泥土を塗り固めて芯の構造を作り,その外に泥を塗りさらにしっくいを塗って仕上げるものである。屋根との間も火がまわりやすいので,鉢巻と呼んで,段をつけたり,斜めの持出しにして壁を塗った。入口や窓には板戸の表裏に厚く壁土をつけた扉を釣り込み,入口にはさらに裏白(うらじろ)と呼ばれる表だけに壁土をつけた引戸と格子戸を設け,ふだんは扉は開け放しにして,裏白だけを引いて戸締りをした。…
…なお山口県の大島のように,子守たちどうしで遊び仲間をつくることもあった。子守が締める鉢巻のことは,新潟県でモリッコツツミ,山口県や福岡県の島々でモリコカツギと呼んでいる。 ところで伊豆諸島では,子守と子守をされた子どうし,および後者と子守の家族との間で擬制的親族関係が結ばれる。…
…婚礼にもかぶり物が重要視され,花嫁の角隠しは最も新しく,現代も用いられているが,それ以前に綿帽子や〈おかざき〉〈ふなぞこ〉〈かつぎ〉などがあって,かぶり方をやや変えるだけで,吉事にも凶事にも共用する。田植の手拭,宮まいり児の鉢巻,祭りのみこしかきの鉢巻,踊子の鉢巻も晴着のかぶり物で,参拝にも客前に出るにも,かぶり物をかぶるのが作法であった。つまり現代の脱帽の礼の中に,晴着の着帽の礼が残っているわけである。…
※「鉢巻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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