農業に就業する就農とは反対に、これから離れるのが離農である。以前の農業はおもに作物栽培や家畜飼育をさし、自給的家族経営が中心であったから、離農は生業である家族農業経営の労働力の他出を意味していた。しかし、今日では農業の範囲に、農業サービス(賃耕や病害虫防除)、農産物加工・流通、観光(たとえば体験農業)などが含まれ、さらに法人農業経営も存在しているから、就農や離農はこれらの分野に従事する労働力の異動全体をさすようになった。そして、他産業に就業する労働力が農村内に居住する場合の在村離農と他地域に移住する場合の離村離農に大別され、後者は農村人口の社会減に結び付いている。
[谷口信和]
離農は、農業側から労働力を押し出すプッシュ要因と農業外から労働力を吸引するプル要因の組合せで規定される。飢餓克服が主要課題である農業近代化の第一段階=農業就業者・農地面積増加局面では、人力・畜力を動力源とする生産力構造の下で農繁期の労働ピークにあわせて過剰労働力を抱え込むため、プッシュ要因は弱い。他方で、都市や都市工業による高い所得機会などのプル要因は弱く、農繁期=農業、農閑期=農産物加工農村工業という就業パターンが可能なため、離農は飢饉(ききん)による難民的流出を除けば零細経営の家族員や大経営の農業労働者層が中心である。近代化の起点たる土地改革を経ずに第一段階にとどまる多くの開発途上国では、都市への難民流出=スラム化が進行している。
重化学工業化の下で、食糧の栄養構成高度化が課題となる農業近代化の第二段階=農業就業者減少・農地面積停滞局面では、農工間所得格差拡大を背景として、標準的規模の農業経営からも労働力の離農が始まる。農地面積停滞により農業が就業人口を抱え込む基盤が縮小する一方でトラクター、電力を動力源とする部分的農業機械化により、プッシュ要因が徐々に形成され、工業基盤が都市に移り、プル要因が本格的に作用し始めるからである。
飽食への接近が問題となるような農業近代化の第三段階=農業就業者・農地面積減少局面では、都市部・農村部の第三次産業を中心とする非農業部門の肥大化によってプル要因が極大となる一方、全面的農業機械化の達成により、プッシュ要因が完成され、離農が加速化されることになる。ヨーロッパや日本などがこの段階に突入するのは1960年代以降であり、今日もこの傾向が続いている。
離農が農業の発展過程で進行すれば、離農跡地や離農後の家畜、畜舎、施設などの集中によって、残された農業経営の規模拡大につながるから、離農が一概に否定的な側面をもつわけではない。日本でも1990年代までは離農は主として小規模な農業経営から進展し、規模拡大に貢献してきた。しかし、21世紀に入るとともに、離農が大規模な農業経営においても進行するという新たな事態が生まれた。その背景には、農業が家業の継承ではなく、職業として選択されるようになってきたことがある。離農後の大規模な農業資源や生産手段を引き受けて規模拡大する農業経営が現れにくくなり、耕作放棄地や荒廃農場・施設の発生という新たな社会問題を引き起こしつつある。
[谷口信和]
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