九州中西部、長崎県の雲仙と熊本県の天草諸島(長島およびその属島は鹿児島県)の2地域にわたる国立公園。陸域面積282.79平方キロメートル。
雲仙地域は、1934年(昭和9)指定された日本最初の国立公園の一つで、島原半島中央部の雲仙温泉を中心として、それを取り巻く雲仙火山群の山岳美を観光の対象としている。雲仙温泉は、峯湯泉(みねのゆ)として古くから知られ、三十有余の噴気孔は、噴霧を高くあげる地獄の景観を呈し、古湯(ふるゆ)、新湯(しんゆ)、小地獄、別所(べっしょ)にホテル街を形成している。他方、江戸時代にはキリシタン弾圧のための地獄責めが行われた歴史をも有する。
雲仙火山群はその昔、山岳仏教の聖地として栄え、雲仙の名称も仏寺の山号に由来するが、古くは高来(たかく)峰とよばれ、温泉(うんぜん)岳とも書かれた。山腹一帯は普賢(ふげん)岳紅葉樹林として国指定天然記念物となり、秋の紅葉はみごとで、春は妙見(みょうけん)岳から宝原(ほうばる)にかけてのミヤマキリシマ(ツツジ科)の大群落は、赤紫色の花のじゅうたんを敷き詰めたような美観を呈し、冬は山頂部に霧氷の華(はな)が銀色に輝く。以上の景観は特別名勝に指定されている。
1956年(昭和31)編入された天草地域は、頼山陽(らいさんよう)が「雲耶山耶呉耶越(くもかやまかごかえつか)……」と吟じているように、西は天草灘(なだ)に臨み、さらにその西には東シナ海、中国大陸がある。雲仙地域が火山と温泉を中心とする公園であるのに対して、天草地域は海洋と島嶼(とうしょ)の公園である。観光の中心は、1966年開通し1967年公園地区に編入された天草五橋沿線で、天草の島々を結ぶ近代的橋梁(きょうりょう)と島嶼美は、天草パールライン(国道266号)とよばれる観光ルートを形成している。また、上(かみ)島と下(しも)島を結ぶ本渡(ほんど)瀬戸に架けられた天草瀬戸大橋も美観を呈する。天草は小西行長(こにしゆきなが)の領有以来キリシタンの島となり、島原・天草一揆(いっき)の発生地をなした大矢野島、湯島(談合(だんごう)島)とともに富岡(とみおか)城跡、本戸(ほんど)城跡(天草市)などの旧跡が多く、本戸城跡には天草切支丹(キリシタン)館や殉教公園がある。崎津天主堂、大江天主堂は昔ながらの畳敷きの教会である。また、富岡、牛深(うしぶか)は海洋美に恵まれた漁港。なお、富岡、牛深、天草に海域公園(1.16平方キロメートル)がある。
[石井泰義]
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