翻訳|demand
家計や企業が自発的意思に基づき,直接消費を目的とし,あるいは生産要素を調達する目的で市場より購入する財やサービスの量のこと。需要量に最も大きな影響を与える要因は取引される財の価格であるため,縦軸に価格をとり横軸に需要量をとった図に描かれる需要曲線によって,買手の価格に対する反応を表現するのが普通である。個別経済主体の需要曲線は集計されて市場需要曲線となる。市場需要曲線は市場供給曲線とともに,一商品の均衡価格の決定および社会的最適生産量などの問題を考えるうえで中心的な役割を果たす概念である。一般に個別需要曲線を導出するためには,家計消費需要については家計行動の理論,企業の投入要素に対する派生需要については企業行動の理論が用いられるが,企業行動の説明は〈供給〉の項に譲り,ここでは家計行動理論の大要を説明する。
消費主体としての家計は,経済的制約のもとに最も望ましい消費パターンを実現するよう合理的な行動をとると考えられる。経済的制約はpiを第i財の価格,xiを第i財の購入量,Yを所得,nを財の総数とすれば,という予算式に表すことができる。すなわち,家計はYだけの所得をもってn種類の財を買う計画を立てるのであるが,それぞれの財はこの予算式を満たす範囲内でなければ買うことができない。次に,消費パターンの望ましさについては,家計はn種類の財の消費の組合せの望ましさを計る効用関数u(x1,x2,……,xn)をもっていると仮定する。この効用関数は,(x1,x2,……,xn)のほうが(x1′,x2′,……,xn′)より好ましいと思われるとき,そのときに限ってu(x1,x2,……,xn)>u(x1′,x2′,……,xn′)となるような性質,すなわち序数的な性質さえ備えていればよい。家計の合理的行動とは,予算式を満たす(x1,x2,……,xn)の組合せのなかでu(x1,x2,……,xn)の値を最大にするものを選ぶということである。
予算制約下の効用最大化の条件から,pi/pj=ui/ujがすべてのi,jについて成り立たなければならない。ただしuiは効用関数のxiに関する偏微係数∂u/∂xiの値で第i財の限界効用を表し,ui/ujは第i財の消費を1単位増加させるとき,家計が同じ効用水準にとどまるために犠牲にしてもよいと思う第j財の量,すなわち第j財と第i財との限界代替率を表している。そうすると,家計の最適選択は価格比が限界代替率に等しいという上の関係式と予算制約式とからなる連立方程式の解として与えられる。したがって,この方程式体系中の定数はp1,p2,……,pnおよびYであるから,xiの最適購入量はxi=xi(p1,p2,……,pn,Y)のように解かれることになる。これが合理的な家計行動の結果として説明される第i財に対する需要である。この関数形から明らかなように,第i財に対する需要は一般にすべての財の価格および所得水準によって影響を受ける。先の需要曲線はこのうちとくにpiとxiとの関係をとり出して図式化したものであった。したがって,第i財以外の財の価格pjあるいは所得の変化の影響は需要曲線のシフトとして現れることになる。また,需要xiのpi,pjおよびYに関する感応度は(pi/xi)(∂xi/∂pi),(pj/xi)(∂xi/∂pj)および(Y/xi)(∂xi/∂pj)によって表され,それぞれ需要の価格弾力性,交差弾力性,および所得弾力性と呼ばれている(〈弾力性〉の項参照)。さらに,所得弾力性が正値をとる財は正常財,負値をとる財は下級財と定義され,交差弾力性が正となる2財は互いに代替財(厳密には粗代替財),負となる2財は互いに補完財(厳密には粗補完財)と呼ばれる。
なお,このほかに,財の全体的消費量が個別需要に正の効果を及ぼすバンドワゴン効果,負の効果を及ぼすスノッブ効果,さらに財価格が高いほど見せびらかす効果が強まり需要に正の影響を与えるというベブレン効果などが知られている。
執筆者:林 敏彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
個人や企業などの経済主体が、市場において交換・販売を目的として提供される財・サービスを購入しようとする行為。とくに貨幣などの購買力に裏づけされた需要を有効需要という。貨幣経済では、需要量は、提供される財・サービスの価格、購入しようとする経済主体の欲望の度合い、所得水準などに依存して決定されてくる。価格と需要量との関係から需要関数が得られ、一般には価格が上昇すると需要は減少する。
[鈴木博夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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