改訂新版 世界大百科事典 「非晶質固体」の意味・わかりやすい解説
非晶質固体 (ひしょうしつこたい)
amorphous
結晶の中では原子(または分子)は周期的に規則正しく(並進対称性)並んでいる。これに対して,原子の配置あるいは原子のつながりが大きく乱れた固体を,非晶質固体あるいはアモルファス固体という。またこのような状態を無定形状態という。われわれの身近にある非晶質固体の例は,窓や食器に使われているシリカガラス(SiO2)である。Si原子から結合の手が4本出てO原子とつながり,O原子は結合の手を2本もってSi原子とつながっているという事情は結晶SiO2(水晶)と変わらないが,全体としてのつながりの網目が大きく乱れて規則性がないのがシリカガラスである。シリカガラスは絶縁体であるが,最近は,アモルファス半導体,アモルファス金属が,基礎,応用の両面から大きな興味を集めている。これらの非晶質固体は,蒸着,スパッタリング,あるいは液体からの急冷などの方法によって作られる。その格子構造の特徴は,いずれもすぐ隣りどうしの原子の距離,数などは対応する結晶の場合とあまり変わらないが,大域的なつながりが乱れていることである。
非晶質固体の基礎的物性のうちで注目されるのは,低温(1K以下)での異常な熱的性質である。結晶の場合,格子振動が寄与する比熱は低温では温度の3乗に比例して変化する(デバイの比熱式)。非晶質固体の比熱は,1K以上では温度の3乗に比例して変化するが,1K以下では,変化のしかたがゆるやかになって温度に比例する比熱を示す。結晶と比べると異常なこの比熱は,非常に多くの種類の非晶質固体について見いだされており,絶縁体,半導体,金属などの結合の性質によらず,また,組成にもよらない。これに対応して,熱伝導にも異常が観測され,超音波吸収の強度依存性などから,非晶質固体の中には,きわめて普遍的に,位置的にもエネルギー的にも接近した二つの準位をもつ状態が多数存在しており,この準位の間はトンネル運動で移り変われると考えられている。このような状態の存在は,非晶質固体では構造の多様性があることによる(結晶では,構造は一義的に決まっている)。
電子の状態について,結晶の場合との大きな違いは,結晶の場合は構造の一様性から電子は容易に動きまわれるのに対し,非晶質固体では,構造の非一様性のため,電子は自由に動きまわることができず,局在(アンダーソン局在)してしまうことである。
応用の面では,太陽電池としてのよい性質が,アモルファスシリコン-水素について得られており,結晶シリコンより製作費がずっと安価なことから実用的な面での将来が期待されている。また非晶質金属は,磁気的な性質がヒステリシスを示さないこと,渦電流損失が小さいことのために,よい磁性材料として実用性が注目されている。
→結晶
執筆者:二宮 敏行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報