骨軟化症(読み)コツナンカショウ(英語表記)Osteomalacia

デジタル大辞泉 「骨軟化症」の意味・読み・例文・類語

こつなんか‐しょう〔コツナンクワシヤウ〕【骨軟化症】

骨の組織からカルシウムが減少して、骨がもろく軟らかくなり、骨格が変形する成人の病気。ビタミンDの欠乏による代謝異常が原因となるもので、妊婦などに起こりやすい。→佝僂病くるびょう

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精選版 日本国語大辞典 「骨軟化症」の意味・読み・例文・類語

こつなんか‐しょうコツナンクヮシャウ【骨軟化症】

  1. 〘 名詞 〙 妊婦、産褥(さんじょく)婦に多くみられるビタミンD欠乏、腎臓障害などによる慢性疾患。骨がもろく、柔らかく、曲がりやすくなり、骨格の変形をきたす。リウマチのような疼痛を伴う。発育期のものは、くる病と呼ばれる。
    1. [初出の実例]「富山県氷見郡に於ける骨軟化症に関し東京帝国大学医科大学教授医学博士木下正中の調査報告左の如し」(出典:風俗画報‐三五二号(1906)衛生門)

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六訂版 家庭医学大全科 「骨軟化症」の解説

骨軟化症
こつなんかしょう
Osteomalacia
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 骨や軟骨の石灰化障害により、類骨(るいこつ)(石灰化していない骨器質)が増加する病気で、骨成長後の成人に発症するものを「骨軟化症」といいます。これに対して、骨成長前の小児に発症するものを「くる病」(次項)といいます。

 骨軟化症やくる病では、類骨と石灰化した骨の全骨量は減少していないのに対して、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)では類骨の割合が正常で、全骨量が減少します。

原因は何か

 以前はビタミンDの欠乏が多くみられましたが、現在ではビタミンDの欠乏によるものはまれで、ビタミンD抵抗性くる病の成人型(家族性低リン酸血症性骨軟化症)が増加しています。

 主にビタミンDの作用不足によるものとして、胃切除後や胆汁(たんじゅう)分泌不全によるビタミンDの吸収不良などによるビタミンD欠乏、ビタミンDの活性化に必要な酵素が欠損している場合や慢性腎不全などによりビタミンDの活性化が障害されている場合、ビタミンD受容体の異常が原因でビタミンDに対する応答障害がある場合などがあります。

 ビタミンD抵抗性くる病の成人型では、腎尿細管におけるリンの再吸収障害が原因です。

 その他、骨や軟骨の腫瘍、がんなどが原因で骨軟化症が起こる場合もあります。

症状の現れ方

 初期にははっきりした症状を訴えることは少なく、腰背部痛、股関節・膝関節・足の漠然とした痛みや、骨が出ている骨盤・大腿骨・下腿骨などの圧痛(押して痛みが出ること)や叩打痛(こうだつう)ハンマーなどで叩くと痛みが出ること)がみられます。

 進行すると、下肢の筋力低下や臀筋(でんぶ)の筋力低下による歩行障害(あひる歩行)、脊椎(せきつい)骨折により脊柱(せきちゅう)の変形(後弯(こうわん)側弯(そくわん))などが現れます。

検査と診断

 単純X線写真では、脊椎椎体の骨萎縮や魚椎(ぎょつい)変形がみられます。その他、大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)、骨盤、肋骨などの骨表面に垂直に走る骨折線(()骨折、ルーサー帯)が特徴的です。

 血液検査では、ビタミンD欠乏性は血清カルシウム、リンの値が低く、アルカリホスファターゼという酵素も高くなります。一方、ビタミンD抵抗性くる病の成人型では血清カルシウムは正常で、リンは低下し、アルカリホスファターゼも高い値を示します。

治療の方法

 日光浴などの生活指導とともに、薬物療法として病気の状態に応じてビタミンD製剤を投与します。場合によってリン製剤の投与も必要です。定期的な血液・尿検査を行い、治療効果や副作用をチェックします。

 また、成人以降に残存する下肢の変形や低身長に対しては、骨矯正術や骨延長術などの手術療法を行います。

病気に気づいたらどうする

 前に述べたような症状がある場合、整形外科専門医を受診し、X線検査、血液・尿検査により診断を確定します。骨粗鬆症との鑑別が重要です。

朝妻 孝仁

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家庭医学館 「骨軟化症」の解説

こつなんかしょう【骨軟化症 Osteomalacia】

◎治療の原則はビタミンDの内服
[どんな病気か]
 骨は、コラーゲンと呼ばれるたんぱく質の網目(類骨(るいこつ)といいます)に、カルシウムやリンなどのミネラルが沈着(石灰化)して、かたい組織となっています。
 なんらかの原因によって骨の石灰化が障害され、やわらかい骨である類骨が増加した状態を、子どもではくる病(「くる病(子どもの骨軟化症)」)、おとなでは骨軟化症といいます。つまり、くる病と骨軟化症は、まったく同じ病気なのです。
 骨がもろくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(「骨粗鬆症」)では、骨量が減少するのに対して、骨軟化症は、石灰化していない部分、つまり類骨が増えてしまいます。
 類骨は石灰化が不十分なので、X線には映らず、まるで骨量が減ったように見えます。
[原因]
 類骨が石灰化して正常なかたい骨になるためには、カルシウムやリンのほかに、ビタミンDが必要です。
 骨軟化症の原因として、栄養分の欠乏性のもの(胃切除後が多い)、腫瘍(しゅよう)にともなうもの、先天性のもの、腎臓(じんぞう)や肝臓(かんぞう)の障害にともなうもの、抗けいれん薬や鉄剤の使用によるものなどがあります。
 欠乏性のものでは、カルシウムやリンの欠乏よりも、ビタミンDの欠乏によることが多くなっています。
 とくに胃を切除した後、ビタミンDの吸収が障害されておこる骨軟化症が増加しており、以前に比べて、純粋に栄養不良が原因となる骨軟化症は減っています。
 ビタミンDのはたらきが体内で活性化されるためには、腎臓や肝臓が十分機能することと、日光にあたることが重要です。ですから、腎臓や肝臓の病気があったり、長期間、日光にあたらない生活を続けていると、骨軟化症がおこることがあります。
[症状]
 子どもの場合は、低身長やO脚(オーきゃく)などが現われることが多く、成人してもそのままの症状が残ります。
 おとなが発病した場合は、初めは無症状のことが多いのですが、病気が進行すると、簡単に骨折したり、関節リウマチのような関節痛、腰背痛(ようはいつう)(腰や背中の痛み)などがおこってくることが多いようです。
 特徴的な症状としては、骨痛(こつつう)と呼ばれる大腿部(だいたいぶ)(太もも)などの疼痛(とうつう)のほか、筋力低下や脱力感があります。
[検査と診断]
 骨軟化症のX線検査では、骨改変層と呼ばれる、骨折と似た状態がみられるのが特徴です。ふつうの骨軟化症では骨の萎縮(いしゅく)がみられますが、生まれつき血中のリンが少ない低(てい)リン血症性骨(けっしょうせいこつ)くる症(しょう)で発症したおとなの症例(低リン血症性骨軟化症)では、むしろ骨の硬化がみられます。
 確実な診断をつけるには、骨の組織を顕微鏡で調べ、類骨が増えていることを証明する必要がありますが、通常は血液を調べて、カルシウムやリンの値の低下、アルカリホスファターゼ値の上昇およびX線検査の結果から診断します。
 骨軟化症の原因にはさまざまなものがあるので、腎臓や肝臓の検査のほか、生活習慣、服用している薬などを調べることがたいせつになります。
[治療]
 治療の原則は、ビタミンDの内服ですが、最近では、効き目の強い活性型のビタミンD製剤が使われています。
 どのような原因で骨軟化がおこっているかによって、ビタミンD製剤の投与量が異なります。
 欠乏性のものである場合は、アルファカルシドールを1日1.0μg(マイクログラム)(100万分の1g)使用します。低リン血症性骨軟化症では、もっとも大量に必要とし、アルファカルシドールを1日に3.0μg前後使用します。
 どのような場合であっても、血液中のカルシウム値やアルカリホスファターゼ値をみながら、高カルシウム血症などにならないように注意して、使用量が決定されます。

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改訂新版 世界大百科事典 「骨軟化症」の意味・わかりやすい解説

骨軟化症 (こつなんかしょう)
osteomalacia

この病気は骨組織へのカルシウムの沈着障害で,類骨(まだ石灰化していない骨基質)の割合が増して骨が弱くなる。発育期のものをくる病,成人のものを骨軟化症と呼び,両者は同一疾患である。しかし原因はいろいろあって,単一疾患でなく症候群である。ビタミンDの欠乏(食事中のビタミンD不足,日光不足,腸の吸収不全,ビタミンD代謝障害など),腎細尿管障害(リンの再吸収障害),ホスファターゼ(酵素)の欠損など,種々の原因による。体内にはいったビタミンD3は肝臓や腎臓で活性型となり,標的器官である小腸や骨で生理作用をあらわす。活性型ビタミンD3腸粘膜において,カルシウムを能動的に吸収すると考えられている。くる病では四肢,胸郭,脊椎の変形が主で,X線で骨端線の骨化障害があり,骨軟化症では腰背痛と湾曲が主で,X線では横に走る透明帯(骨改変層)が特徴的である。治療はビタミンD(D3)を用いる。
執筆者:

家畜ではウマ,ウシ,ヒツジおよびブタでその発生が知られている。摂取する飼料中のカルシウムまたはリンの不足,両者の比率の不均衡(正常1~2:1)およびビタミンD3の不足が本症の原因とされている。主要症状は骨と関節の痛みであり,跛行(はこう)を呈し,ウマでは巨頭症と呼ばれ,頭骨が腫大し,次いで骨折を起こす。また背の弓状湾曲もみられる。末期には起立不能となる。骨の灰分対有機物の比が低く,骨は軽く,類骨が沈着している。このためX線検査では骨の陰影の濃度が減少する。治療としては,カルシウムとリンの均衡を是正する。ビタミンD3の投与などと,ミネラルの適正給与が重要である。良質の牧草の給与がこれらのいずれの条件をも充足する。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「骨軟化症」の意味・わかりやすい解説

骨軟化症
こつなんかしょう
osteomalacia

骨形成に必要なカルシウム塩の沈着が妨げられて骨の中に類骨組織が過剰に存在する状態で、発育期にみられるものは、くる病とよばれる。くる病では、成長軟骨層の骨化不全が主であり、骨の長径成長が抑制されるほか、骨格全体が軟化して、内反股(こ)、O脚、X脚、脊椎(せきつい)変形などの骨格の彎曲(わんきょく)変形がおこる。成人の骨軟化症では骨質全体のミネラル沈着不足が主で、全身骨格のX線写真における陰影が薄くなるほか、骨改造層が現れる。

 古くからビタミンDの欠乏症として知られ、原因は食事によるビタミンDの摂取不足と、日光照射による体内でのビタミンD形成の不足であり、治療としてビタミンD剤の投与を行う。しかし、なかには普通量のビタミンD剤治療では反応しないビタミンD抵抗性のものもみられ、生理量の100倍以上を要する。なお、最近では先天性代謝異常や腎(じん)性のビタミンD代謝異常などによるものもみられ、胃切除後骨軟化症の報告もある。

[永井 隆]

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百科事典マイペディア 「骨軟化症」の意味・わかりやすい解説

骨軟化症【こつなんかしょう】

骨組織からカルシウム塩類が脱出して,骨が本来のかたさを失う病気。はなはだしい場合は骨格の著しい変形をきたす。原因についてはカルシウム沈着の代謝をうながすビタミンDの不足,あるいは不活性化で,肝障害,腎障害,胃切除後の慢性下痢などの他の病気によることが多い。また,先天的に腎臓のリン再吸収能力が低いために起こることも。発育期のものはくる病とよばれる。
→関連項目胃切除後症候群テタニー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「骨軟化症」の意味・わかりやすい解説

骨軟化症
こつなんかしょう
osteomalacia

骨軟化をおもな変化とする症候群で,これが成人に生じた場合をいう。骨組織へのカルシウム沈着障害のため,骨の中に類骨組織が過剰に形成される状態で,特に女性に多い。この状態が小児に生じた場合が佝僂病 (くるびょう) である。骨軟化症はビタミンD欠乏症,腎疾患,内分泌疾患,消化器疾患などが原因となる。下半身のリウマチ様疼痛から始って全身骨格に痛みを覚え,外力によって骨が変形する。病的骨折や筋力低下もある。まず原因疾患を明らかにしてその治療を行い,高単位のビタミンDを投与する。

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栄養・生化学辞典 「骨軟化症」の解説

骨軟化症

 骨の石灰化が異常で骨の強度が低下する疾患の総称.ビタミンD欠乏によるものが典型的.

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世界大百科事典(旧版)内の骨軟化症の言及

【イタイイタイ病】より

…富山県神通川流域の農村地区で,第2次世界大戦後の数年間を中心に,主として更年期以降の経産婦がかかったといわれる骨軟化症様の病気。全身の激痛を訴えることから,この病名が通称として用いられるようになった。…

【骨粗鬆症】より

…骨が粗になることをいうが,骨の化学的組成には異常がなく,単位容積当りの骨質量が減少した状態で,骨全体から骨髄腔などの孔を除いた骨の絶対量の減少といってもよい。骨軟化症は骨組織へのカルシウムの沈着障害であり,骨の絶対量は同じでも類骨(まだ石灰化していない骨基質)の割合が骨に比べて多いもので,骨粗鬆症とは基本的に違う。海綿骨では骨梁の数と幅の減少が生じ,皮質骨(緻密骨)ではその幅が狭くなるとともに海綿化が起こり,骨は粗になる。…

【ビタミン】より

…慢性腎不全患者にみられるビタミンDの欠乏状態は,腎臓における1α水酸化反応が低下し,活性型である1α,25‐(OH)2‐D3が合成されないためにみられるビタミンDの欠乏状態であるといわれている。ビタミンDの欠乏状態として,乳幼児ではくる病,成人では骨軟化症がみられ,軟骨の化骨障害または不全が特徴とされている。そのほかにも,発汗,顔面蒼白,運動障害,筋無力症状,肝脾腫などがみられる。…

※「骨軟化症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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