魚肉(読み)ギョニク

デジタル大辞泉 「魚肉」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐にく【魚肉】

魚の肉。「魚肉ソーセージ」
《相手の思うままに切り刻まれるものの意》生命や運命が相手の手の中にあること。
「人はまさに刀俎たうそたり、我は―たり、何ぞ辞することをせんや」〈太平記・二八〉

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精選版 日本国語大辞典 「魚肉」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐にく【魚肉】

〘名〙
① 魚の肉。魚の身。
※霊異記(810‐824)下「食物に於きては、〈略〉魚宍(ぎょにく)を食ふと雖も犯罪に非ず、魚化して経と成り、天感じて道を斉ふる」 〔春秋左伝‐昭公二〇年〕
② 魚と獣肉。
日葡辞書(1603‐04)「Guionicu(ギョニク)。ウヲ、シシムラ〈訳〉魚と肉」
③ (切り刻まれ思うままに料理される魚肉にたとえて) 自分の生命や運命が、相手の意志のままであること。また、斬殺されること。
本朝文粋(1060頃)二・意見十二箇条〈三善清行〉「縦使官符遅発、朝使緩行者、時善公廉、皆為魚肉也」 〔史記‐張儀伝〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「魚肉」の意味・わかりやすい解説

魚肉
ぎょにく

魚の可食部分で、とくに身の部分をいう。魚体の30~70%が魚肉で、主としてタンパク質を含み、タンパク質は筋肉繊維状になっている。魚肉タンパク質は、古くから日本での重要なタンパク質源で、また脂肪も多く含み、健康上重要な意味をもつ。

河野友美・山口米子]

種類

魚肉は大別して白身と赤身がある。白身は名前のとおり色の白い魚肉をさす。脂肪の少ないものが多く、一般に味は淡泊で、乳児の離乳期、消化器系の病人、食欲のない場合、成分的に肉などの制限されている人などの食事に利用される。白身魚は表層魚にはあまりなく、多くが海底や深みにいる底魚に多い。タイ、カレイ、タラなどが代表的なものである。これに対し赤身のものは、一般に脂肪分が多く、においも強いものが多い。赤みがかった色はミオグロビンによるものである。しかし、サケの赤い色はアスタキサンチンによるもので、カツオやマグロのような赤みとは異なる。また、魚肉の部位では、腹の周辺は脂肪分が多く、血合肉の部分にはミオグロビンが多く、色が濃いだけでなく、血液も多いため、生臭みが強い。しかし、鉄分は他の部分の2倍以上含まれる。

[河野友美・山口米子]

鮮度

魚肉は、魚の種類により、鮮度の変化に違いがある。一般に表層魚では鮮度の低下が早く、白身魚の場合は鮮度が長くもちやすい。魚肉の鮮度は、魚の死後、魚肉の硬直がおこり、やがてこの硬直が解けるが、この硬直している期間が鮮度がよいと考えてよい。魚の硬直の原因としては、魚の死後、魚肉中のグリコーゲンが分解されず、乳酸に変化し、これが魚肉のタンパク質を堅くするとともに、魚肉の筋肉繊維が収縮したまま戻らなくなることがあげられる。硬直が解けるのは、酵素作用が働き、タンパク質の分解がおこるためである。なお、魚肉の鮮度を測るのにK値が用いられる。魚肉の硬直が終わると、魚肉内の酵素によってタンパク質の分解が始まる。この分解過程において、硬直の原因物質であるアデノシン三リン酸から次のようにヒポキサンチンにまで順に変化する。

(1)アデノシン三リン酸(ATP)―→(2)アデノシン二リン酸(ADP)―→(3)アデノシン一リン酸(AMP)―→(4)イノシン酸IMP)―→(5)イノシン(HXR)―→(6)ヒポキサンチン(HX)
 鮮度のよい魚肉は(4)のイノシン酸までで、その後のイノシン、ヒポキサンチンができ始めると鮮度が下がり始める。そこで、(1)~(6)までの物質に対して(5)(6)の物質がどれくらい含まれているかを計算し、これをパーセントで表してK値として表す。すなわち、

 なお、刺身(さしみ)は、硬直状態が続いている期間が味がよく、K値では20%以下でないと味がよくない。また可食限界はK値60%である。

[河野友美・山口米子]

うま味

魚肉のうま味は、脂肪分とエキス分による。脂肪分は多いものほど口あたりがよい。マグロのとろなどがその例である。エキス分は魚肉では1~5%で、アミノ酸、グアニジン化合物、核酸系化合物などが味のなかでもうま味を感じる成分である。アミノ酸としては、ヒスチジングリシンが主体である。ヒスチジンはサバ、アジなどをはじめとして、カツオ、マグロなどいわゆる赤身の魚に多い。また淡水魚のコイやフナにも多い。白身のものではグリシンの多い傾向がある。魚肉の重要なうま味成分としてはグアニジン化合物としてのクレアチンクレアチニンがあり、とくに魚肉ではクレアチンが量的にも多く含まれている。核酸系化合物ではイノシン酸がある。ただしこれは、生きている魚にはほとんどなく、死後生ずるものである。

[河野友美・山口米子]

におい

鮮度のよい魚肉には不快なにおいはないが、魚により特有のにおいはある。鮮度の低下とともに不快なにおいが生じ、これが強くなると食用に堪えなくなる。魚肉の鮮度低下とともに出るにおいとしては、トリメチルアミンピペリジンおよびアンモニアがある。このほか、脂肪分の酸化臭も加わる。トリメチルアミンは海水魚独特の生臭みの成分で、魚が生きているときはトリメチルアミンオキサイドの形をしていて、生臭みはない。生臭みは細菌類による分解によって生ずる。サメ、エイなどでは魚肉中に尿素を含み、死後これが分解してアンモニア臭を生ずるとともに、舌を刺すような味も呈する。脂肪の酸化臭は、過酸化脂質とアミノ酸が反応してできる、いわゆる油焼けのにおいが出る。とくに多価不飽和脂肪酸を含む魚ほどこれが出やすい。

[河野友美・山口米子]

栄養

魚肉の栄養成分としては、タンパク質があげられる。とくにタンパク質はリジンを多く含み、穀物食を主体とした日本人にとって、たいせつなタンパク質源として長い歴史にわたって主要な食糧とされてきた。脂肪分ではエイコサペンタエン酸(EPA。国際標記はイコサペンタエン酸=IPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など、多価不飽和脂肪酸を多く含み、これが血液凝固を防止するため、血栓症の防止に役だつことが判明し、魚肉が脚光を浴びることになった。とくにIPAは、背の青いイワシ、サバ、マグロなどに多く含まれ、1980年代にイワシブームが生じた。魚肉に含まれている栄養成分としては、このほかビタミンA、B2、ナイアシンなどが多い。とくに血合肉は、普通の魚肉部分よりビタミンAが多い。また、イワシなど背の青い魚の魚肉にはナイアシンが多い。ビタミンAは、ウナギ、ハモなど魚体の長い魚の魚肉にとくに多く含まれる。

[河野友美・山口米子]

調理

魚肉は薄い食塩水に対して溶解する性質がある。これを利用して、すり身がつくられる。すり身は魚肉練り製品の主要な材料である。魚肉は、強い食塩で凝固変成する。塩でしめるとか、塩蔵するのは、これを利用したものである。また、食塩を加えることで、魚肉中の酵素の働きが弱まり、細菌の繁殖も抑えられるので、魚肉の保存法として利用されている。魚肉は、70~80℃程度でタンパク質の熱変性がおこる。加熱調理はこれを利用したものである。しかし、加熱が強く、また時間が長いと、筋肉繊維の収縮が強くおこり、堅い口あたりになる。食塩がともにあって加熱されると、短時間に熱変性がおこる。これを利用して魚肉をゆでたり、煮魚にするときなどは、調味液を沸騰させた中に入れる。焼き魚の表面に塩を強くふるのも同様である。これにより、魚肉の中のうま味成分が、表面の早く凝固したタンパク質に遮られて、液汁とともに出てしまうことが防がれる。

[河野友美・山口米子]

『竹内昌昭編『水産学シリーズ81 魚肉の栄養成分とその利用』(1990・恒星社厚生閣)』

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百科事典マイペディア 「魚肉」の意味・わかりやすい解説

魚肉【ぎょにく】

魚類に恵まれた日本ではタンパク質・ビタミン類の供給源として重要。獣肉に比し廉価であるがカルシウムに富み,栄養価値は獣肉に勝るとも劣らない。赤身肉と白身肉とがあり,淡水魚・底魚はほとんど白身肉である。赤身肉はカツオ・マグロなどの表層魚に多く,またサケ・マスも別種の赤身をもつ。血管の多く集まった血合(ちあい)肉は,赤黒くて生臭く,サバ・カツオなど活発に動く魚に多い。サメ・エイの類は尿素を含み,イワシ・サンマの類は不飽和脂肪酸を含む。新鮮な魚肉は刺身に適するが淡水魚には寄生虫が多いので生食は避ける。塩蔵・乾製品・缶詰等のほか,蒲鉾(かまぼこ)・竹輪など練製品の材料となる。

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普及版 字通 「魚肉」の読み・字形・画数・意味

【魚肉】ぎよにく

魚の身。

字通「魚」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「魚肉」の解説

魚肉

 魚の筋肉.

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