腹部にガスがたまり膨隆した状態をいう。腸管内に内容が停滞し発酵分解し多量のガスが発生することによって生ずる。自覚症状としては腹部膨満と腹痛がみられ,打診をすると腹部全体に高調な鼓音をきくことができる。腸管腔内にガスが充満した場合を腸性鼓腸と呼び,これに対して腸管外で腹膜腔内にガスが充満した場合を気腹あるいは腹膜性鼓腸と呼ぶ。両者はX線検査で容易に鑑別することができる。腸性鼓腸の状態は,(1)腹膜炎,外傷,開腹手術後,重症な伝染病,低カリウム血症,モルヒネ投与などにより腸運動の低下,腸管麻痺をひきおこしたとき,(2)腸管の狭窄,捻転,癒着等によりイレウス(腸閉塞)をひきおこしたとき,(3)便秘,結腸過長症等によりガスの通過障害がもたらされたとき,(4)腸炎等により腸内ガスの吸収障害をひきおこしたとき,(5)発酵しやすい食事をとり腸内ガス発生が亢進したとき,(6)空気嚥下の増加したとき,などにみられる。一方,腹膜性鼓腸は,胃潰瘍,十二指腸潰瘍等の穿孔(せんこう)によって空気が腹腔内にもれた場合にみられる。
執筆者:福富 久之
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腸管内あるいは腹腔(ふくくう)内にガスが異常にたまり、腹が張ってくることをいう。ガスが多くなると腹が膨れてきて俗にいう「タヌキの腹」のようになり、手をのせてその上を軽くたたく打診によりポンポンと鼓音が出る。腹腔内に液体がたまる腹水の場合は、打診によって重い濁音が聞こえるので容易に鑑別できる。鼓腸のおもな原因は腸閉塞(へいそく)や腸麻痺(まひ)であり、腸のガスが下部へ移送されないためにおこる。空気を異常に多く飲み込む人にみられる空気嚥下(えんげ)症も、代表的原因の一つである。ごく軽い鼓腸は、ガスの多く出る食物、たとえばサツマイモ、ゴボウなどを多く食べたり、便秘が強いときにもみられる。
[吉田 豊]
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