特定の時点における債券の利回り(金利)を償還までの残存期間(たとえば、1年、2年、5年、10年、20年、30年、40年)について線グラフで示したもの。国債の利回りを用いることが多く、横軸に残存期間を短い期間から長い期間の順に並べ、縦軸にそれらの期間に対応する利回りをとって、線グラフを描く。残存期間1年以内を短期、2~5年程度を中期、10年程度を長期、20~40年を超長期とよぶことが多い。
[白井さゆり 2016年12月12日]
国債の利回りには、「将来の短期金利に対する投資家の予想」と「タームプレミアム(期間プレミアム)」が反映されていると考えられている。タームプレミアムとは、短期国債と比べて長期国債を保有することでリスクが高まる(たとえば、債券価格の変動が大きくなりやすい)分だけ、投資家が要求する超過利回りをいう。なお、将来の短期金利に対する投資家の予想は、さらに「将来の実質短期金利に対する投資家の予想」と「予想インフレ率」に分けることができると考えられている。このうちの前者には、投資家による潜在成長率に対する予想も含まれている。
残存期間が長期になるほど、国債の利回りに対して、より遠い将来の実質短期金利の予想、長期の予想インフレ率、およびタームプレミアムが反映されることになる。このほか、特定の期間の国債を選好する投資家が存在しており、その投資動向も利回りに影響する。たとえば、年金基金や保険会社は負債が長期にわたるため、リスク管理上、その見合いで長期の国債などの資産を保有する傾向がある。こうした投資家の特定年限の選好が強ければ強いほど、長期の特定年限の国債利回りの低下として反映されるようになる。
リーマン・ショックと世界金融危機後の金融規制の強化により、銀行などの金融機関によってリスクが低いとみなされる国債の需要が世界的に高まる傾向があり、長期国債の利回りの低下に寄与していたとみられる。またヨーロッパ債務危機によってヨーロッパ諸国の国債格付けが相次いで引き下げられたことで、格付けの高い主要国の国債の数が減っている。このため、アメリカなど、経済大国でかつ格付けの高い国の国債への需要が高まり、こうした国々の長期の国債利回りの低下を促していた。
[白井さゆり 2016年12月12日]
金利の期間構造(タームストラクチャー)の分析では、残存期間の異なる利回りの差に注目する。残存期間の異なる利回りの差をイールドスプレッドという。長期の利回りが短期の利回りを上回る場合、イールドカーブの勾配(こうばい)は右上がりとなり、この状態を「順イールド」という。反対に、短期の利回りが長期の利回りを上回る場合、イールドカーブは右下がりとなり、この状態を「逆イールド」という。
「将来の短期金利や予想インフレ率が、現在の水準よりも上昇する」と投資家が予想している場合、長期国債の利回りは短期国債の利回りを上回るため、順イールドとなる。一般的には、順イールドの形状が平常な状態と考えられている。
[白井さゆり 2016年12月12日]
順イールドの形状については、さらに勾配がより急でイールドカーブが「スティープ(急勾配)化」する場合と、勾配がより緩やかで「フラット化」する場合がある。
前述のとおり、投資家の予想が「将来の経済成長が加速し、長期の予想インフレ率も高まっていく」というものであると、将来の短期金利予想も上昇するためイールドカーブはスティープ化する(1)。その一方で、投資家が「将来のインフレ率や長期金利が上昇してそれらの変動も大きくなる」と認識すれば、長期国債保有リスクが高まるためタームプレミアムが上昇する(2)。長期金利の上昇の原因が、(1)によるものなのか(2)によるものなのかを識別する統計的手法は、主要中央銀行や研究者などによっていくつか開発されている。しかし、その方法によって推計値のばらつきが大きく、かならずしも正確に区別できていないのが実情である。
一方、イールドカーブのフラット化は、投資家の予想が「将来の経済成長が減速し、予想インフレ率も低下する」というものである場合、あるいは中央銀行が景気過熱の懸念から短期金利を引き上げて抑制する場合などに、生じることが多い。
近年、主要国の国債のイールドカーブが極端にフラット化している点が注目されてきた。そもそもイールドカーブがフラット化する現象は、世界金融危機以前からみられていた。この原因については、潜在成長率(成長期待)の趨勢(すうせい)的低下、ならびに、多くの中央銀行による物価安定目標の採用とそれに基づく金融政策運営の定着が予想インフレ率の低下に寄与していることであるといった指摘がみられる。これに加えて、世界金融危機後に主要中央銀行が非伝統的政策のもとで国債などの資産を大量に買い入れるようになって以降は、イールドカーブは極端にフラット化するようになっている。これはとくに、日本やヨーロッパでみられる現象であるが、金融緩和の効果が表れている結果ともいえる。しかし、金利が下がったわりには消費や投資などの総需要が大きく刺激されて物価上昇率が高まるという傾向がみられないなかで、銀行や保険会社、年金基金などの機関投資家の収益力や財務基盤を悪化させているとの批判や懸念も強まっている。
2016年11月8日のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが予想外の勝利をおさめて以降、トランプが選挙キャンペーン中に主張してきたインフラ投資、大減税、規制緩和への期待からアメリカの長期金利が上昇し、イールドカーブがスティープ化した。ヨーロッパを始めとするほかの諸国の長期金利も、これにつられて上昇しスティープ化している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
出典 (株)外為どっとコムFX用語集について 情報
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