日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーナー商法」の意味・わかりやすい解説
オーナー商法
おーなーしょうほう
物品や権利を消費者に販売すると同時にその物品・権利を事業者が預かり、生産・運用・レンタル・管理・保管などの利殖の高さをうたって資金を集める商法。見かけ上は購入者が物品・権利のオーナーとなるため、こうよばれる。「販売預託商法」「現物まがい商法」「ペーパー商法」ともよばれる。物品・権利がまったく存在せず、運用しているかどうかも疑わしく、多数の消費者に巨額の損害をもたらす悪徳なケースも多い。貴金属、和牛・エビ・盆栽などの動植物、家庭用治療器具、ゴルフ会員権、語学習得のための施設の利用権などが利用されることが多い。飼育、栽培、運用などの事業を専門家に委ねているとして、購入者には一定期間預かり証のみしか交付せず、一定期間後、購入価格以上の利益を得られるとうたうことが多い。金地金の現物まがい商法であった豊田商事事件(事件の表面化は1985年、被害総額2000億円)、和牛オーナー制度をうたった安愚楽(あぐら)牧場事件(2011年、4200億円)、家庭用磁気商品への投資を募るジャパンライフ事件(2018年、2000億円)など、社会問題化する事件が後を絶たず、オーナー商法は消費者被害事件の温床となっており、日本では原則禁止された。
オーナー商法に対する法制度は、日本では長く未整備のままだった。豊田商事事件を機に、特定商品預託法(正称「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」昭和61年法律第62号)が制定されたが、貴金属、動植物、ゴルフ会員権など政令で指定した商品しか規制できず、次々に新たな商品を悪用する悪質なオーナー商法とのいたちごっこが続いてきた。この反省から2021年(令和3)、特定商品預託法を大幅に改正して商品の政令指定制を廃止し、原則、すべての商品についてオーナー商法の勧誘、広告、契約を禁止した。違反契約は無効となる。例外的に、オーナー商法を行うには、商品の種類ごと、契約ごとの2段階で消費者庁の事前確認を受ける必要がある。違反した場合、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科される。法人には5億円以下の罰金を科し、組織犯罪処罰法の対象とする。消費者庁は、2段階事前確認で物品の管理体制、利益提供の見込み、契約履行の経済的基盤などを審査することで、きわめて厳格な参入規制になると説明しているが、法曹界からは、オンライン取引等によるより巧妙な脱法的手口を警戒すべきだとの指摘が出ている。
[矢野 武 2021年11月17日]