翻訳|crater
クレーターとは惑星,衛星の表面にみられるほぼ円形のくぼみを示す地形のことである。これはギリシア語で容器,椀,椀状にくぼんだところなどを意味するkraterに由来する。惑星の地形をあらわす言葉としてこれを使った最初の人はG.ガリレイで,月の表面にみられる多くの丸いくぼみにこの言葉をあてた。
ガリレイ以後,月の表面に大小さまざまのクレーターがあることが明らかになったが,この成因については〈隕石孔〉とする説と〈火山爆発〉とする説の2説の間に長い論争が1960年代の初めまで続いた。しかしこの論争も宇宙船による月の探査が進み,月面の詳細な地図がつくられるようになり,実験室や野外での火薬の爆発によってつくられる孔や高速物体の衝突によってつくられる孔についての研究が進むにつれて,〈火山爆発〉説は姿を消した。現在では月をはじめとする多くの惑星,衛星にみられるクレーターの大多数は隕石の衝突によってつくられた孔であると考えられるようになった。惑星探査が進むにつれて,固体表面をもつ太陽系の惑星,衛星は例外なく月のクレーターと似たクレーターをもつことが明らかになってきた。クレーターの少ない惑星や衛星(例えば地球,金星,木星の衛星イオ)は,なんらかの浸食作用,火山作用によってクレーター地形が消えやすい環境にあると考えられる。
クレーターの形は直径が大きくなるにつれて,図1に示すように単純なおわん型のものから,平底型,中心丘型,多重リング型へと複雑な形のものへ移行する傾向がある。これはクレーターの形成機構と密接に関係していると考えられるが,詳細はまだ不明である。
クレーターの形成される様相は図2に模式的に示すような三つの段階に分けることができる。
現在の太陽系の惑星や衛星にみられるクレーターのうち最大のものは,月の〈オリエンタル盆地〉(東の海ともいう)で,直径が約1300kmある。水星の〈カロリス盆地〉と呼ばれるクレーター地形もほぼ同じ大きさである。火星の〈ヘラス盆地〉は直径が約1500kmあるが,その起源が本当にクレーターかどうかは不明である。木星の衛星カリストには〈バルハラ〉と呼ばれる多重リング型のクレーターがあるが,そのリングの外側の直径は約3000kmもあり,クレーター地形としては太陽系最大といえるかもしれない。
地球上にもクレーターは多数あったが,さまざまな地質活動によって大部分が消えてしまったと考えられている。地球のクレーターとして最も有名なものは,アメリカのアリゾナ州にあるバリンジャー隕石孔である。これは直径約1200m,深さ190mのおわん型のくぼみである。このように明瞭ではないが,地球上の地形で隕石孔によるものと考えられる地形(クレーターの化石といったもの)は,アストロブレムastroblem(星のつけた傷跡の意)と呼ばれる(図3)。統計的研究によれば直径1kmをこすようなクレーターをつくる能力のある隕石は,1400年に1個の頻度で地球に入射するといわれている。直径10km以上のクレーターとなると,その頻度は約100分の1になり,14万年に1度の確率になる。しかしこの頻度は時代と共に変化してきたと考えられ,地球誕生直後の40億~45億年前には現在の頻度の1000倍以上あったと考えられている。
クレーターの形成にともなう物理的・化学的諸過程は,惑星や衛星の歴史に大きな影響を与えてきたと考えられる。クレーターの形成は惑星,衛星の重要な地質作用のひとつである。
執筆者:水谷 仁
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英語では普通に火山の火口のことをさすが、日本語では月の表面などに多数みられる環形の地形のことをいう。1965年にアメリカの火星探査機マリナー4号によって火星上にクレーターが発見されるまでは、地球外の天体では月の上にしか存在が知られていなかったが、今日では太陽系内の多くの惑星、衛星の上にその存在が知られている。成因については、火山活動などによる内因説と、外部からの天体の衝突によるという外因説とがある。
[関口直甫]
…カルデラの大きさは,地球上では直径約2~数十kmである。月や火星や金星の表面には,もっと大きな,径200kmを超える円形くぼ地が存在しており,その多くは隕石が衝突してできた隕石孔(クレーター)であるが,火山活動によって生じたものも少なくない。それらはカルデラと呼ばれることもあるが,隕石孔と区別せずクレーターと呼ばれることが多い。…
…(3)による見かけの動きは1日周期のもので,主として東西方向のゆれである。
【月の表面】
[表面の模様]
月はあばた面といわれ,月の表面には大小さまざまなクレーターがある。いちばん大きなものは直径230kmもあり,直径1km以上のものは,月の表側だけでも30万個ある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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