フランスの劇作家。8月8日ルーアンに薬剤師の子として生まれる。パリで医学、哲学、法学を修め、シュルレアリスムとコミュニズムの洗礼を受け、ジャーナリストとして働きながら劇作に手を染め、まず前衛的な『パチューリ』が1930年にシャルル・デュランに取り上げられて劇界にデビューした。第二次世界大戦前には『アトラス・ホテル』(1931)、『自由な女』(1934)、『アラスの見知らぬ女』(1935)、これもデュランが上演して好評を得た傑作、ルネサンス期イタリアの教会改革者・狂信的独裁者の怪僧、サボナローラを主人公にした『地球は丸い』(1938)、それに喜劇『笑い話』(1939)など、さまざまなテーマと手法で、反写実のユニークな人間の条件のドラマを世に問うて気を吐いた。こうしてレジスタンスに材を得た『怒りの夜』(1946)や『ルノワール群島』(1947)を機として、戦後はいよいよ成熟した手つきで『神は知っていた』(1950)、『デュラン大通り』(1960)など、概して社会性の強い作品を発表、それを実存的な孤独感と融和させて健在を示したが、1960年代以降は第一線から遠のいた感が否めない。現代のフランス演劇界を代表する一人で、1949年来アカデミー・ゴンクール会員であった。
[渡辺 淳]
『鎌田博夫他訳『てすびす叢書第18 怒りの夜』(1953・未来社)』▽『鈴木力衛訳『神は知っていた』(『現代世界戯曲選集1 フランス編』所収・1953・白水社)』▽『岩瀬孝訳『地球は丸い』(『現代フランス戯曲選集 第1巻』所収・1960・白水社)』
フランスの劇作家。ジャーナリストとして出発し,1922年ころから戯曲を書き始めたが,デュランの後押しで上演された初期の作品は,ほとんど不評だった。最初の成功は30年の《自由な女》である。無意識的記憶のピランデロ的現象を活用した《アラスの見知らぬ女》(1935)では,当時としては新しい映画のフラッシュバックの手法を使って前衛作家と目された。38年デュランがアトリエ座で演出・主演した《地球は丸い》は,ルネサンス期イタリアの教会改革者サボナローラと一般民衆のそれぞれの時間を並列させるという手法で成功し,とくに主人公の狂信的独裁者の風貌にヒトラーの面影を投影させて話題となった。第2次大戦中のレジスタンスを描いた《怒りの夜》(1946),さらに風俗喜劇《ルノアール群島》(1947),社会劇《デュラン大通り》(1960)など,筋立てと会話の巧みな技巧派振りを発揮した。
執筆者:利光 哲夫
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