ジェノサイド(その他表記)genocide

翻訳|genocide

デジタル大辞泉 「ジェノサイド」の意味・読み・例文・類語

ジェノサイド(genocide)

ある人種民族を、計画的に絶滅させようとすること。集団殺害。集団殺戮さつりく

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精選版 日本国語大辞典 「ジェノサイド」の意味・読み・例文・類語

ジェノサイド

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] genocide ) 戦争が行なわれた場合、ある人種や民族を計画的に抹殺したり、その生活条件を剥奪したりする政策、行為。一九四四年、イギリスの法学者ラファエル=レムキンが、ナチスドイツのユダヤ人迫害に対して用いた言葉。集団殺害。皆殺し

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改訂新版 世界大百科事典 「ジェノサイド」の意味・わかりやすい解説

ジェノサイド
genocide

集団殺害を意味するが,語源ギリシア語のgenos種族)とラテン語caedes(殺戮)の合成語であることから,ある国家あるいは民族(人種)集団を計画的に破壊するという意味で用いられる。ジェノサイドという語は,ポーランド人法学者レムキンR.Lemkinにより《被占領ヨーロッパにおける枢軸国の支配Axis Rule in Occupied Europe》(1944)の中で,ナチス・ドイツによるユダヤ人やジプシー等の迫害に対する非難を込めた言葉として初めて使われた。

 第2次大戦中から連合国側はナチス・ドイツの残虐行為に対する処罰を唱え,1942年1月のロンドン亡命9ヵ国政府(ベルギーチェコスロバキア,フランス,ギリシア,ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ユーゴスラビア)による〈セント・ジェームス宣言〉は,その処罰を主要な戦争目的の一つに掲げた。その後,連合国戦争犯罪委員会の設立(1943年10月),モスクワ会談の際ローズベルト,チャーチル,スターリンにより署名された〈ドイツの残虐行為に関する宣言〉(1943年10月)等を経て,ヨーロッパ戦争犯罪人裁判に関するロンドン協定および付属〈国際軍事裁判所条例〉(1945年8月)によって枢軸国戦争犯罪人処罰の原則がつくられた。このロンドン協定では,国際軍事裁判所の管轄に属する犯罪として,(1)平和に対する罪,(2)戦争犯罪に加えて,(3)人道に対する罪をあげた。〈人道に対する罪〉とは,戦争前のまたは戦時中のすべての一般人民に対する殺人,殲滅(せんめつ),奴隷化,強制的移送およびその他の非人道的行為,もしくは政治的・人種的または宗教的理由に基づく迫害のことである(同条例6条)。人道に対する罪は,平和に対する罪および戦争犯罪の遂行として,またはこれに関連して行われたものであることが要件とされており,独立の犯罪行為としての性格は与えられていなかった。ニュルンベルク裁判では,訴因としては独立にあげられていたが,東京裁判では,訴因としても戦争犯罪と一括して取り扱われた。ニュルンベルク裁判では,〈戦争前の〉人道に対する罪は認められなかった。その後46年の第1回国連総会の議題として,レムキンの起草したジェノサイドに関する決議案が,キューバ,インド,パナマの提案で取り上げられ,総会決議96(I)(1946年11月)が採択された。決議は,ジェノサイドを国際法上の犯罪と述べるとともに,経済社会理事会に対して条約案起草のための研究を要請した。48年12月に国連総会は,〈集団殺害罪の防止および処罰に関する条約〉(通称,ジェノサイド条約)を採択した(1951年1月発効)。

ジェノサイド条約では,ジェノサイド(集団殺害)を,特定の国民的,人種的,民族的,宗教的集団を全部または一部破壊する意図をもって,(1)集団構成員を殺し,(2)重大な危害を加え,(3)肉体的破壊をもたらす生活条件を故意に課し,(4)集団内の出生防止措置を課し,(5)集団の児童を他の集団に強制的に移すこと,と規定している(2条)。平時または戦時のいずれを問わず,集団殺害は国際法上の犯罪とされ(1条),共同謀議,教唆,未遂,共犯も処罰される(3条)。行為者はその身分を問わず,行為地の国内裁判所または国際刑事裁判所により審理される(4,6条)。締約国は,犯罪者に有効な刑罰を科すための立法を行い(5条),集団殺害を政治犯罪とみなさず犯罪人引渡しを約束した(7条)。

 ジェノサイド条約は,ニュルンベルク裁判および東京裁判の判決で処罰された〈人道に対する罪〉の本質的な部分を条約化し,国際刑事裁判所による裁判を予定し,個人の国際犯罪を初めて実定法化したものである。しかし,国家機関とは無関係に私人によって集団殺害が行われるとは考えられず,行為地の国内裁判所では犯人が必ず処罰されるという保証はない。また現在まで国際刑事裁判所は設置されていない。54年に国連国際法委員会が作成した〈人類の平和と安全に対する犯罪についての法典草案〉は,ジェノサイドを〈人類の平和と安全に対する犯罪〉の一つとして列挙した。68年の国連総会で採択された〈戦争犯罪および人道に対する罪に対する法令上の時効不適用に関する条約〉では,集団殺害に関して,締約国刑法の時効が適用されないとされ,ナチス犯罪の処罰を永久に可能としている。
戦争犯罪
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジェノサイド」の意味・わかりやすい解説

ジェノサイド
genocide

民族国籍宗教人種を理由に,ある集団に属する人々を計画的かつ組織的に破壊すること。1944年にユダヤ系ポーランド人の法学者ラファエル・レムキンが,ギリシア語の genos(「人種」「種族」「民族」の意)とラテン語の cide(「殺戮」の意)からつくった合成語。ことばの起源は最近だが,ジェノサイド自体はおそらく歴史を通して行なわれてきたとみられる。実際,古代には戦争に勝った側が負けた側を皆殺しにするのは普通のことだった。13世紀のアルビジョア十字軍によるカタリ派大虐殺は,近世で最初のジェノサイドともいわれる。20世紀の出来事では,1915年のオスマン帝国によるアルメニア人虐殺,第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるホロコースト,1990年代のルワンダ大虐殺などがあげられる。
現代の国際法では,ジェノサイドは国際軍事裁判所憲章(ニュルンベルク憲章)で規定された「人道に対する罪」の一部となっている。国際軍事裁判によってナチスの残虐行為が明らかになったことを契機に,1946年12月の国連総会で,ジェノサイド罪が国際法のもとで処罰されうることを言明した決議が採択され,1948年12月,国際連合初の人権条約となる「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」が採択された。条約では,ジェノサイドの嫌疑をかけられた人間は国際的な刑事裁判所や行為地の国内裁判所で裁かれなければならないと規定されたが,続く 50年の間は効果的な執行制度を欠き,21世紀初頭まで恒久的な刑事裁判所は存在しなかった。1993年,ボスニア・ヘルツェゴビナが紛争(→ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争)におけるユーゴスラビア連邦共和国のジェノサイド条約違反を国際司法裁判所に提訴した。これをきっかけに,国際社会はジェノサイドと疑われる犯罪の訴追に取り組み,国連安全保障理事会旧ユーゴスラビア国際戦争犯罪法廷とルワンダ国際犯罪法廷を設置した。1998年,戦争犯罪やジェノサイドを審理・処罰する恒久的な国際機関として国際刑事裁判所 ICCを設立する条約「国際刑事裁判所に関するローマ規程」が 120ヵ国の賛成により採択され,2002年7月1日に発効した。
一方で,ジェノサイドの防止という課題は残されている。防止策を議論するうえで,戦争犯罪とジェノサイドの区別は重要となる。戦争犯罪の場合,あらゆる民間人が標的となりうるが,ジェノサイドでは人種,国籍,民族,宗教などの属性によって特定される。また,戦争犯罪の場合には戦争が終結すれば追加の防止策は必要ないが,ジェノサイドの場合には紛争終結後も標的となる集団の生存を確保するための対策を講じる必要がある。(→民族浄化

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デジタル大辞泉プラス 「ジェノサイド」の解説

ジェノサイド〔小説〕

高野和明のSF推理小説。2011年刊行。同年、第2回山田風太郎賞受賞。翌2012年、第65回日本推理作家協会賞、このミステリーがすごい!第1位、第9回本屋大賞第2位など、数々の賞を受賞。

ジェノサイド〔演劇〕

日本の演劇作品。1984年11月、川村毅の作・演出により、アートシアター新宿文化にて劇団第三エロチカが初演。

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世界大百科事典(旧版)内のジェノサイドの言及

【戦争犯罪】より

…なお,〈人道に対する罪〉は戦後作成された諸条約によりいっそう一般化されるようになった。集団殺害(ジェノサイド)は,平時・戦時を問わず,国際法上の犯罪とみなされ(1948年〈集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約〉1条),さらに〈武力攻撃または占領による追立て〉および〈アパルトヘイト政策に基づく非人道的行為〉(1973年の〈アパルトヘイト罪の鎮圧及び処罰に関する国際条約〉1条)も人道に対する罪に含まれるに至っている。 通例の戦争犯罪についても,1949年ジュネーブ諸条約(赤十字条約)は次のような〈重大な違反行為〉を列挙した。…

※「ジェノサイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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