世界的に有名なアメリカの代表的高級紙。『ニューヨーク・トリビューン』紙で活躍したレイモンドHenry Jarvis Raymond(1820―1869)が銀行家のジョーンズGeorge Jonesらと共同で、安価で良質な新聞をつくることを目的とし、1851年9月18日、1部1セント、4ページの『ニューヨーク・デーリー・タイムズ』を発刊。編集を担当したレイモンドは、保守的ながら正確で均衡のとれたニュース(とくに外国ニュース)を読者に提供した。『ニューヨーク・タイムズ』と改題したのは1857年。1870年には、腐敗したニューヨーク市政を紙面で鋭く攻撃し、同紙に対する読者の信用を一段と高めた。しかしピュリッツァーやハーストのイエロー・ジャーナリズムの隆盛に影響を受け、しだいに不振となり、1891年破産の危機に瀕(ひん)した。その後、1896年オックスAdolph S. Ochs(1858―1935)が買収し、「印刷に値するすべてのニュースを」というスローガンを掲げてさまざまな紙面改革を行い、1898年には、値上げされて3セントになっていた同紙をふたたび1セントに値下げするなどした結果、発行部数はわずか3年のうちに2万5000部から10万部に増えた。
1904年にカール・バン・アンダCarr Van Anda(1864―1945)を編集局長に迎えると、同紙の紙面はいっそう充実したものとなった。1935年オックスの死去により、彼の女婿サルツバーガーArthur Hays Sulzberger(1891―1968)が経営を引き継いだ(1963年以降は息子のアーサー・オックス・サルツバーガーArthur Ochs Sulzbergerが、1992年以降はさらにその息子のアーサー・オックス・サルツバーガー・ジュニアArthur Ochs Sulzberger Jr.が後継)。1971年6月、アメリカ国防総省のベトナム秘密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手した同紙は、その大筋を特集、報道した。このスクープをめぐって政府が掲載中止を申し入れたことから、アメリカ連邦最高裁判所での審理へ持ち込まれたが、『ニューヨーク・タイムズ』紙が勝利した。これは報道の自由の点で、アメリカ新聞史上特筆されるべき事件となった(ペンタゴン・ペーパーズ暴露事件)。2002年には、これまで『ワシントン・ポスト』と共同で発行していた『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』を完全に買い取ったほか、『ニューヨーク・タイムズ』紙面の本格的なカラー化を進め、これまで伝統と格式を重んじてきた同紙も、積極的な事業展開をみせている。紙面の特徴としては、国際報道が質・量とも他の新聞にぬきんでていることが第一にあげられる。また本紙の最後の見開き2ページを使ったオピニオン欄では、社説、オプ・エド(Opposite the Editorial Page)とよばれる論説コラムや投稿が並び、保守からリベラルまでバランスがとれている。これらの意見はアメリカ社会に大きな影響を与えているといわれている。さらに書評や劇評なども人気が高い。2006年から2009年にかけて他のアメリカの新聞と同様に広告収入の不振から、大幅なコスト削減が行われている。2007年に新社屋に移転したものの、資金繰りから2009年にこれを投資家へ売却するなど財政再建の施策が行われている。発行部数92万8000部(2009)。
[鈴木ケイ・木村綾子]
『R・アドラー著、山本晶訳『ニューヨーク・タイムズの一日』(1973・平凡社)』▽『ゲイ・タリーズ著、橋本直訳『王国と権力――ニューヨーク・タイムズをつくった人々』上下(1991・早川書房)』▽『ハリソン・E・ソールズベリー著、小川水路訳『メディアの戦場――ニューヨーク・タイムズと記者ニール・シーハンたちの物語』(1992・集英社)』▽『三輪裕範著『ニューヨーク・タイムズ物語――紙面にみる多様性とバランス感覚』(中公新書)』
アメリカの日刊紙。高級紙として知られる。《ニューヨーク・トリビューン》紙の記者だったレーモンドHenry J.Raymondが2人の銀行家ジョーンズGeorge Jones,ウェスリーEdward B.Westleyと計画,1851年9月18日に《ニューヨーク・デーリー・タイムズ》の題号で創刊した(1857年,現行の題号に改称)。資本金10万ドル,4ページ建てで定価も安く1セントであった。センセーショナルなペニー・ペーパーではなく〈品のいい〉新聞をめざし,H.グリーリーの《ニューヨーク・トリビューン》の急進的な論調に反対する新聞として出発した。創刊10週後に部数は2万台にのぼったが,出費も多く,8ページ建て,2セントに値上げした。55年1月には3万6000部となり《ニューヨーク・トリビューン》と拮抗する有力紙となった。しかし,南北戦争後,共和党全国委員会議長を務めていたレーモンドが南部への寛大な処置を説いて多くの読者を失い,彼が死ぬ69年前後から世紀末にかけて《ワールド》《ニューヨーク・ジャーナル》など新興大衆紙に押されて,紙勢は下降線をたどり,93年には毎週の赤字は2500ドルを超え,部数は9000台にまで落ちた。
1896年オックスAdolph S.Ochsが経営・編集をまかされ,〈印刷に値するすべてのニュース〉をスローガンに,取材網を拡大整備するとともに,〈教養〉ある読者層対象に日曜版に力を入れ,大衆紙の手法をとり入れながら,〈上品〉に記事を提示するスタイルをつくり上げた。世紀の変り目に,部数は8万台に伸び,正確な情報量の多い高級紙として定着した。第1次大戦にはその取材網を動員して国際社会におけるアメリカの威信の高まりとともに,国際的に注目される新聞となった。部数は1913年には約24万2000(日曜版15万8000)だったのに対して,18年には35万2000(日曜版48万6000)に急成長し,第1次大戦後24ページから40ページに増やして,記事にも広告にも膨大なスペースをもつ新聞への第一歩を踏み出した。35年オックスの死後,娘婿のサルズバーガーArthur Hays Sulzbergerが後を継ぎ,30年代から第2次大戦後にかけての《ニューヨーク・トリビューン》との競争に勝ち,アメリカの代表的な高級紙となった。ベトナム戦争中の国防総省秘密文書暴露報道(ペンタゴン・ペーパーズ事件)に先鞭をつけ,新しいジャーナリズムのあり方を領導するなど,その活力はまだ衰えていない。81年から衛星を使ったファクシミリ送信によりこれまでアメリカになかった全国版を発行し始めた。1993年6月,同紙と同じくらい伝統のある《ボストン・グローブ》(1872創立)を買収,話題になった。現在の部数は100万を少し超える程度といわれている。
執筆者:香内 三郎
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ニューヨークで刊行される新聞。質の高い報道と論説で定評があり,世界的にも注目される。そのような地位は,1896年に潰れかけていた新聞を買収して,「正確で品位があり信頼される新聞」をめざしたアドルフ・サイモン・オックスの信念と経営手腕によるところが大きい。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…1876年ノックスビルの《トリビューン》紙の印刷工となり,次いでチャタヌーガの《ディスパッチ》紙の編集に転じ,78年同市の《タイムズ》紙の経営に参加。地方紙経営者として大成功を収めたが,96年衰勢にあった《ニューヨーク・タイムズ》の経営をまかされ,同紙を保守的な高級紙として再建し,今日の基礎を築いた。【香内 三郎】。…
… 現代においてジャーナリズムの批判機能がもっともみごとに発揮されたのは,アメリカのベトナム戦争秘密文書公開とウォーターゲート事件であり,また日本の田中角栄首相の土地ころがし暴露であった。国防総省文書Pentagon Papers事件と呼ばれる第1の事件は,ベトナム戦争の経過の全容について国防総省が調査機関につくらせた膨大な報告書を《ニューヨーク・タイムズ》が紙面に掲載しはじめ,政府が裁判所に記事掲載差止めを提訴しているあいだに《ワシントン・ポスト》などの新聞もこの報告書を入手して,この宣戦布告なき参戦をいっせいに点検したことにはじまる事件である。言論の自由をさだめた憲法修正第1条に照らして新聞の文書公開は正当と判決され,各紙の記事がやがてアメリカ軍のベトナム撤兵つまり戦争終結を実現させた。…
…1932年イリノイ大学を卒業後,オハイオ州でジャーナリズム関係の仕事につくが,34年AP通信社に入社。ロンドン支局勤務を経て,39年には《ニューヨーク・タイムズ》に移る。ロンドン支局長の時代に,イギリス市民の平静な戦中生活に感銘を受け,41年ワシントン支局(1946年支局長)に移ると,戦時情報局(QWI)の設置に協力した。…
※「ニューヨークタイムズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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