歌舞伎作者。4世まである。初世がもっとも有名。(1)初世(1747-1808・延享4-文化5) 号は並木舎,浅草堂。大坂道修町の役木戸(やくきど)和泉屋の子。初世並木正三(一説では並木十輔)に入門し,1768年(明和5)ごろから並木五八(のち吾八,呉八)の名で浜芝居の作者を勤める。72年に大芝居に進出,77年(安永6)に五兵衛と改める。この前後,嵐雛助のために《天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)》《金門五山(三)桐(きんもんごさんのきり)》など傑作を書き,大坂劇壇随一の人気作者となる。以後,浅尾為十郎のために《けいせい倭荘子(やまとそうじ)》,4世市川団蔵のために《思花街容性(おもわくくるわかたぎ)》などを書き続け,上方における地位を不動のものにする。93年(寛政5)に五瓶と改め,翌94年3世沢村宗十郎の推薦で江戸に下り,3世瀬川菊之丞一座の立作者となる。この下りに際し,座頭役者に準ずる300両の下し金(契約金)をとった。翌春《江戸砂子慶曾我(えどすなごきちれいそが)》の二番目に大坂での旧作《島廻戯聞書(しまめぐりうそのききがき)》の一部《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》を出し大当りを取る。この当りによって翌春から,五瓶の曾我二番目の世話狂言は江戸の古式を破り別名題をたてることになり,《隅田春妓女容性(すだのはるげいしやかたぎ)》《富岡恋山開(とみがおかこいのやまびらき)》などを書く。99年に一時帰坂したが,再び江戸にもどり死ぬ。作者としての最盛期は大坂時代で,並木正三以来の伝統にのっとり,伝奇性の強いスケールの大きな構想を持つ。その一方で,演技の様式化に適応するために,型から逸脱するような冗漫な描写を嫌い,簡潔な表現を用いている。江戸に下ってからは,旧作のなかから伝奇性の強いものを除き,わずかに手を入れる程度でしかなかったが,皮肉にもそれが五瓶の筆名を高からしめる結果となった。なお江戸座の俳諧を好み《俳諧通言(はいかいつうげん)》を書いた。(2)2世(1768-1819・明和5-文政2) 篠田金治の後名。役者評判記の編者,七文舎鬼笑である。(3)3世(1789-1855・寛政1-安政2) 号は並木舎。2世の門人で篠田惣六,2世篠田金治を経て1833年(天保4)に五瓶をつぐ。《勧進帳(かんじんちよう)》に名を残す。(4)4世(1829-1901・文政12-明治34) 3世の子。本名並木善次郎。1892年に並木五柳を名のるとともに,並木五瓶と称した。
執筆者:古井戸 秀夫
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歌舞伎(かぶき)作者。4世まである。
(1747―1808)大坂・道修(どしょう)町で劇場関係の仕事をしていた和泉屋(いずみや)の子として生まれる。並木正三(しょうざ)に入門し、並木吾八(五八)の名で浜芝居で修業し大芝居に進出。1777年(安永6)に並木五兵衛と改名、奈河亀輔(ながわかめすけ)とともに人気作者となる。『天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)』『金門五三桐(きんもんごさんのきり)』『けいせい倭荘子(やまとそうじ)』『思花街客性(おもわくくるわかたぎ)』などの傑作を書く。1793年(寛政5)に五瓶と改名。翌年3世沢村宗十郎(さわむらそうじゅうろう)の推薦で300両という破格の契約金をとって江戸に下る。大坂での旧作を江戸風に脚色し喝采(かっさい)を浴び、『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)』のほか『隅田春妓女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)』『富岡恋山開(とみがおかこいのやまびらき)』と江戸の古式を破り、曽我(そが)二番目の世話狂言に別名題(なだい)をたてて当りをとった。一時帰坂するが江戸で没する。作者としての最盛期は大坂時代にあり、伝奇性の強いスケールの大きな枠組みと贅肉(ぜいにく)を切り落とした文体が共存している点が特色。その簡潔な文体が江戸で新鮮な魅力を発揮し、江戸生まれの初世桜田治助(さくらだじすけ)と並び称された。また江戸座の俳諧師(はいかいし)として『俳諧通言(つうげん)』を残す。
[古井戸秀夫]
(1768―1819)江戸の旗本野々山大膳(ののやまだいぜん)の子。初世の門人。前名篠田金治(しのだきんじ)。上方(かみがた)で修業し、江戸で福森久助の助筆をしたあと1818年(文政1)に襲名するが翌年没した。清元(きよもと)『保名(やすな)』の作詞がある。式亭三馬にも師事し葛葉山人(かつようさんじん)などの名で合巻(ごうかん)等も書いた。
[古井戸秀夫]
(1790―1855)2世の門人2世篠田金治が1833年(天保4)に襲名。『勧進帳(かんじんちょう)』の作者として名を残す。3世の子並木五柳が4世を併称した。
[古井戸秀夫]
(北川博子)
(北川博子)
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1747~1808.2.2
歌舞伎作者。大坂生れ。初世並木正三(一説に並木十輔)門下。前名五八(吾八)・五兵衛ほか。号並木舎(なみきのや)・浅草堂。安永期から大坂で名声をあげ,1794年(寛政6)以後,江戸で活躍。大坂時代は「金門五三桐(きんもんごさんのきり)」など伝奇的で壮大な構想の時代物に傑作が多く,江戸に下ってからは,「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」など,旧作を江戸むきに書きなおした世話物の名作を残した。緻密な構成や人物の首尾一貫した性格描写など,合理的・写実的な作風で知られる。五瓶は4世まであって2世(1768~1819)は初世の門人篠田金治が晩年に襲名。3世(1790~1855)は2世の門人で「勧進帳」の作者として著名。4世(1829~1901)は3世の子。
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…配役は薩摩源五兵衛実は不破数右衛門・家主弥助を5世松本幸四郎,船頭笹野屋三五郎を7世市川団十郎,芸者妲妃の小万を2世岩井粂三郎(のちの6世岩井半四郎)など。題材は1737年(元文2)に大坂曾根崎で起きた薩摩藩士の5人斬り事件で,初世並木五瓶が94年(寛政6)に書いた《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》と,これを本人が改作した《略三五大切(かきなおしてさんごたいせつ)》とを基にした書替えである。《東海道四谷怪談》の次の興行なので,その後日譚とし,同様に《忠臣蔵》に関係づけた。…
…通称《唐人殺し》。初世並木五瓶作。1789年(寛政1)7月大坂中山福蔵座(角の芝居)で初演。…
…6幕。初世並木五瓶作。通称《蝶の道行》。…
…3幕。初世並木五瓶作。1794年(寛政6)2月大坂中山与三郎座(中の芝居)初演《島廻戯聞書(しまめぐりうそのききがき)》の三つ目以下を独立させたもの。…
…歌舞伎十八番の一つ。3世並木五瓶作,4世杵屋(きねや)六三郎作曲,4世西川扇蔵振付。1840年(天保11)3月江戸河原崎座初演。…
…三番目,四番目は,後日に特に幕を継ぎ足す場合にのみ用いられた。寛政以後,並木五瓶が二番目を独立させて別の名題をつけることを始めて以来,一番目と二番目とを別々の狂言とすることも行われ,一番目を時代物,二番目を世話物というようになった。明治以後時代の変化に応じて狂言の種類が複雑になり,東京では一番目,中幕,二番目,大切(おおぎり)という,並列式の狂言立てが行われるようになった。…
…江戸の文化全般が,〈天明調〉からしだいに移り変わろうとしていた。これを象徴的に物語るのが,上方作者初世並木五瓶(ごへい)の江戸下りである。五瓶は生粋の上方作者で,写生的・合理的な構成,テンポのある筋の運び,人物の性格描写などに作風の特色を持っていた。…
…1778年(安永7)4月大坂小川吉太郎座(角の芝居)で初演。初世並木五瓶(当時五兵衛)作。1800年(寛政12)江戸で初演の際《楼門五山桐(さんもんごさんのきり)》と改題。…
…通称《梅の由兵衛》。並木五瓶作。1796年(寛政8)1月江戸桐座初演。…
…(2)2代(1786(天明6)‐?) 旗本野々山大膳の次男。放蕩の末,狂言作者の初世並木五瓶(ごへい)に入門して篠田金治を経て2世五瓶を襲名。落語では音曲の分野で活躍し扇蔵(せんぞう)から扇橋となった。…
…外題脇に記す,菅原道真の〈八百七十五年忌〉に当たる1777年(安永6)4月,大坂小川吉太郎座(角の芝居)初演。並木五瓶,中邑阿契,辰岡万作ほかの作。配役は菅丞相・武部源蔵を初世尾上菊五郎,伯母覚寿・左大臣時平を初世嵐雛助,土師ノ兵衛・白太夫・法性坊・紀ノ長谷雄を初世三枡大五郎,宿禰太郎・舎人造酒王丸を小川吉太郎,松月尼・腰元十六夜・源蔵女房戸浪を初世沢村国太郎,斎世親王を沢村千鳥,判官代輝国を藤川柳蔵,蘭の中将・春藤玄蕃を三枡松五郎,三善清貫・白太夫伜荒藤太を2世三枡他人,左中弁希世を坂東岩五郎,白太夫娘小磯・紅梅姫を山科甚吉,宿禰女房小桜・長谷雄女房渚を初世三枡徳治郎,菅秀才を尾上丑之助など。…
…通称《二人(ににん)新兵衛》。初世並木五瓶作。1798年(寛政10)正月,《着衣始小袖曾我(きそはじめこそでそが)》の二番目世話狂言として江戸桐座で初演。…
※「並木五瓶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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