キリスト教の教義の要点を簡潔に述べた定式。〈信経〉,〈クレド〉(“われ信ず”のラテン語credoより)とも呼ぶ。聖書はキリスト教の教義を述べた文献ではない。それどころか三位一体論とキリスト論を根幹とするキリスト教の教義は古代教会の時代に少しずつ形成されたもので,その過程がさまざまの信条に反映されている。ローマ帝国の迫害にさらされた時代に洗礼志願者は自己の信仰を簡潔な形で公言したのち初めて洗礼を授けられ,教団への参加が許された。その際に用いられた定式が信条のおこりで,これを〈洗礼用信条〉と呼ぶ。洗礼用信条は各地の教会によってさまざまの定式が作られていた。次に,教義論争がさかんに行われた古代教会では,各派がその教説を信条に盛りこんだ。したがってこの時代には信条が各教派の信奉者のあいだのいわば〈合言葉〉の役割を果たした。第1ニカエア公会議(325)は,アリウスの教えを異端としたが,その決議は信条の形でまとめられ,父なる神と子なるキリストの関係を明示する〈ホモウシオス(同一実体)〉なる一語が信条に挿入され,さらにその信条に,異端の教説を奉じる者への4ヵ条のアナテマ(呪詛,破門宣告)が付加された。これが〈ニカエア信条〉であるが,ふつうこの名で知られ,東西両教会で現在なお用いるのは,元来の〈ニカエア信条〉をさらに整備した〈ニカエア・コンスタンティノポリス信条〉である。ニカエア公会議ののちもアリウス派論争が続き,多数の信条が作成された。エフェソス公会議(431)は新たな信条の作成と修正を禁じた。したがってキリストの両性を定めた〈カルケドン信条〉(451)は,厳密には信条ではなく,〈決定〉である。
信条が単なる洗礼用の便宜的な定式から教義の根幹を規定する権威ある定式となると,それは典礼のなかに取り入れられた。西方教会では上述の〈ニカエア・コンスタンティノポリス信条〉のほか,〈使徒信条〉と〈アタナシオス信条〉(この三者を〈基本信条〉と呼ぶことがある)を洗礼および典礼で用いた。〈使徒信条〉は,使徒たちが作成したものと信じられていたが,実際の起源は不明で,この名が現れる最古の例は4世紀末のアンブロシウスの書簡である。〈アタナシオス信条〉も4世紀のアレクサンドリア主教アタナシオスにさかのぼるわけではなく,後代に〈ニカエア信条〉の影響下に作られたものである。その他,カトリック教会では信条に類するものが数多く作成された。たとえば〈ピウス4世の信条〉あるいは〈トリエント信仰宣言〉(1564)と呼ばれる信仰宣言は,トリエント公会議の決議を定式化したもので,教会関係者にはこの定式による信仰宣言が1967年まで義務づけられていた。プロテスタント諸教会についてみると,ルターはカトリック教会が用いた基本信条を認めながらも,信仰告白の形で新たな内容を付加した。〈アウクスブルク信仰告白〉(1530)がその例で,これらはのちにルター派の信条集としてまとめられた。またプロテスタント諸教会は信条を固定したものと考えず,時代と状況に応じて新たな信仰告白を作成している。日本では日本基督教団の〈信仰告白〉(1954)がプロテスタント諸教会の共通の信条として知られている。
→信仰告白
執筆者:森安 達也
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キリスト教会で信仰を明白に表現すること。または教会が教義のポイントを簡潔に成文化した定式をいう。信仰箇条、信経(しんきょう)ともよぶ。キリスト教徒は聖書と職制と信条を重要視する。古代、イエスが救主(すくいぬし)であるとのキリスト告白が教会の関心の中心であったが、宣教活動が展開され、諸儀礼の内容と解釈が整備される過程で、異教と異端との対決の緊張が作用し、信仰の対象を明確に文章化する努力がなされた。その結果、入信者教育の場で使徒信条の最古の形が自然発生的に成立した。信条は信仰告白であるが、信徒の生活規範の役割を果たし、信徒の同志的結合を強化する統合的機能を担い、三位(さんみ)一体論の教義の確立に寄与した。だが一方では神観念を限定化した。使徒信条、ニカイア信条、カルケドン信条、アタナシウス信条などを公同信条と総称する。宗教改革は信仰義認論の教説に関心の中心があった。多くの信条は信仰告白、信仰問答の呼称でもよばれ、信徒の信仰のあり方を主題とする信仰論が展開された。現代、信条は宣言(たとえばヒトラー政権に反対した1934年のバルメン宣言など)の呼称で制定され、国家権力に抵抗する教会論的性格を強くもつ。
[川又志朗]
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…象徴はきわめて多義的な概念であるが,ごく一般的には,たとえば鳩は平和の象徴であるとか,王冠は王位の象徴であるとかいうように,目や耳などで直接知覚できない何か(意味や価値など)を,何らかの類似によって具象化したもの(物や動物や,あるいはある形象など)をいう。〈象徴〉を意味する西欧語(英語のシンボルsymbolなど)の語源は,ギリシア語の動詞symballein(〈いっしょにする〉の意)からきた名詞シュンボロンsymbolonで,何かのものを二つに割っておき,それぞれの所有者がそれをつきあわせて,相互に身元を確認しあうもの=割符を意味した。さらに広く,何かを共有していることで,同じ共同体の構成員であることを示す場合にも用いられた。…
…キリスト教において信仰の根本を明確な言葉で表したもので,信仰の規準となり,礼拝文にも用いられるもの。カトリックでは〈信条〉と呼ぶ。旧約聖書の《申命記》26章5~9節は最古の信仰告白といわれ,イスラエルのエジプト下り,エジプト脱出,カナン侵入が歴史の支配者たる神の導きによるものと述べられている。…
※「信条」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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