顧客向けに資金を貸し出す金融機関が融資を回収する権利を売却するなどして他の金融機関に移すこと。金融機関同士の経営統合や合併で競争が制限されると当局が判断した場合、問題を解消するための措置として実施されるもので、欧米では複数の例がある。支店や出張所といった金融機関の店舗ごと移す場合は店舗譲渡となる。国内では1990年代前半に実現した山陰合同銀行と旧ふそう銀行、伊予銀行と旧東邦相互銀行の二つの合併は、公正取引委員会が店舗譲渡を条件に統合を認めた。
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たとえば,AがBに金銭を貸し,3年後に返済してもらうと契約したとする。この場合A(債権者)がB(債務者)に対する金銭の返還を求める債権を行使しうるのは3年後である。しかし,それまでの間にAが金銭の入手を必要とするようになった場合,AはBに対する債権をCに売却し,C(債権譲受人)から金銭を入手することができる。この場合,AのBに対する債権は,その内容を変えることなくCに移転する。このようにAとCとの契約により,債権の内容を変えることなく,移転することを債権譲渡という。もっとも,債権の移転は相続のように法律上当然に生じたり,裁判所の命令によって生ずる場合(転付命令)もあるが,契約によって債権が移転する場合のみを債権譲渡という。
債権譲渡により債権者は債権の履行期を待つまでもなく,その前に金銭を入手(投資の回収)することができ,譲受人が新たに投資に参加することとなる。たとえば,投資として国債を購入した者が,これを売却して投資を回収するのは,法律的に見れば国に対する債権を他に譲渡しているのであり,このような債権譲渡は,とくに,手形,社債,国債といった証券と結合した債権について広く行われている。
このような投資の回収といった以外の目的にも,債権譲渡という方法が用いられている。たとえば,AがBに100万円貸すにあたって,Bに担保を出すことを求めたとする。この場合,BがCに対して有している売掛金(100万円)債権をAに譲渡し,返済期日までにBが支払えば,この債権はBに戻し,Bが支払わないとAが債権を確定的に取得するという契約をすることがある。BのCに対する債権がAの債権の担保(譲渡担保と呼ばれている)となったのであり,その方法として債権譲渡が利用されているのである。また,債権者がみずから債務者から取り立てることが適当でないなんらかの事情がある場合,第三者に取立てを依頼することがある。第三者が債権者として,債務者に催告して取り立てることができるように,債権譲渡を利用することもある。これを取立てのためにする債権譲渡と呼んでいる。もっとも,第三者に訴訟行為をさせることを主たる目的として債権譲渡が行われることは信託法11条により禁じられており,これにあたるときは,債権譲渡は無効である。
債権譲渡は,契約によって行われるが,この契約は,債権を譲渡する者(譲渡人)と譲り受ける者(譲受人)の間の契約によって行われる。したがって,債務者は契約の当事者でない。また,債権譲渡契約は売買・贈与として行われるが,法律的には売買契約・贈与契約とは異なる。すなわち,売買契約によって売主が買主に債権を譲渡するという債務を負い,その履行として債権譲渡契約がなされるのである。もっとも,債権売買という一つの契約がなされた場合,その契約のうちに債権の売買契約と債権譲渡契約の二つが包含されているとする見解と,それはあくまで売買契約にすぎず,別個に債権譲渡契約をなすべきだとする見解が対立している。なお,債権譲渡は債務者その他の第三者に対抗するためには,指名債権の場合は債務者への通知または債務者の承諾,指図債権の場合は証券の裏書・交付,無記名債権の場合は証券の交付が必要とされる。
債権には,金銭の支払を求める金銭債権だけでなく一般的に譲渡性がある(民法466条1項)。現代の社会では,債権も一つの財産と見て原則として他人に譲渡できることになっている。しかし,次のような場合は例外的に許されていない。(1)債権の性質上譲渡に適さないものがある。たとえば,特定の人を教育させたり,特定の人の肖像を描かせる債権のように,債権者が変わると債務者の履行の内容が変わるものについては債権譲渡をなしえない。また,債権者の変更によって権利の行使に著しい差異が生ずる場合にも許されない。賃借権・雇主の労務者に対する債権のように明文の規定(612条1項,625条1項)でこれを許さないとするものと,民法に規定はないが解釈により禁じられているもの(たとえば,委任契約上の債権)がある。(2)債権者と債務者の間で,譲渡をなしえないとする契約をした場合にも譲渡性がない(466条2項本文)。たとえば,銀行預金にはこのような特約がつけられているのが通常であり,したがって預金者が第三者に預金債権を譲渡しても無効である。しかし,第三者が譲渡禁止の特約を知らないで譲り受けた場合には譲渡は有効となる(466条2項但書)。(3)法律が明文の規定で禁じている場合も譲渡性がない。もともとの債権者の生活保障という見地から譲渡を禁ずる法律が多い。たとえば,親族に対する扶養請求権(881条),恩給請求権(恩給法11条1項),災害補償請求権(労働基準法83条2項,国家公務員災害補償法7条2項)などがある。
→債権・債務
執筆者:高木 多喜男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
債権をその同一性を変えずに移転する契約。債権を一個の財産として取引の客体とするものであり(債権は原則として譲渡性を有する。民法466条1項本文)、現在の取引界においてきわめて重要な機能を営んでいる。債権譲渡は、債権者(譲渡人)と譲受人との間の契約によって成立し、債務者の意思関与を必要としない。しかし、譲渡を債務者その他の第三者に対抗するためには、指名債権の場合には、債務者に対する通知またはその者の承諾(同法467条1項)(指図債権の場合には、証券の裏書交付〈同法469条〉、無記名債権の場合には交付〈同法86条3項・178条〉)が必要である。この際、譲渡人が通知をしたにとどまるときは、債務者は通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由(たとえば、通知を受けるまでに譲渡人に弁済したなど)を譲受人に対抗できる(同法468条2項)が、債務者が異議をとどめない承諾をしたときには、債務者は譲渡人に対抗することができた事由があっても、これを譲受人に対抗できない(同法468条1項)。次に債権譲渡を債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付のある証書(たとえば、内容証明郵便とか公正証書)で通知・承諾をすることが必要である。だから、たとえば債権の二重譲渡の場合には、確定日付のある証書でしたほうが勝ち、両方確定日付のある証書でなされた場合には、日付の早いほうが勝つ。
[淡路剛久]
日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)には、債権譲渡の債務者および第三者に対する効力は、譲渡に係る債権(譲渡対象債権)の準拠法によるという定めだけが置かれている(同法23条)。
債権譲渡の債務者および第三者に対する効力以外の問題については明文の規定はなく、解釈に委ねられており、一般に、債権の譲渡性、譲渡禁止特約の効力などは譲渡対象債権の準拠法により、他方、譲渡人と譲受人との間の譲渡契約そのものの成立・効力はその譲渡契約自体の準拠法によるとされている。なお、債権譲渡に類似している債権質の債務者および第三者に対する効力についても、質権の対象となっている債権の準拠法によるとされている。
[道垣内正人 2016年5月19日]
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出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…多くは請求,催告のような文書作成者の一方的意思表示を相手方に伝達するときに用いられる。債権譲渡がなされたときに,旧債権者が債務者に対して行う債権譲渡の通知または債務者が新債権者もしくは旧債権者に対して行う債権譲渡に対する承諾は,いずれも確定日付ある文書によってなされないと法律上不安定な効力しか有しないことがある(民法467条2項)。このため債権譲渡に関する通知・承諾の方法として内容証明郵便による確定日付が多く用いられる。…
※「債権譲渡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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